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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

ラストケツァール

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「テツヤ、お前、何かやってるのか?」
「何かって、ヤクとか?」
「違う、違う(笑)。2日連続こんな近くでケツァールに逢えるなんて、数年に一度あるかないかの珍しい事なんだ」。ガイドのオスカルが呆れたように言った。
そう、今日も早朝からケツァールを探しに森へ入ったが、最初の2時間はまったく見つけられなかった。でも遠くでさえずる声がしたので、追いかけてみると、樹上に雄と雌のケツァールの番が。雄には長い尾があり、メスには無い。色も雄の方が派手なのは、鳥共通だった。
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風が吹くと、尾がひらり、ひらりと持ち上がり、波のような曲線を描く。
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その優美なこと。後方に踏ん張った瞬間、閃光のように飛び立った。
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その姿を狙うが、やはりフレームに入れるのが難しい。
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「そんなに私の飛翔する姿を撮りたいの?」とつぶらな瞳は、僕を見下ろし、またスッと消えるように飛び立つ。
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そんな風にして、2時間は遊んでもらっただろうか?
そろそろ帰る時間が迫っていた。
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「オスカル、有難うね。コスタリカ、とても気に入ったからまた来るね」
「待ってるぞ。テツヤが来ると、ケツァールも不思議なほど近くに来てくれるからな。で、どんな魔法を使ったんだ?」
「何もしてないよ。ただケツァールに、愛してるよーってありったけの想いをぶつけただけ」
神の鳥に頭を下げて、僕は車でコスタリカのサンホセ空港へ向かった。
中米のポテンシャルは、予想した以上に高かった。まだ訪れていない国々を巡る旅は、まるで20年前の南米を旅しているような懐かしさがあった。
これで渡航した国は131ケ国、残りの62ケ国をひとつ一つ、コツコツと積み重ねます。
               ノムラテツヤ拝
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リスの後ろ姿

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部屋の大きなガラス窓から、小さな影が走った。
外へ出てみるが、何もいない。視線を上げると、樹の上に尻尾の大きなリスが。
しばらく観察していると、口いっぱいに葉っぱをくわえて、大地へ降りてきた。きっと、巣作りに励んでいるのかな? ピョンピョンピョンとリズミカルに跳ねるように駆けて行く。
その後ろ姿があまりに可愛すぎて。高速シャッターで飛んだ瞬間を狙った。
             ノムラテツヤ拝
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ハチドリの聖地

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スパンコールのように輝き、小さな羽が左右に開いた。
シャッターを押し、液晶に浮かび上がった写真を見て、確信した。
僕はここで負けたのだと。
世界一を決める2017年ナショジオ写真コンテストを覚えているだろうか? 僕の写真はハワイの溶岩滝、そしてガチンコの相手は花蜜を吸うハチドリの一枚だった。
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十字に見立てた作品は、いかにもキリスト教徒に受けそうな構図。撮影地はコスタリカと書かれていた。
撮影者は、この地で花にやって来るハチドリをひがら狙っていたのだろう。素早いハチドリも、しかるべき設定で、呼吸を合わせていけばなんら難しい撮影ではない。ものの20分ほどいただけでも、十字のように写真が数々と生まれた。
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世界は広いな。こんなにも簡単にハチドリを撮れる場所があるのだから。
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ブーン。ブーン。まるでハチが舞っているかのような羽音が耳元で響き、横を見ると、ハチドリも小さな瞳でギロリとこちらを観察していた。
             ノムラテツヤ拝
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ケツァール

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飛び立つと、赤いお腹がキラリと輝いた。
ポン、ポン、まるで音符を刻むように、スイングしながら飛び対岸の木へ。
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だから最初に出逢った時に、僕の視界から消えたわけだ。
飛び上り、潜り、また羽ばたいて飛びあがる。まるで宙に波を描くように飛んでいく。はっとした。手塚治虫の火の鳥のモデルになったのがケツァール。そういえば、火の鳥もそんな風に飛んでいったっけ。改めて、日本ナンバーワンアニメーターの力を思い知った。
飛んでいる姿を撮影したい。ケツァールを見て、その想いが強くなった。観察していると、飛ぶ前に、必ず一度後方に踏ん張ることが分かった。後は、マニュアルに切り替えて、呼吸を合わせるだけ。
来た。枝から離れ、真っすぐこちらへ。
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ファインダーの中に、火の鳥が出現した。
             ノムラテツヤ拝
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神の鳥

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コスタリカに来た目的。それは世界一美しい鳥をこの目で見ることだった。
「ケツァール」。マヤ・アステカ文明でも、「ケツァール・コアトル神」として描かれてきた聖なる鳥。和名は、カザリキヌバネドリだ。
世界広しと言えども、ケツァールの生息地は年々狭まり、今ではもうコスタリカの一部でしか見られなくなっている。ガイドのオスカルが言う。
「この前、グァテマラ人たちがケツァールを見に来てね」
「えっ、本場の?」
そう、おまえたちの国鳥だろって茶化したら、残念だけれど、グァテマラではもう殆ど見られないと肩を落としていたよ。
早朝5時30分。まだ薄暗い中、オスカルと共に森の中へ。
「テツヤ、聴こえるか?」
耳を澄ませると、子犬が鳴いているような音が響いてくる。
「クン、クン、クン、クン、クーン」
頷くと、「あれがケツァールの鳴き声だ」と教えてくれた。動画で記録したので、ぜひこの愛らしい声も聴いて欲しい。
http://bit.ly/2ZorGTd
「あっ」
それは一瞬だった。木々の上を1羽、また1羽と飛び去っていった。これがケツァールとの初対面だった。
オスカルは熟練のガイド。周りの牧場と話を付け、もし早朝にケツァールを見かけたら、彼の元へ連絡が来る手筈。
「ウィリアムから連絡があった。行くぞ!」と場所を変えた。
宿から20分ほど森を走ったところに、広大な牧場が。ニコヤカな笑顔と共に牧場主のウィリアムが待っていてくれた。
「さっきまであそこにいたんだが、森の中へ隠れてしまって」
3人でその森へ進んでいくと、突然、オスカルが声を上げた。
「前方だ!」
森から真っすぐ僕らの方へ影が見えたかと思うと、消えて、そしてまた頭上で影が通り過ぎていく。
「間違いない、雄のケツァールだ」
僕には全然見えなかった。そして何故、視界から消えたのかが不思議だった。飛び去った先は、視界の開けたアグアカティーヨの木。望遠レンズでピントを合わせた瞬間、僕の存在は溶けそうになった。
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ピカピカに輝く頭のとさか、長い尻尾。そして角度を変えると、色がグリーンからブルーへ変わる体躯につぶらな瞳。一目見て、昔の人がこの鳥に神を見た意味を知った。
ノムラテツヤ拝
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