写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

大掃除

積雪(c)

連日の強雨が止み、雲の切れ間からオソルノ山の麓が姿を見せた。
頂上には分厚い雲がかかっているけど、中腹には一昨日から降っていたであろう新雪が積った。
ついに、冬の到来だ。
つい数日前に森の紅葉が始まったと思えば、山間部は一足早く大雪。
パタゴニアの自然の移ろいは、あきれるほど早かった。
遊びにきているチャチャを連れて、雨上がりに散歩をした。ひょっとしたら、これが最後になるかもしれない・・・と思うと寂しさが湧きあがってくる。チャチャは自由な犬。僕たちが森のキャビンを後にする日まで、ここに留まってくれるか分らないから。
今日は、大掃除の日。1年半、僕たちを包み込んでくれた、このキャビンを綺麗にした。アキコさんが台所や細かいところを手際良く片付けてくれ、僕は大きな窓を内側、外側と磨いた。いるものといらないものを選別し、1年半の間に貯め込んでいたものを、ゴミ袋に詰めた。
明日、明後日で洗車&洗濯、荷物のパッキングをしないと。
明々後日の朝、僕たちは森のキャビンを出て、パンアメリカンハイウェを1000キロ北上する。
長いようであっという間だった森の生活。
寂しさはあるけれど、また新たな未来が始まることにワクワク、ドキドキしている。愛嬌たっぷりのチャチャも、新たな素晴らしい出逢いが待っていることだろう。
チャチャ、また逢おうね。
森を元気に疾走するチャチャを見ながら、僕は静かに呟いた。
ありがとう。僕たちと出逢ってくれて。
                                   ノムラテツヤ拝
散歩道(c)
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博物館

股下のチャチャ(c)

秋を通り越して、冬がやって来た。
周りの自然は、葉っぱの先端が黄色や赤くなり、紅葉が一気に進んでいるけれど、バケツをひっくり返したような大雨が、連日連夜、降り続いている。
雨の日(c)

停電だけならまだしも、断水も頻繁に起こるようになってきた。チャチャも雨に濡れて、寒そうだ。
雨の音が好き。雨の多いところが好き。
大雨(c)

それはきっと、雨上がりの美しさに関係しているのだろう。虹が大きくかかり、植物は内から生命を発光させるから。こんな日はノラジョーンズの歌を聞きながら、ゆっくりと過ごしたい。美味しいココアがあれば、なおベター。
雨上がり(c)

昨日は、前から行きたかった小さなミュージアムに行った。森のキャビンから最も近い町はプエルトバラス、隣り合うようにヌエバ・ブラウナウの村がある。両方とも100年以上前にドイツ移民たちが作った村、町だけれど、ミュージアムには当時の生活用品が、一堂にかいされているという。いつも肉やソーセージを買うセシーナ・ジャンキウエの工場を越え、更に3キロほどゆくとポプラ並木の向こうに黒壁でMUSEOの文字が見えてきた。スペイン語で博物館の意味だ。
ミュージアム(c)

早速、中へ入ると館長さんが、ひとつひとつ説明してくれるみたい。こんな懇切丁寧な博物館は、楽しい。ペルーの至宝・天野博物館をはじめ、お客さんの立場になって考えてくれる博物館はありそうで、なかなか無い。
館長さん(c)

まずはこの村の歴史の説明がなされ、壁にかけられた昔の消化器や電話などを見てまわる。
消化器(c)

館内には、昔の時計や顕微鏡、椅子や農機具、コップなどの生活用品が陳列され、そのひとつひとつを質問形式で教えてくれる。
電話(c)

あるコップには、飲み口の内側に曲線の取っ手のようなものが付いている。
「これは男性用のコップなんです、この取っ手は何でしょうか?」
答えは「髭が濡れないようにするため」の取っ手だった。
そんな昔ながらの知恵、そしてドイツの職人気質の器具たちに、唸らずにはいられなかった。
館内(c)

それぞれの植物の絞り器もあり、ローズヒップの絞り器は現代でも即戦力になりそうだ。機械化が進み、最近は原始的なものが使われなくなったが、今見ても、それらはモノとして光り輝いていた。
絞り器(c)

巨大オルゴールや蓄音器からレコードの音が流れてくると、雑音の美を感じてしまう。今のDVDやCDには、聞きとれる雑音がほとんどない。でもレコードには曲の曲の間にも音楽の背後にもこの雑音が聞こえる。これが心を妙に落ち着かせてくれるから不思議。
「クリーンな無菌食堂と、小汚い食堂、どっちでご飯を食べるのか?」と選択を迫られているような感じだ。もちろん、僕は後者を選ぶのだけれど。
蓄音器(c)

