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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

世界の花園

ライオンと路上ウンチ(c)

20代後半、僕は阪根ひろちゃんと出逢い、ペルーの花園「ローマス」を何度も訪れた。
高山植物や野花には以前から興味があったものの、ここまで重点的に、ジックリと同じ花々を眺めたことはなかった。
ジャガイモの原種ソラヌムピンナディフィディウム、イラクサの仲間・黄色いロアザウレンス、ピンクのパラバ、そして大好きな青花のノラナガイアナ。
福音館書店のたくさんのふしぎシリーズで、「砂漠の花園」と題して、この自然が見せる魔法を一冊の本にまとめた。
世界中には、色々な花園がある。。。出来ればこの目で五感を通して感じてみたい。
そんなことを漠然と想っていた。
世界4大花園というものがある。ペルー、チリ、オーストラリア、南アフリカの4ヶ所。
去年世界一周旅行をした時に、ちょうど南アフリカ・ナマクワランドの花畑を見られ、心底大自然というものに酔わせてもらった。余りの素晴らしさに、帰国後、5つの媒体でその模様を発表した。
その時に書いた文章を以下に載せたい。

『600kmの花畑』
ケープタウンをレンタカーで出発。
道はすぐにハイウェイとなり、常時120kmの世界。
郊外へ出ると、緩やかな丘陵地が広がり、牛が闊歩し、畑には麦の穂が揺れている。
所々パッチワークのように、ひまわりの花が咲き、絞りたての蜂蜜が道の脇で売られていた。
ハイウェイ7号線で北上する。
遠くの山並みは、まるで重力に逆らうかのようにゴツゴツしていた。
南アの法定速度は、通常道路が80km、ハイウェイの減速場所が100km、その他は120km。
イングランドに統治されていた名残で、日本と同じく左側走行、道路などのインフラ整備は万全だった。2010年にはワールドカップも開催されるので、更に発展してゆくだろう。
南アフリカ第二の都市、ケープタウンは、海岸線に多様な動物を見渡せた。陸からでも鯨の潮吹きが眺められ、ペンギンがよちよち歩きで海へ出かけ、アザラシやアシカはうたた寝していた。
動物層の豊かさは海だけに限らず、陸もまたバラエティに富んでいる。
数日前、僕はヨハネスブルクから北に位置する国立公園と自然保護区へ出かけ、ライオン、ヒョウ、バッファロー、ゾウ、サイ、チーター、キリン、ヒヒ、サルなどを撮影していた。
サファリをすること4日目。
遠く、木の下で何かが動く。目を凝らしても色が白っぽくて良く分からない。
手持ちの望遠鏡で覗くと、眼前の光景に息を呑んだ。
「白いライオン」
“ジャングル大帝レオ”さながらの、真っ白いライオンがムックリと起き上がり、こちらを凝視しているのだ。
距離を詰めてゆく。間違いない。ホワイトライオンだ。真っ白い生き物は、ふつうアルビノ(メラニン色素欠乏症)と疑われるが、その違いは瞳の色で識別できる。アルビノは瞳の色素も欠乏するので、血管の色が浮き出て赤い目をしているが、双眼鏡の向こうには水色の瞳をしたホワイトライオンのオスが見える。たてがみが風に揺れ、いかにも骨太という体躯だった。
そして奥の茂みからは、子ライオンの姿が。お父さんライオンよりも、もっと真っ白。純白の毛がツヤツヤしていた。ホワイトライオンは希少種なため、通常のライオンと血が混ざると、どんどん黄土色の毛並みになってしまう。子供がこれだけ真っ白ということは・・・想像したとおり、別のブッシュから、真っ白いお母さんライオンが出てきた。
僕は祈るような気持ちで、シャッターを押し込んだ。
ホワイトライオン(c)

広い空の下、ハイウェイは直線から曲線へ。
峠を越えて、また次の山の麓へと向かう。テーブル状の山々が連なり、山肌には氷食地形が見てとれた。
南アフリカにやって来た一番の目的、それは今の季節しか現れない絶景を感じるため。
「砂漠の花園」
この自然現象が見られる場所は、世界広しと言えども、3ヶ所しかない。
一つはペルー海岸部からチリ・アタカマ砂漠にかけて。
一つは西オーストラリア、パース周辺の乾燥地帯。
そして、ここ南アフリカ、ナマクワランド周辺だった。
原住民・ナマ族が住んでいた場所を意味する「ナマクワランド」は、南アフリカとナミビアの国境沿いにある。 ケープタウンから560kmほど北にスプリング・ボックという町があり、8月,9月は周辺が花で埋め尽くされるという。
途中の村で撮影を開始。
オレンジ色のコスモスを地面すれすれから仰ぎ見ると、手を広げるようにして、太陽の光を燦燦と浴びていた。
近くにはマーモットの巣穴がポコポコと開き、岩山のてっぺんには南ア北部とナミビア南部にしか生息しないキヴァーツリーやハーフマンと呼ばれるバオバブのような木が、にょっきりと立っていた。
ケープタウンを出て7時間、今日の目的地スプリング・ボックへ到着した。夜はワイングラスを傾けながら、宿の主人ステインから色々な話を聞かせてもらう。南アフリカのベストワイナリーや、ワールドカップ準備のエピソード、そしてスプリング・ボック周辺に広がる花畑について。
霧雨の音で目が覚める。
シトシトと降り注ぐ雨を見ながら、南アフリカ産のルイボスティを啜った。
砂漠の花園は、砂漠や礫漠の乾燥大地に霧や雨の水分で、一年に一度、たった二ヶ月だけ花を咲かせる場所。夏は乾いて大地にひび割れが生じるスプリングボックの町も、冬から春にかけては、今日のような雨が降る。そしてこの水分こそが、砂漠に魔法をかけるのだ。
 午前中は炊事と洗濯。昼から出かけようとすると、空に晴れ間が少しづつ戻ってきた。
町唯一のインフォメーションセンターへ行き、旬の情報を教えてもらう。3~4ヶ所のビュー・ポイントを地図に書き込んでもらい、昨日ステインから教えてもらった場所と照らし合わせると、ほぼ重なった。
まずは、スプリング・ボックから北のナバビープ村へ。
村へ近づくにつれ、マリーゴールド色のマーガレットのような花が増えてくる。
「ナマクワ・オレンジ」。
花畑は、オレンジ色が主役だった。
太陽光が大地を照らすと、オレンジは発光するかのように激しく色づく。車を降りて観察すると、マーガレットは、花びらがダブルになっていた。
ナマクワオレンジは、どんどん勢力を拡大し、大地そのものを覆ってしまう。視界の150度くらいが、オレンジ色に染まった。
大地が光り、風が通ると足元全体が揺れる。山一面の花畑は、まるで一つの生命体のように見えた。
1時間ほど撮影して、ナバビープ村からオキエプ村、そしてコンコルディア村へ。オキエプはパンジーや黄色いランの花が咲き、コンコルディアは村そのものが色とりどりの花に埋め尽くされていた。庭が自然のガーデニングになり、その上に洗濯物が干されている風景は何ともオツ。花の種類が4000種もあると言われ、深呼吸すると、空気は花そのものだった。
花畑(c)
 
