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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

訪問者

ギィギィギィ、ギィギィギィ。
なんだ、夢か?
朝、聞きなれない物音に目が覚めた。
ぼんやりした頭でもう一度音を聞くと、それは玄関の扉を誰かがひっかく音のよう。
気にせず寝ようとすると、カンカラカーンと何かが転がる音。
慌てて飛び起き、玄関の戸を開けようとすると、右手の台所の窓に物影が。視線が合うこと3秒くらいだっただろうか?
大きなマゼランウッドペッカーが、台所の窓につかまってドラミングを始めた。
「わわわ、割れる」
家の中にいる僕の姿が見えたのか、次の瞬間キツツキは大きな翼を広げて、近くに木へ飛び立った。
玄関のドアを開けると、朝の斜光が森をすっぽりと包みこんでいた。
クァァ、クァァ。
木の上から僕を見下ろし、キツツキがなく。
そして首の関節を心配をしてしまうような、高速のつつき。ドラミングとはよく言ったもの。
ほんとドラマーが高速でバチを打っているように聞こえるのだから。
外から台所の窓を見て納得。
周りの森がガラスに映り込んで、まるで木がここにあるかのように見える。
この幻の木を、目の前のキツツキは狙っていたのだ。
キツツキは、ドラミングをすることで幹に穴をあけ、中にいる小さな虫を食べている。
しばらくすると、今度は背の高い木へ移動し、クァァ、クァァとなく。すると、別の茂みから、クアァ、クアァと応答が。多分メスがオスの呼びかけに応えたのだろう。
マゼランウッドペッカーは、雄の極めて派手。顔の部分が赤い。赤というより深紅、ワインレッドといった方が良いかもしれない。対してメスは真っ黒。
自然界は人間以外、殆ど雄の方が派手に作られ、鳥類はその傾向が顕著に見られる。
我が家の森には、いろいろな動物が生息する。馬、牛などの家畜はもちろん、野生動物だとキツネ、鹿、ウサギ、ネズミ、キツツキを始め数十種類の鳥、そして夜になればフクロウの姿が見られることも。
外のデッキに出て、耳を澄ませば、ミツバチの羽音が重低音で響いてくる。
花の蜜を吸い、せっせと蜂蜜を作っているのだろう。
そう言えば、昨日作ったパンケーキの上に、今年出来たばかりの蜂蜜を塗って食べたっけ。
自然の恵みに感謝しながら、旬のものを頂く幸せを、切に感じる今日この頃です。
                                    ノムラテツヤ拝

ジャイアントウッドペッカー(

マゼランウッドペッカー(c)
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パタゴニア | コメント:2 | トラックバック:0 |

