写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

トラブル発生

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新たな旅が始まった。
今回のツアーは太極拳師範の山田先生とお弟子さんたちの総勢24名。今までにパタゴニア、屋久島、利尻・礼文島と一緒に旅した気の知れた仲間たちだ。
成田から11時間ちょっとで定刻通りヒューストン空港へ着陸。でも次のペルー行きの乗り継ぎまではたったの1時間25分。以前までは2時間あったのに、タイムスケジュールが突然変更になり、いかにも危なっかしい。
成田で打ち合わせた通り、前の座席の人たちは後ろを待たず、皆が追いかけて落ち合う算段。みんなでESTAの列に並び、機械の前に立った。ヒューストンは最新の機器が並び、自身で指紋認証や写真撮影を行う。すべて滞りなく出来れば白いレシートに自分の顔写真が。やり方が違っていればシートに×の文字が大きく書かれる。それらを出口で持っていくと、×印の人は長蛇の列に並ばされ、他の人は簡単な質問を受けるだけで入国できる。
全員の機器操作をあーでもない、こーでもないと指示するが、ほぼすべての人が×印となってしまう。まぁ~慣れていないのだから仕方ないな。
僕は簡単な方から入り、これまた打ち合わせしたエスカレーターを降りた場所で皆さんを待った。最初に×で並んでいたレイコさんがすぐ現れ、順調に笑顔で降りてくる。
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あっちゃんが「てっちゃん、Iさんが指紋で捕まってた」と言われて一瞬肝を冷やすが、ものの5分ほどの豚箱(検査場)から出された。最後の方の山田さんも見えたので点呼するが、Hさんがいない。
「Hさん、早かったのに変ね?」と皆がざわつく。
豚箱か?と思ったがIさんに聞くと、いなかったとの返事。
そこで待つこと更に15分。電話がなった。
「もしもし、もう手荷物検査場で並んでいます」。声の主はHさん。
「えっ?」
頭が?になったが、次の瞬間、すべてが繋がった。
一番最初に、彼女は機械を操作し、×印ではない方から抜けて、待ち合わせ場所も抜けて、そのまま外へ出てしまったのだ。そこで待っていても皆が来ないから、外部から中へ入ろうと手荷物検査場にいる、というわけだ。
「分かりました、僕たちも向かいます」
慌てて、全員と一緒に内側からの検査場に入るが、長蛇の列。時間が無いと係員に叫んでも、とにかく並んで下さいの一点張り。一人二人なら、すみません、すみませんと前を押し分けていくが、23名の大所帯だとそれも叶わない。何度か電話をし
ていたHさんに繋がったのは5分後。
「もう、飛行機の中にいます」
「了解です。アテンダントさんに電話を代わってもらえませんか?」
受話器に出たアテンダントに、彼女と同じグループで、今、待っていたために遅れて、手荷物検査場で渋滞にはまっていることを伝えると、「あと3分で搭乗口が閉まります。今日は定刻通り出ます」の毅然とした態度。
「Hさん、すみません。僕たちは間に合いそうもないので、一人でペルーに行かれて、出口でひろちゃんと落ち合って下さい」と電話をきった。
予想外の展開だが、なんだか体がワクワクし始めた。
「一体神様は、どんな面白いことを用意してくれているのだろう」
トラベルの語源はトラブルというが、自身にふりかかるトラブルを嫌がると、それらはより大きくなって襲い掛かってくる。でもひとつひとつ丁寧に処理していくと、未来のトラブル適応力が養われることになる。
まずはカスタマーセンターに出向き、23名中22名がセキュリティーゾーンの渋滞のため乗り遅れたことを伝える。
出来そうな男性ジャックが頷きながら聞き、振り替え便を探してくれる。
「明日の同じ便は、10名しか空きがない」
またか・・・。この前もやったパズルが始まった。
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ユナイテッドエアライン(UA)で北米から南米のリマに飛ぶ直行便はヒューストンとニューヨークからしか存在しない。ニューヨーク線を調べてもらうと、明日は満席。では、ヒューストンからボゴタ経由と、パナマ経由を調べてもらうが、そこ
までは行けても、ボゴタ~リマ、パナマ~リマが満席だという。
「10名は明日の夜、残りの12名は明後日の夜に着くのでどうだ?」
冗談じゃない。それであれば、新たに12名分の航空券を買ってでも明日の夜に着かねばならない。
実を言うと、3日前に乗り換え時間がたったの1時間25分しかないので、万が一に備えて、ペルー旅行社の友人とシュミレーションを済ませていた。そのためには、どうしても明日の夜までにつかないとツアー自体が崩れてしまう。
新規購入は最後の手段。必ずなにか手段がある。
さがせ、さがせ。考えろ、考えろ。
ジャックの横に座っていたメアリーが、UA関連の会社で繋げないとパソコンを打ち始めた。
「そうそう、忘れていた。コパエアラインを使えば」
でも、そこも残席が3席のみ。
「アビアンカはどう?」
メアリーの言葉に、ジャックと目が合った。
アビアンカは数年前にUAのチーム(スターアライアンス)に入ってきた新鋭。探してもらうと「サンホセ経由でリマなら、12名分の空きがあるわ」とメアリー。
サンホセ。僕が長年、大切に温めていた国・コスタリカの首都だ。こんなことで、126ケ国目に足を踏み入れることになるとは。でも今はそんな事は言ってられない。すぐさま席を押さえてもらい、とりあえずは皆の航空券を振り替えた。
「僕らのスーツケースは、乗り遅れたペルー行きの飛行機に乗ってるんですよね?」
「そんなはずはない。セキュリティーの問題で乗ってない人の荷物は決して乗せないことになっている」
「本当?」
「間違いないと思うが」
調べてもらうと、やはりあった。1時間待てば出してくれるというので、皆で簡単な夕食を食べてから、荷物を返してもらった。
その足で、空港内の「マリオットホテル」へ。あまりに美しい玄関ホールに、皆うっとり。今日はゆっくり休んで、明日、皆でペルーへ向かいましょう。
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部屋に入って、ペルー旅行社の友人と最後の詰め。
「てっちゃん、やっぱり最悪のシュミレーションは事前にしておくべきだね」
まったくの同感です。
今朝、空港でチェックインすると、ビジネスクラスにアップグレード。というわけで、これから126ケ国目のコスタリカ・サンホセへ飛び立ちます。
  ノムラテツヤ拝
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最終日

