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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

未確認飛行物体

大空を飛ぶ(c)

去年の夏、まだ住み始めて2ヶ月くらいだったろうか。
キャビンの周りの森を、アキコさんと歩いていた。
「うちの森のイチゴはまだ青いねぇ」とか「少しづつ夏が終わるねぇ」などと話しながら、問題のテリトリーへ侵入した。
空は透明感のある蒼で、斜光が森をキラキラと輝かせていた。
「あっ」
自分が空を指差すと、アキコさんもポカンと見上げた。
そこには、鳥で言えばハチドリのような、ホバリングしながら、体は全く動かさず横にスライド飛行してゆく物体が見えた。
鳥にしては小さいけれど、虫にしては大きい。
ヘリコプターのようなソレは、僕たちが見つめる中、森へ消えていった。
未確認飛行物体、まさにUFOである。
その答えが分かったのは、それから2週間後の事。
お隣さんの夫婦と話していたら、昨日、変な虫を道端で拾ったと教えてくれた。見せてもらうと、僕は吸い寄せられるように、その世界へ入り込んでしまった。
大きなハサミが2本、メタリックな体、長い触角、ガッシリした節足。
「これって? クワガタだよなぁ~」
「う~ん、でも、クワガタって2本もハサミがあるの?」
問題はソコだった。
上には、少しひんまがった巨大なハサミ、ミヤマクワガタのハサミよりも大きい。そして口元にもう一つの小ハサミ。まるで雌クワガタのハサミのよう。死んでいるとは言え、あまりにも奇妙なクワガタに、僕は何枚もシャッターを押した。
これでも、少年時代は昆虫大好きっ子だった僕は、岐阜の山でカブトムシやクワガタを取りまくっていた。今で言えば、まさに乱獲。だからこそ、余計にビックリしたのかもしれない。世界一のカブトムシ、ヘラクレスを初めて見た時の衝撃よりも更に大きかった。
あの前傾姿勢の状態での飛び方。虫としては大きいが、このクワガタなら十分考えられた。
目の前のクワガタは、ゆうに10cmくらいあるのだ。
チリクワガタ(c)

それから、クワガタ探しが始まった。
夕方、森の中を歩き回り、まず樹液を出す木々を探す。が、一向に見つからない。
ほとんどの木にはコケが付き、サルオガセが覆う。
クワガタは樹液に集まるんじゃないのか? 木々の樹液じゃないとすれば・・・・・。ここで、面白いのは、僕とアキコさんの視線の差だった。僕は常に上を見上げ、どこだ、どこだ、と殺気をたっぷり出しながら歩いている。対してアキコさんは、地面ばっかり見ている。
「探し物?」
「うん、落ちていないかなぁ~と思って」
「死んでるのを探してもしょうがないじゃん」
「まずは観察から始めたいと思って」 そして、アキコさんは次々に戦利品を積み上げてゆく。
クワガタのハサミ、足、下のハサミなど、地面に落ちているパーツを目ざとく見つけてしまう。
自分はと言えば、やっぱり空ばかり。
そして、運命の時がやって来た。
315番と書かれた土地近くの巨木が、逆光にきらめいていた。
目の前を何かが横切る。
今の季節は蜂が多いので、またそうだろうとたかをくくっていた、が枝の向こうに現れたのは、あの前傾姿勢の昆虫だった。
「ぎやぁ、いたいた」 もう、僕なんてオロオロ。
「どこどこ」
「あそこ、あそこぉぉ」
まるで2人を偵察するように、すぐ上を飛ぶ。やっぱり体は全く動かさず、横に滑るように飛んでゆく。
アキコさんが小さなデジタルカメラでシャッターを押した。
僕はと言えば、写真家なのに、カメラを持ってきてなかった。とほほ。
そして、クワガタは巨木の枝に止まり、葉の上で何かゴソゴソやっているのだ。
ジッとなんてしてられない。
すぐその下まで藪を漕いで、木や石を投げてみる。ひょっとして当たれば、下へ落ちてくるかもしれない。当たれ、当たれ。が、そんな僕の気持をあざ笑うように、クワガタはまた僕の頭上をかすめ、別の木へ止まってしまった。
そこから先は、姿を見失った。
ネットで調べてみると、希少種のチリクワガタだと分かった。
標本でも高く売れるらしい・・・・・。
すぐさま、敬愛するぺルー天野博物館事務局長の阪根博さん(以下ひろちゃんとする)に連絡をとってみる。
「きました、きました。今日、とんでも無いものを見つけました」
「おっ、何だか知らんけど、良いねぇ~」
「上下に2本ハサミのあるクワガタって、この世にいると思います?」
「いねえよ、そんなの」
今までのクワガタ経験を話し、希少種で標本が売れるかもと話した瞬間、ひろちゃんが言った。
「てっちゃん、航空券手配してくれよ。おれ、そっちに行って取りまくるから」
「で、標本にして売るんですか?」
「それも良いけど、卵産ませよう、卵」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「俺、数日中にペルーからチリに行くから、タモでも用意しておけよ」
あんなに盛り上がった話だったのに、もう少しネットで調べると、日本ではもう卵を産ませて、売っているお店があったのだ。ひろちゃんにその事を告げると、さすがにガックリきたらしく、捨て台詞を吐かれた。
「俺の人生で、昆虫って、何一つ関わりの無いものだから」
「僕、これから、もう一度探しに行ってきますよ」
「せいぜい、安いクワガタの写真でも撮ってこいよ」
そして、今年も、チリクワガタの飛翔するシーズンがやってきた。
習性を調べると、毎日決まった時間になると一斉に空を飛ぶ、とある。
毎日、毎日、森の中を散歩しているけれど、未だそんな光景を目にしたことは無い。
今日かな、明日かな?
しばらくドキドキする日が続きそうだ。
                               ノムラテツヤ拝
クワガタとオソルノ(c)
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テーマ:昆虫の写真 - ジャンル:写真

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