約束

去年の10月、北海道の蘭越町で講演させてもらった夜、友人のHさんから手渡されたものがある。
「ほんと、良かった。今日、これを渡せて。これで私の肩の荷もおりるよ」。
目の前には、大好きな森岡ママの遺影。
「ママはさ、テツヤの住んでるチリの森が見たい見たいって、病床でずっと言ってたさ。もう旅行は無理だったけれど、最後の最後まで、そう言ってたんだ」
Hさんの手のひらには、半透明のフィルムケースが。
「これ、ママの遺骨、チリに持って行ってくれるかな?」
その言葉を胸に、僕はパタゴニアの森まで、ママの遺骨を持ってきた。
そして今日、その日がやってきた。
天候は晴れ。オソルノ山に雲がたなびき、緑がピカピカと輝いている。
デッキへ出て、フィルムケースに入ったママの遺骨と、赤ワインをグラスに注いだ。
手を合わせ、目をつむる。
「ママ、大好きなパパと一緒にいますか? 今もパワフルに楽しまれていますか?ママ、本当に有難う。あなたがいてくれたから、僕の今があります。全ての人がいてくれたから、ママに逢えたんですね。有難うございます」
さっきまでの静かだった森に、風がサワサワと吹いてきた。
森を駆けたかと思うと、やがて強風になり、葉をザーザーと揺らす。
それに合わせて、葉に当たる光も乱反射した。
自然に生かされていることに感謝する。
ママが、もう、すぐそこまで来ているのが分かった。
まぶたの裏がプラチナ色に光りだし、明滅が始まる。
「てつや、楽しかったなぁ。一緒にジョイント講演した北海道。楽しかったなぁ。これからも一緒に楽しくやっていこう」
懐かしいママの声が、腹の底から聞こえてきた。
涙が止めどなく溢れ、にじむ風景に視線を移すと、青空にママのウィンクした顔が見えたような気がした。
「ごめん、ママ。僕の間違いだね。天国と現世、ここに境を作って分けてるのは僕の方だね。天国も今のココも、すべて同じ土俵。一緒だし、繋がっているんだね。ママ、でもこの世で持っていた肉体を使って、このチリの大自然を育んでくれないかな。そして僕をこれからも見守ってくれないかな。心も体も魂も」
雲がたおやかに流れ、その形は、ママが空を飛んでいくようだった。
「てつや、生命はひとつ。全ては1つから出来ているんだから。自分への感謝が出来たら、次はその奥へ感謝することを忘れずに。そうすれば今よりももっと全てが近くなり、引き寄せる。そしてなりたい自分になれるから。ママと一緒に楽しいことをしよう。笑える毎日を過ごそう」
手を合わせると、手のひらと中指の先がポッと熱くなる。
「ママ、取り出すね」
お神酒のワインに指を突っ込み、まずは天の神へ、そして大地の神へ赤ワインをまく。
インカ文明式の正式参拝。パタゴニアのすぐ北は、もうインカ文明だから。
小さなフィルムケースの蓋を開けて、中に入っていたペーパーナプキンを取り出す。
それをゆっくり開けると、中から2粒の骨のかたまりが。
迷わず口に含むと、味は無味だけど、カルシウムのようなゴリゴリした感触が広がった。
2噛み、3噛みすると、また、ママの顔を浮かんでくる。
「てつや、ママと一緒に楽しくいこうや」
ふらつく足で、僕はデッキを降りて、遺骨の半分を大地にまいた。
土の上に落ち、それらはまた輪廻の旅に出る。
全てのものは、巡り、廻り、1つの方向へむかってゆく。
生きて死に、死んで生きる。それらを繰り返し、奥底にある大きな1つの生命と向かってゆく。
もうひと噛みする。
舌の上から喉へ。そして僕の体へ落ちてゆくママの骨。
「楽しいことをいっぱいしていこう」
出逢いの力を想う。
「縁」とは、誰かがいたから知り合ったのではない。
全ての人がいたから、その人に出逢う。出逢う人の全てが、今を作り上げてゆくのだ。
生きるとは、すなわち縁。
きっと、そういう風になっているのだろう。
オソルノ山の前に、雲が通り過ぎてゆく。
真っ赤なフォスフォリータの花が風に揺れ、あたりのエネルギーが変わったのを感じた。
さっきまで、すぐそこに感じていたママの気が消え、森が無風になった。
「ママ、もう行っちゃったの?」
体を触ると、ママの気が、僕の体内から発していた。
大切な人、縁のある人は、全て自分の中で息づいている。
そして1つの方向へ、僕は向かうのだろ。
「楽しく、より自由に。 その先に周りの幸せを探しながら」
                               ノムラテツヤ拝

お神酒と遺骨(c)2
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真夏の雪

真夏に雪が降る。
一番暑いはずのこの時期に、オソルノ山に雪が積もった。
真夏の雪。
溶けかかっていた雪が、また純白の姿を取り戻す姿に、何とも言えぬ気持ちが沸き起こる。
温暖化は温暖化で進み、反対に寒冷化は寒冷化で進む地球。
何だか不可思議な思いに囚われている。
氷河隊の疲れも完全になくなり、体にもいつも通りのキレが戻ってきた。
完全復活!!!
パタゴニア時間の午後9時半に、姫の携帯に電話をしてみる。
「もしもし」
「キジですが」
「あっ、てっちゃん」
「今、どこですか?」
「サントリーホールに向かってるタクシーの中、小林さんと大谷さんがいてくれるの」
今日は、姫の大切な大切な日。
サントリーホールで、キムシンさんとジョイント講演。
「姫、緊張してる?」
「してるよぉ~」
その声を聞いて、今日サントリーホールに来てくれる全ての人が幸せになるだろうなと実感、そして確信した。
今日、サントリーホールから、沢山の光がばらまかれるのだろう。
姫、みなさんが、あなたを想う全ての人が、あなたの背後についていますから。
日本の真裏、チリからサントリーホールでの大成功を願っています。
全ての神々へ、全ての大自然へ、全ての生けとし生きる者へ。
どうぞ、講演する姫へ、そして講演に集まってくれる人々へ、あらん限りの光を与え下さいませ。心から感謝しています。
                               ノムラテツヤ拝