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最終日は大雪になった。道は凍てつき、宙にはダイヤモンドダストが舞った。いつもの中華で最後の晩餐をして、飛行場へ。
荷物をリパッキングして、飛行機に乗り込んだ。
機体が雪雲を突き抜けた瞬間、雲の上には巨大な緑のオーロラが。最後の最後まで、女神様は見送ってくれる。まるで大きな手を振って、またいらっしゃいと呟いているような。
その光はアラスカからカナダまで続いた。
5日の内、3回もオーロラが踊った今回の旅。
皆様の心にどんな光が灯ったのかな?
これからの人生で、何かにぶつかったとき、きっとこの光が後押ししてくれる。そんな力になってくれることを祈ります。
全員、成田空港着。オーロラの旅が、無事に終了した。
        ノムラテツヤ拝
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森の声

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「みんなで円陣を組んで、写真を撮りたい」。
参加者のひとりS子さんの希望により、フェアバンクスまでの帰り道、車を止めた。
凍った川に雪が降り積もり、大平原のように見える場所。そこへみんなで下りていった。
クフッ、クフッ、っと足元から笑っているような雪を踏む音に心地よさを覚えながら、川の中心部で円陣を組んだ。
はるちゃんにドローンを飛ばしてもらい、真上から撮影。
いち、に、さん!!!
みんなで背中から倒れる。
ふわっっと雪が舞い上がり、目の前には大きな空が浮かんだ。
こんな時、僕がして欲しいことがひとつある。
童心にかえり、一通りはしゃいだら、少しだけ口をつむんでみる。すると、キーンとした静寂音が耳に響いてくるはず。フードを取って、さらに耳を澄ませる。今度は、雪がシャラシャラとウィンドブレーカーに当たる音が立体感を持って迫ってくる。やがてそこに風音が追加され、木々の揺れる音が、ありありと感じられる。
それが森の話声。
僕たちが地球に生かさせてもらっているように、森もまた今を生きている。ただ、彼らの声は小さいので、僕たちは話すのを止めて、耳を澄ませた時にだけ、聴こえてくる。
森の時間とひとつに重なり、その美しき声を聞くひと時。
そんな体験をすると、人間は自然を、地球を、好きにならずにはいられなくなる。
アラスカ隊の皆様、あなたたち一人が欠けたら、この時間は生まれませんでした。ここまで来てくれて、一緒に過ごしてくれて、どうも有難う。
ノムラテツヤ拝
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自然の聖地

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アラスカは光の宝庫だ。
午後はトウヒと黄金の世界が広がり、夕方になると真紅の絶景が大空へ描き出される。
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夜になれば、この旅一番のオーロラが七色に舞い、その下で我らオーロラ隊が極光を存分に浴びる。
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自然を愛する者は、世界中を回って、やがてアラスカにたどり着く。この地は、そんな雰囲気を醸し出す聖地なのかもしれない。
いつの日かアラスカに住んでみたいな。
旅の途上で強く想った。
         ノムラテツヤ拝
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ムースの影

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雪面にひとつ、またひとつ。
一本が二本になって、交わって、また離れていく。
アラスカの冬の醍醐味。それは雪面に付く動物たちの足跡だろう。特に水場近くには、多くのムースの足跡が交錯する。それらをジッと眺めていると、僕は無上の幸福に包まれる。
ムースがどのあたりの森から姿を見せ、どんな風に歩いて水を飲みにきたのか?それらが交錯しているときは、ひょっとして時間も重なり、2頭が顔を合わせた可能性はないだろうか?
頭の中で想像のムースを動かすと、突然目の前の森に生気が湧き上がる。そして生命の地図が、浮かび上がってくる。
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夕焼けが山を照らし、白樺やトウヒの木々を長く伸ばす。
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残念ながら本物のムースには出逢えなかったけれど、目を瞑ればすぐにムースを想像できた。
この森で彼らが静かに生きている。歩くたびに、パキッパキッと木々の折れる音が、森の中に響き渡るのだ。
            ノムラテツヤ拝
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