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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

リマ観音

美代子さん

初めて一眼レフカメラを持ったのは10歳の時、それから35年間日本中、世界中を撮影してきたが、ファインダー越しで
最も美しかった人、それはペルーの天野博物館館長の天野美代子さんだった。
僕が27歳のとき、73歳だったのだが、美しいばかりの外見だけでなく、内面の性格もまさに観音様。後光がさしているような、その御姿に、僕は知らぬ間に手を合わせていた。
その美代子さんが、昨夜、天へ戻られた。
若かりし頃から、いつも気にかけてくれ、美味しいごはんと、心がポカポカするような笑いと安らぎを与え続けてくれた美代子さん。ようやく離れ離れになっていた愛する旦那様の天野芳太郎さんにお会い出来ますね。一度、僕の夢に天野さんが出てきて、「うちの美代子を撮影してやってくれ。美代子は今生で人間としては最後の魂だから」
美代子さん、そちらの世界はどんな感じですか? 芳太郎さんは笑いながら迎えにきてくれましたか? 僕も、今生を離れた時は、ぜひお二人と一緒に、食卓を囲みたいと願います。死因は脳溢血からの肺炎で、静かに91歳の幕を閉じられた。
27歳の時に、書かせてもらった文章を、下記に載せます。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

『リマ観音』
二人で歩いた遺跡は数限りない。一緒にペルーの太陽に照らされながら、大地ばかりを見つめていた。トレジャーハンターのように、遺跡からの出土品を求めて。上品な顔立ちに、気品溢れる口調。天野美代子さんが微笑をもって話してくれる。
ペルーの首都リマには、宝箱のような博物館がある。日本人旅行者は必ず立ち寄ると言われる天野博物館がそれである。今は亡き天野芳太郎氏と、妻美代子さんが作った天野博物館。プレインカからインカ文明の土器、織物が所狭しと飾られているが、中でもチャンカイ文化の出土品には目を奪われる。ペルー海岸部の雨の少ない気候が幸いし、保存状態は極めて良好。そして何よりも驚くのが、そんな土器や織物を直に触らせてもらえること。千年前の息吹を、五感の全てを通して感じさせてもらえるのだ。こんな博物館が他にあるだろうか?
「昔の人々が使っていたものは触って初めて分かる。ガラス越しで見て何を感じるんだい? みなさんに触ってもらってこそ意味があるんだ」。更に入場料は開館してからというもの、一銭もとっていない。
「ペルーの大地が育んだ宝物を、どうして人からお金をとって見せることが出来るのか?」。これが故天野氏の持論だった。美代子さんは、そんな天野氏の昔話を風のように語ってくれた。
「あの人は遺跡に散乱していた骸骨に恋をしていましたのよ」。
自分よりも少しだけ早くこの世を去った人々から一体何を聞き、何を想像していたのだろう? 
彼と一緒に歩き、共に感動したものだけが得る強さを美代子さんは持っていた。背筋はピンと伸び、美しい雰囲気を悠々とまとっている。僕はこんな美しい人を今まで見たことがなかった。外見もさることながら、清流のような心の美しさ。芳太郎氏が発掘した、最も美しい出土品は「美代子さん」では?と言われるのも無理なかった。
館長として博物館の維持に全力で立ち向かっている美代子さん。今まで何度と無く存続の危機があったと彼女は言う。
「もう駄目・・・と思ったとき、必ず誰かが助けてくれるんですね。今日までそんな風にして生かさせてもらってきました不思議ですね。ほんとに」。
博物館の従業員も、美代子さんに魅せられ今を全力で駆け抜けていた。そんな流れを感じながら、天野博物館は心と心が繋がりあう宝箱のように光り輝いて見えた。
「毎日天野にお祈りしています。ありがたい、ありがたい、今日まで生かせて頂きありがたいことですよ」。
誰から美代子さんをこう形容したのを思い出す。リマに住む神様、「リマ観音」だと。
話が終わると、庭で美代子さんを撮影させてもらった。ファインダーの中に、深い愛情が映り始める。
「こういうのって恥ずかしいですね、ほんとに恥ずかしいですね」と頬はどんどん赤くなってゆく。シャッターが一枚二枚とおりるに連れて、どんどんうつむいていってしまう。そしてまたファインダーをちらっと見てくれるときの目が愛しかった。撮影が終了。
「はぁ~恥ずかしいですね。遺跡の穴にでも入っちゃいたい気持ちです」
               ノムラテツヤ拝
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インカの聖殿