オソルノと月(c)
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ペンギンの楽園

今日は南へ。
プエルトマドリンから 左手に大西洋を見ながら、200キロほど下ると南米最大のペンギン営巣地がある。
名は「プンタトンボ」。
今から10年前、僕は初めてここを訪れ、あまりのペンギンの多さにあっけにとられた。
地球上にこんなにペンギンがいるところって他にあるのか?
目の前には100万羽のペンギンが、優雅に暮らしていた。
バルデス半島は、ゾウアザラシに近づけなくなり、時代と共に面白い場所はどんどん減少している。日本もしかり。あの知床の滝温泉、カムイワッカの瀧も去年から入場禁止になってしまったのだから。
プンタトンボも、ペンギンとの境界線が作り上げられて近づけなくなっているのでは?
そんな不安をよそに、プンタトンボは、春の今、35万羽のペンギンに埋め尽くされていた。少しばかり早くフライング気味に産まれた子供は、茶色い産毛を風に揺らし、母親が必死になって餌をあげる。寒流と共に生きる白黒のフンボルトペンギン。
ゲートをくぐって、乾燥した浜辺を歩くと、もうペンギンの楽園が広がる。
浜を見下ろすビューポイントまで歩くと、眼下からはドーンとお腹に響く波の音、まあるい石に波があたり、鳴き砂のような満ち引きの音。ペンギンは沖に出るものもあれば、戻ってくるものも。波ひとつとっても、ペンギンにとっては大変そう。
キラキラと石砂が光り、海藻の打ち上げられる浜をペンギンは歩いてゆく。
空にはオウトウゾクカモメが、舞い、ペンギンの卵を狙う。
それを必死に守るペンギンのお父さん、お母さんたち。
それにしても、なんでペンギンってこんなにお尻を振りながら歩くんだろう。
漢字で書くと、ペンギンは「人鳥」と書くのも頷けた。
フリッパーを広げて歩くのは、バランスを取るのではなく、温度調整。暑いときはフリッパーを広げ、熱を放射する。今日は更に暑いのだろうか?犬のように舌まで出している。
エメラルドグリーンの大西洋が広がり、空は快晴。極上の日だった。
子育ての姿を見るかと思えば、珍しく喧嘩をしている姿に目をまるくしたり。
ペンギンはリーダーがいない動物として有名だ。誰が偉いとかそういう感覚そのものが無いのだ。
小さな湾のような場所では、まるで子供がプールで遊ぶように、ペンギンも楽しそうに遊んでいた。帰り路にはグアナコとペンギンが一緒にいる風景に感嘆し、人なつっこいペンギンたちと友好を深めた。
気温は昼28度まで上がり、額に汗がつたう。
パタゴニアに夏がやってきた。
                             ノムラテツヤ拝

ペンギンの楽園(c)

ペンギン家族(c)