130年前に、ここにドイツ移民がやってきた。この博物館にいると、その事実が、歴史が昨日の事のように感じられた。それは物の持つ力、使っていた人たちの念が、深く込められているからだろうか?
僕は夢心地のまま、博物館を後にした。
空からは今日も、雨が降り注いでいた。
PS、もう少しで森のキャビンを去る日がやってくるけれど、チリ最高のワインをひとつ紹介した。サンペドロが作っている「1865」というカベルネソービニオンのワインはコストパフォーマンス(日本円で1500円程度)も味も最高だと思う。もし日本で購入できるのであれば、是非とも飲んで欲しい一品です。でもやっぱり値段はチリの倍くらいするのかなぁ?
                                     ノムラテツヤ拝
1865(c)
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炎の力

強風(c)

停電だ。
日常茶飯事とはいえ、停電はいつも突然やってくる。
今日は、朝から黒い雲に覆われ、天気は下り坂。そこに追い打ちをかけるような停電だった。掃除機もかけられないので、午前中は文章を書こうとするけれど、家が底冷えして気分が乗らない。ヒーターを付ける事すら出来なかった。
霧の森(c)

しょうがない、ついに今年初めて、暖炉に火を入れる時がやってきた。暖炉内に、小さな枝を組み、それを取り囲むように、大きな木を入れてゆく。そこに火をつけると、今年最初の炎は勢いよく燃え上がった。シュゴー、シュゴーっと、定間隔で燃える音が部屋に響き渡る。外は雨が降り出し、すぐにスコールのような激しい豪雨となった。
なんだか去年の冬を思い出す。
毎日毎日豪雨。部屋は寒くなるので、常に火を絶やさずに焚いていたあの季節を。
火は木々を燃やし、無機物に変えてゆく。それを飽きずにずっと見ていた。
火は美しいと思う。
暖炉の火(c)

燃え方を見ていると、どこか氷河の透明感と通ずるところがある。だから、両方とも見ていて飽きることが無いのだろう。部屋はじんわりと優しく、でも確実に温かくなり、火の調整をしながら煌々と燃えている。そして外へ出ると、煙突から出る昇る煙の臭いがした。これも僕にとって冬の匂いだった。
午後15時くらいに電気は戻ったけれど、あまりの心地よさに、夜が更けるまで暖炉に火を燃やし続けた。
火は色々なことを教えてくれる。
暖炉の火2(c)

多様なものが、多様にある大切さを。
暖かさが、心の平穏と繋がっていることを。
火の声に、耳を傾ける時間。そんな時間を、これからも大切にしていきたいと思う。
                                 ノムラテツヤ拝
樹皮(c)
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夜の帝王

夜道(c)

夜の森には、様々な生命がひしめいている。
秋になり夜が早く訪れるようになると、夜の帝王が姿を現わす。
昨日も、車で夜の森を駆けていた。ライトを遠目にすると、森全体が怪しい薄黄色に浮かび上がり,
非日常的な風景になる。
その光の先を一羽の鳥が飛翔する。長い翼、小さな動体、色は茶色。
最初はファルコンだろうと思っていた。が、木から木へ飛び移る姿を見て、それが夜の帝王だと確信した。鳥類の中でも、食物連鎖の最高位にたつ帝王、それがフクロウだ。
我がパタゴニアの森には、日本にはいない(動物園にはいる)メンフクロウが生息しているのだ。顔がハート型になっていて、お面をかぶっているように見えることからメンフクロウ。それが、闇の中、ようやく枝に止まった。明かりを少しでもずらすとまた飛び立とうと構える。
写真を撮るには明かりが弱すぎた。
メンフクロウ(c)

もう少しだけ近づきたい。ソロソロと車を動かした瞬間、メンフクロウは音もなく闇の中へ消えていった。
飛翔(c)

パタゴニアに1年半の滞在する中で、メンフクロウに逢ったのはこれで6回目くらいだろうか? いずれも、一瞬の出逢いなのだけれど、森にフクロウがいてくれると思うだけで、背筋がピンと伸びる感じがするのは何故だろう?
世界中で、これほど賢い鳥の象徴とされる生命も珍しい。フクロウを賢者の神様と崇めているのは、日本だと筆頭は蝦夷。アイヌ人たちの信仰にどれだけ、このフクロウが出てくることか。フクロウは夜行性の生き物。夜に見るから余計に神秘性が湧くのかもしれない。
でも、僕はまだ見ていないけれど、チリには昼に飛ぶフクロウもいると聞く。一度、自分の目で見て、そこからどんな気持ちがわき上がるのか感じてみたい。
フクロウ・・・・。世界中で、この賢鳥を見つめてきたが、やはり僕の中で一番印象に残っているのはアラスカのフクロウだろう。10代から何度も通った北米大陸最高峰マッキンレーの麓に広がるデナリ国立公園。園内のサベージリバーキャンプ場で、フクロウの子育て現場に出逢ったのだ。
種類はグレーホーンアウル。フクロウの中でも大型のアウルだった。子どもはポワンポワンのグレーの羽根に包まれ、大きくまあるい眼がギョロリ。
フクロウ撮影(c)