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過去10年間、日本人が行ってみたい世界遺産の堂々1位は、ペルーにあるインカの聖殿「マチュピチュ」だ。今日、数えてみたら、今まで訪れた回数は33回。阪根ひろちゃんは、100回を軽く超えているから、今生で追いつくのは難しいかな。
毎度、毎度、マチュピチュは素敵な姿を見せてくれるが、最も印象に残っているのは、やはり一番最初に出かけた時だろう。
今から24年前、21歳の僕は、なけなしの金を握りしめ、マチュピチュ直下の安宿にいた。夜の3時起床、漆黒の闇の中を歩き始め、インカ道を1時間ほど直登した。4時に入口へ到着し、門番が早めに開けてくれたと同時に入場。
息を切らしながら坂を登っていくと、眼下に霧の立ち込めたマチュピチュが広がった。東から西へ、まるで遺跡を舐めるかのように、純白の霧がゆっくりと流れていく。憧れの地でその静謐さと神秘さに見入ったのは勿論、その妖艶な姿を存分に見せてくれるマチュピチュという存在に深く心を揺さぶられた。
あれから毎年1回か2回、このインカの聖殿に詣でさせてもらっている。マチュピチュは、歴代皇帝たちの墓であり、様々な儀式が執り行われた夏の離宮。
この自然に溶け込むような設計は、インカ時代以前(プレ・インカ)の人たちが作ったことが最新データで証明された。
科学がひとつずつマチュピチュのベールを剥がしていくことで、また一つ、二つと新たな謎が深まっていく。世界で最も偉大な遺跡のひとつ、それがマチュピチュだ。
              ノムラテツヤ拝
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天からのギフト

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真っ青な空にハロ(暈)がかかる。
虹色はどんどん強くなり、やがてその上に白きリングが現れる。神々が身につける「天空のパールリング」だ。
「綺麗、美しい、有難う」
パタゴニアに住む先住民の友ハインが、虹の出し方を教えてくれたっけ。
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「心をまっさらにして、大きな虹を描く。そして綺麗、美しい、有難うって強く念じるんだ。僕たちの内側と外側は常に鏡のように繋がっているからね」
想い始めて20分、ようやくその瞬間がおとずれた。僕と空が互いに吸い、吸われ、存在自身がゆったりと溶けていく。意識が無意識へ移動したとき、カシャンとシャッターが切れた。
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「天からのギフト」
僕はただ、美しき七色のプリズムをシャワーのように浴びた。
           ノムラテツヤ拝
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海のなかまたち

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よちよち歩きのフンボルトペンギンが次々と海へ飛び込んでいく。赤岩の上で休むのは、南米大陸みしか生息しないオタリアたち。海から上がってきたばかりの彼らは、それはそれは滑らかな体躯を惜しげもなく見せてくれる。
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英語では、シーライオン(海のライオン)。ヒレのような手足を器用に使い、体中をピタピタと綺麗にする様は、まるで毛繕いのよう。遠くの砂山はカツオドリで埋め尽くされている。
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「皆さん、ツイてますか~?」
見上げると、鳥たちが白い糞を僕らへ投下し始めた。
              ノムラテツヤ拝
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天空の瞳

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スペイン語で「弧」を意味するバジェスタス。
「ペルーのガラパゴス」と呼ばれるこの島は、海洋生物と鳥たちの楽園だ。
船からでしか見ることの出来ない地上絵「カンデラブロ(燭台)」に歓声を上げながら進んでいくと、やがて細長い島影が見えてくる。海食によってできたトンネルをくぐると、広大な空が待っていた。
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太陽の周りにまあるい暈(ハロ現象)が現れ、外側にはモルワイデ図法のような楕円形の複虹が。
まるで太陽という瞳が、僕らを天空から見下ろしているよう。
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そう、自然界はいつでも、どこでも僕らを見つめている。目を離すのは、僕たち人間の方なのだろう。
              ノムラテツヤ拝
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