プンタトンボ(c)
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サンセットクルーズ

パタゴニアに、奇跡の場所がある。
大西洋に付き出す動物の聖地「バルデス半島」がそれだ。
バルデス半島の付け根にある“プエルト・マドリン”にバスで早朝に到着。
予約していたパタゴニア・ユースホステルに荷を下ろし、一日ぶりのシャワーを浴びた。
予定では、今日はリラックス、明日はバルデス半島、明後日はプンタトンボと決めていたがインターネットで天気予報を見ると、なんと明日は雨になっている。
急きょ、予定を変更。
急いで、階下へ降り、宿の主人ガストンに聞く。
「バルデス半島から出る午後のボートってある?」
「午前の方が安いけれど」
「値段じゃなくて、自分は写真を撮りにきたんだけど、例えばスペシャルなボートとかは無いかな?」
ガストンはまかせておけと胸をたたき、すぐにボートの発着場「プエルト・ピラミデ」へ電話してくれる。
「今日の午後、それもスペシャルなボートっていうのは何かあるか? おぉ、それはボニートだ。また後で電話するよ」ガストンは、揉み手をしながら、話し始めた。
「去年から、夕日を見ながらのゾディアック・クルーズツアーができたみたいで、今日はよく晴れているから、やるそうだ。参加するかい?」
「うん、でも、どうやってプエルトピラミデまで行けば良いのかな?」
プエルトマドリンの町から港のプエルトピラミデまでは約100キロ、バスは一日一便あるが、もう出発した後だった。
「レンタカー!」。二人同時に叫び、ガストンは電話帳を片手に番号を押した。
ひとつ、またひとつ。ノー、ノー、ノー。
バルデス半島は観光シーズンの真っ盛り。どのレンタカー会社も今日使える車は無かった。
あきらめない。
「もう一度、この電話帳の一番上から、かけて欲しい」
僕の想いを汲んでくれ、ガストンは、また番号を押す。
そしてレンタカー会社に繋げて最後の18件目、「ある」との答えが返ってきた。
ただし、予約は出来ないから、欲しかったら今すぐに来いとのこと。
こういう時、諦めずに、それも最後の会社でレンタカーが見つかるとき。
間違いない。こういうタイミングの流れは、必ず自然が扉を開いてくれるときなのだ。
自然が、バルデス半島が今日、呼んでくれているのだ。
そう確信するとすぐに身支度を整えて、慌ててレンタカー会社へ駆け込んだ。
残り一台が、僕らを待っていてくれた。
契約を結び、レンタカーで1号線を北上。そして途中から73号線に入り、バルデス半島へ入ってゆく。入場料45ペソ(1500円)、車の入場料5ペソ(160円)を支払い、中へ入る。
ここは、1998年、世界遺産にも認定されたから、料金が5倍くらいに跳ね上がっていた。
国立公園事務所で、簡単な地図をもらい、船の出るプエルトピラミデへ。ガストンに予約してもらったバウチャーを見せ、正式なチケットに変えてもらい、海鮮料理の昼食を食べた。
船の出港時間は18時ジャスト。
まだ時間は3時間ほどあったので、バルデス半島のプンタ・デルガーダへ行ってみる。ピラミデから78キロ。オフロードの道を砂塵を巻き上げながら進んだ。
実を言うと、バルデス半島には過去二度ほど来たことがある。どちらもペンギンの取材で訪れたので季節は真夏の1月と2月。その時はお金もない貧乏旅行だったので、レンタカーなんて勿論借りられず、格安の現地ツアーに参加して写真を撮っていた。もうちょっと、と粘ってもそこはツアー、時間の規制を受けて、悲しい思いを何度もした。
あのとき、ペンギン以外で、感動したもの。それがゾウアザラシだった。
世界広しと言えども、あれほどゾウアザラシに近づける場所は、ここをおいて他には無いだろう。だって、ゾウアザラシの鼻先10cmくらいまで近づけるんだから。
今回も楽しみに、デルガーダへ行くと、駐車場に有刺鉄線が張られていた。
まさか・・・・・、悲しい予感は的中し、数年前から立ち入り禁止になっていた。
眼下に広がる浜辺には、2~3トンもあるゾウアザラシがゴロンと転がっている。僕が最後に来た五年前までは、ここからあそこへ降りて行けたのに。
波の音を聞きながら、唇を噛むしかなかった。
観光客が怪我でもしたのだろうか? それで立ち入り禁止になってしまったのか?
真相は分からないけれど、真実はひとつ。
世界中の面白い場所は、年々規制が強くなり、どんどんつまらなくなっている。
がっくりと肩を落としながら、まだサンセットクルーズが残っているのが、せめてもの救いだった。
5月から12月までの間、このバルデス半島のヌエボ湾に、クジラが集まってくる。
1月から4月までを栄養豊かな南極で過ごしたクジラたちは、子育てと寒さ対策のためにこの南緯41度のパタゴニア・バルデス半島へやってくる。ヌエボ湾にずっといるため、そして子育てのため、ボートを出せば、クジラたちに逢える可能性が極めて高い場所なのだ。それに子育て中は、子クジラがしょっちゅう息つぎのために、海面に上がってくるので、容易に見つけやすい。
18時、まだ陽は高いが、クルーズの始まりだ。