翌朝、一番でグーギャップ自然保護地域へ。
空は、ポスターカラーを塗りたくったような快晴。スプリング・ボックから東へ15kmほど行った所には、15000ヘクタールの敷地に600種の花々や45種類の動物、94種の鳥、数種類の爬虫類が生息しているという。 
入口のゲートを、8時に通過。7時半が開門なので、まだ観光客は誰もいなかった。
鳥の鳴き声は濃く高く、山々のずっと、そのずっと先まで花。世界は、花色の絨毯で覆い尽くされていた。
朝の香りに乗せられるように、スプリングボック(ガゼル)が駆けてゆく。尻尾の長いネズミが岩場に姿を見せ、すぐ隠れる。そして遂に、この保護区の目玉と遭遇。
ゲムズボック(英名・オリックス)が紫色の花に埋まるようにして眠っていた。乾燥地帯にしかいないオリックスが花に埋もれているなんて。前景に花園を入れ、オリックスを撮影。近づいてゆくと、ある一線を越えた所で、オリックスは立ち上がり歩き始めた。そして身軽に岩山へ登ってゆく。
歌舞伎役者の隈取のような顔に、1mはゆうに越す二本の長い真っ直ぐ伸びた角。横から見ると、ちょうど角が重なり一本に見えることから、オリックスこそが、伝説上のユニコーンのモデルだと言われている。
車へ戻り、更に奥へ進んでゆくと、車輪の轍まで花に覆われてくる。数百種類の花々が、互いにブレンドされ、上質な香りを放っていた。
動植物を色々な角度から撮影させてもらい、自然保護区を出る。そして一気に70kmほど南下した。
ここに1999年に制定された、新しいナショナルパークがある。
「ナマクワランド国立公園」
この花畑も素晴らしいよ!とステインから聞いていたので寄ってみると、正にこの世の極楽花畑だった。
1000ヘクタール全てが花となり、まるで巨大なブーケのよう。オレンジ、青、黄、ピンク、白、紫、朱色が、絶妙のバランスで混ざり合っていた。
花畑に寝転がると、受粉を助ける蜂やアブがせわしな
く花の蜜を吸っているのが見え、強風が吹くと必死にしがみついている。そんな何でも無い風景までも、僕の目を釘付けにした。
一陣の風が吹く。
花々に自分を投影し、そしてまた花を見つめる。
花は体をたおやかに傾け、僕を見つめていた。
花畑とガゼル(c)

今日は一気にケープタウンまで戻ろう。
ナマクワランド国立公園を離れ、南下すること50km。途中の町で、山が肌色に燃えていた。
あれって・・・・。
山全体が、またもや花に覆い尽くされていた。
数日前ここを通った時には、まだ真っ黒だった大地が、今は花色に燃えている。
理由は昨日の朝、降り注いだ雨。
雨が降り、陽光が差し、今日、一気に咲いたのだ。
花びらはピンと張り、生命が弾けるよう。日本の春、山菜摘みで感じる躍動感に、どこか似ていた。
行きは咲いてなかった場所も次々と開花し、ナマクワランドからの花道は、途切れることがなかった。
花はリレーのバトンを渡すように北から南へ生命を繋ぎ、その距離は全長600kmにも及んだ。
大空は紺碧色。
世界最長の花道が、アフリカ最南端・喜望峰まで続いていた。  (終)

去年はこのアフリカの花園に、父母も連れていった。
目を細め、喜んでくれる姿に、自然の奥深さを再確認させられた。
父母と花たち(c)

花のいのち
僕のいのち
天と地の間に溢れるいのちたち
花に僕のいのちをみて、僕に花のいのちをみる
その瞬間、僕は花に、花は僕になる
境界線はなくなり、しゃがんだ僕は大地、揺れる花は空になる
みあげるいのち、かがやくいのち
いま、ここに極楽浄土があらわれる
                                  ノムラテツヤ拝
極楽花畑(c)
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テーマ:花の写真 - ジャンル:写真

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