数日、母フクロウと、3羽の子フクロウを追った。
この年はネズミの数が多かった。それを見越してフクロウは3羽産んだのだと公園のレンジャーが教えてくれたっけ。
フクロウアップ(c)

パタゴニアの森でメンフクロウを見て、アラスカのグレーホーンアウルを思い出す。
記憶って、本当に不思議だと思う。あの時の草の香り、風の感触まで、手にとるように鮮明に思い出すのだから。そんな時、時空は過去、今、未来と続くのではなく、今しかないことに気付かされる。今の連続でしか生きられないのだ。過去を思い出した時、それも今になるのだから。
この森のキャビンにいるのは、残り一週間。
メンフクロウに、あともう一回くらい、出逢えるかな?
                                    ノムラテツヤ拝
子フクロウ(c)
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虹の約束

朝の風景(c)

今日は朝から午後まで、ずっとパタゴニア・エッセー本の原稿を書いていた。
この一年半の間で、感じたこと、教えてもらったこと、出逢い、別れなどを織り交ぜて、一枚の布を織るように、少しずつ書かせて貰っている。
そうそう、今朝、Mさんの夢を見た。それも僕がまだ大学生で、Mさんから特訓を受けている夢だった。目覚めると、涙が溢れ、枕を鼻水で濡らした。
外に目をやると、空に浮かぶ雲が、少しずつ赤くなりかけていた。ベットから出ると、冷気が体温を奪う。季節は秋、もうすっかり寒い。窓から雲を眺めた瞬間、僕は慌てて、服を着替えて三脚とカメラ片手にいつもの撮影ポイントへ走った。雲が綺麗に色づいていたのだ。
きっとMさんが「綺麗だぞぉ~」って起こしてくれたに違いない。
三脚にカメラをセットして、撮影を始めた。オソルノはてっぺんだけ姿を見せて、あとは雲に覆われている。上空の雲が、みるみるピンク色に染まり、オソルノ山頂にも初光が当たった。
山頂(c)

雲が東から西へ流れ、オソルノの中腹も、モルゲンロートに焼けた。
「有難うございます。いつも最高の光景を撮らせてもらい感謝しています」
雲が流れる(c)

数分後、雲は、またオソルノ山を覆い見えなくなった。
『自然はいつも見つめている』。あるとき、友人のハインがそう教えてくれたっけ。あとパタゴニアに伝わる虹の出し方の話も。
『美しい、綺麗、有難う』。
頭をからっぽにして、自然に対し深く感謝を込めて呟くと、かなりの確率で虹が出てくれると。虹も雲も、山も海も、人間までも、全ては同じなのかもしれない。
美しい、綺麗、有難う。感謝を込めて願えば、想えば、祈れば、伝えれば、最高の現実がやって来るのかもしれない。僕たちは虹の約束によって、絶えず守られ、期待されているのだから。
「文章の先生」をブログに書いたら、友人からこんな返信が送られてきた。

ご友人の突然の訃報、心中お察しいたします。
この間見せて頂いた本に出ていた、ネパールの女の子の話・・・
「大丈夫、心配要らない・・・」
Mさんは次元の違う世界に逝っただけで、これから逝く予定の私達もいずれその世界へ行くので、また会えますよ。その時に怒られないように、しっかり学んだ事を生かしていってくださいね。
ご友人の声も話も、あなた方の中でずっと生き続けるのですから。日本から遠く離れた森の中で、その人の気を感じた事でしょう。
その人もあなた方に会いたかったのでしょうね。そして旅立っていったんでしょう。

今朝、Mさんは天界へ旅立たれたのかもしれない。
ここに書かれていた「本」とは、友人の山元加津子姫の新刊「宇宙は今日も私を愛してくれる」に書かれていたネパールのギータちゃんのこと。
「心配いらない。みんなが繋がっているんだから」
ギータちゃんの言葉を想うと、心がホンワリした。
デッキに出ると、そよ風が吹いてきた。
僕は身を任せ、その中に含まれる風の言葉に耳を澄ませた。
                                    ノムラテツヤ拝
朝日終わり(c)
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