一日を通して、クルーズはあるけれど、通常は1グループが40人から50人。それに対して、サンセットクルーズは豪華そのもので、たったの18人だった(最大でも20人)。
そして船はゾディアックという小さな船を予定してたが、今回は風が少し強くなっていたので、通常のツアーで使う中くらいの船を使うという。つまりゆったり安定しながらクジラを見られるというわけだ。
ガイドのアンヘリカ先導のもと、ボートはヌエボ湾の最西部へと向かう。
途中、クジラの潮が、何個か見えたが、そんなのはお構いなし。
迷いなく、まっすぐ西へ向かう。
岸を出てから20分ほどたっただろうか?
遠くに4つも5つも潮の吹いているのが見える。一頭が大ジャンプ。しぶきがあがる。
おいおい、こんなにいるの? 船のエンジンが切られると、僕たちはそのクジラの群れの中へスーッと水を切って入ってゆく。
もう、あちこちに360度、クジラに囲まれている。
船のすぐ脇を通ったと思えば、船の下をくぐり、逆側へ抜け、今度は頭だけを出す。
クジラの行動は、何パターンかあるが、それらを以下に説明する。
まずはクジラの大ジャンプ。この迫力あるブリーチングという行動を間近で見ると、人生観が変わると思う。
次に頭だけを出してこちらの様子をうかがう、スパイ・ホッピング。
フリッパーを海面にうちつけるタッピング。
そして有名なクジラが潜るときに見せるテイルアップ(尾っぽが上がり沈んでゆく)だ。
船の周りには30頭~40頭くらい、いるだろうか?
もうクジラの背中に、船が乗っているみたい。
船の舳先で、写真を撮っていると、すぐ真下でクジラが潮を吹いた。それが風に乗り、僕の体を包み込む。
「くさっ」。
卵をたくさん食べた後の、発酵しきったおならの匂いがする。
そしてその香りは、僕を南極の旅に引き戻した。
南極の海で、クジラの潮をもろに全身に浴び、僕の服は即死。南極の零度の海で、洗っても洗っても決して落ちることのなかった、あの恐怖の思い出。あっちでも、こっちでも、クジラが船の真下から潮を吹いてくる。
たちまち、船は強烈なオナラ臭で、プロテクトされてしまう。
たまらず鼻を押さえている乗客もいる。
きっと、このクジラの臭さは、生態とも関係しているに違いない。
クジラは南極や北極の極地で夏の間、餌をふんだんに食べる。そして北半球なら例えばハワイ、南半球ならバルデス半島で子育てをすぐが、その間は絶食し、子供にひたすらおっぱいをあげる。自分の体の中の栄養を少しずつ、消化し、発酵させ、膨張させる。その時の発酵臭こそが、この潮の香りに繋がるんじゃないかと推測する。
潮を吹くときに、「ウェーーー、ウェーーー」と、うめき声をあげるクジラもいる。
周りのクジラは、全てミナミ・セミクジラ。ヒゲクジラの一種だ。
突然、目の前で大きなブリーチング。
一瞬、体がピタリと宙に止まり、スローモーションのように落下し、大量の水が爆発するように弾け散る。一度、ブリーチングが始まると、火がついたように、同じ個体が何度も何度もジャンプを繰り返す。
やがて陽が傾き、空も海もゴールドに色づいてくる。
クジラの潮が金色に浮かびあがり、逆光にテイルアップする光景は涙をさそう。
クジラが僕らを受け入れてくれ、健気に、一番美しい姿を惜しげもなく見せてくれる。
あっちで、ブリーチング。
こっちで、スパイホッピング。
クジラの歌が響き渡り、ゆっくりと海へ夕日が落ちてゆく。
落ちてからも、真っ赤に焼けた雲の向こうに、クジラが次々とテイルアップし、潜ってゆく。
間近でクジラのブリーチングを見たのは、南極とアラスカ。でも更にクジラの歌に包まれ、40頭ものクジラに囲まれたのは、このバルデス半島が生まれて初めての経験だった。
圧巻。
この凄まじいツアーが、数年後、禁止にならないことを祈り、僕はクジラたちに別れを告げた。「また必ず来るよ」と言い残して。
船からの帰り道、薄い雲がピンクに染まり、向こうの空はパステルの蒼色。
まるで夢を見ているような光景だった。
舳先に立つアンヘリカに「素晴らしかったね」と伝えると、アンヘリカは「今日は本当についてたわ。いつもは10頭から20頭くらいなのよ。今日はゆうに倍はいたわね。本当にラッキー。今シーズンナンバーワンね、素晴らしい日だったわ」
30分後、船は港へ到着し、終わりかと思いきや、レストランへ連れていかれる。
ここで、ケーキ、ピザパン、冷えた体に暖かいココアでもてなされ、最後はシャンパンで締め。ツアー料金は、通常(午前中やお昼のボート)の倍の200ペソ(5500円)。通常はクルーズ時間が1時間から1時間15分だけど、今回のサンセットはみっちり2時間40分だった。そしてこの泣けてくるようなサービス。
ほんと、噂どおりの素晴らしいツアーだと感動せずにはいられなかった。
今日の夢に、きっとクジラが出てくる。そしてクジラの紡ぐ、あの低いバイブレーションの歌声に、包まれるだろう。
                                  ノムラテツヤ拝

クジラ接近(c)

クジラと鳥(c)

クジラのテイルアップ(c)
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