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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

現代のインディジョーンズ

発掘現場(c)

アンデス考古学の歴史、文明の歴史が、今、変わろうとしている。
2007年4月、アルバ博士はV遺跡を見つけた。C14をかけると4500年前、遺跡は巨大で最深部は5000年を超えるだろうと言われている。
「地形、魚、気候、そのどれもが揃っている場所、それが北中南米の中で、ランバジェーケだったのです」とアルバ博士が、北中南米最古の遺跡の理由を簡潔に説明してくれる。
今、アンデス考古学は、転換の時を迎えているのだ。
まず、数年前にさかのぼり、女性考古学者シャーディー博士がカラル遺跡を見つけた時から、話は始まる。今まではアンデス考古学は、どう遡ってもチャビン時代の3000年前が最古とされていた。けれどカラル遺跡から出た有機物でカーボンフォーティーンをかけると、4800年前のものと出た。これで、周囲はどよめき、中南米最古、ひょっとして人類最古の文明が新大陸から生まれたのでは?とざわめきたった。
カラル遺跡が出てから、ペルー中央海岸には、またひとつ、またひとつと4500年前から5000年前の遺跡が発見され、ひろちゃんたちのシクラス遺跡もチャンカイの谷から現れた。
1つじゃなく、何個も、何個も出る古代遺跡に、アンデス文化の起源は中央海岸だろうということで話はまとまりつつあった。
カラル遺跡やシクラス遺跡からは、土偶や動物の骨、シクラスと呼ばれる縄は出てくるが、土器や織物は皆無だった。掘っても壁や部屋は出てくるが、5000年前は無土器時代だったのだ。
そして、ひろちゃんの疑問がわきあがってくる。
「なぜ、この中央海岸が南北アメリカ大陸の最古の遺跡だったんだろう?」
アルバ博士が朝、ホテルまで迎えにきてくれ、V遺跡に連れていってくれる。
何と贅沢で至福の時間が始まろうとしているのか。
ペルーで最も有名な考古学者・アルバ博士じきじきに遺跡を案内してもらえるんだから。
「南米は大きい。でもランバジェーケ周辺は谷、海、山のバランスが良かった」。ぼそっ、ぼそっ、とアルバ博士は大切なことを話してくれる。今日も白い帽子に上は白いシャツ、下は白いズボンの白一色だった。遺跡はやっぱり暑い。その対策で、黒系よりも白系で統一しているのだろう。太い腕に、銀の時計、右手薬指には金の指輪がはめられていた。
チクラヨの町を9時に出発。
さっきまで曇っていた空は徐々に回復し、太陽光が射してきた。今日も暑くなりそうだ。
「ひろし、日本の経済はどうだ?」
「博士、アメリカのあの一件で日本の会社も打撃をかなり受けています」
「ペルーはノルマル(普通)だなぁ」
「そうですね、ペルーはあの一件を受けても、あまり変わりませんね」
2人の会話を聞きながら、車はPという村を越え、大きなアドべ作りの家脇を右折する。
見晴らす限りのサトウキビ畑が、眼前に広がり、その間を縫うようにオフロードをゆく。
ガタン、ガタン、ピシシ。車が洗濯機のように、上下左右に揺れる。これも遺跡へ行くときの醍醐味だ。
「博士、あの岩はいつの時代の遺跡ですか?」
「あれは形成期だね」ということは3000年前の遺跡だ。が、誰も掘り下げていないのだ。
ペルー北部は、右を見ても左を見ても、そんなピラミッド型の山がごろごろあった。
そして礫岩の砂漠地にぐぐっと一際そそり立った山、それがV遺跡だった。
V遺跡(c)

車を止め、外に出ると、湿度を含んだ暑さが体を包んだ。
アルバ博士が先頭を歩き、僕たちは後につく。発掘している人たちが、アルバ博士に頭をさげ、秘密の扉が開かれる。中へ入ると、まず出てきたのは4000年前の綺麗な階段跡と精巧な作りの城壁跡。
V遺跡の階段(c)

V遺跡の城壁(c)

ボーっと見ていると、細かい雨が降っているように見えるが、雨は降っていない。ひょっとしてエネルギーが降り注いでいるのだろうか?
スロープ状の階段を登ってゆくと、そこにはしっかり保存されたピントゥーラがあった。大きなアドべで作った壁に、赤と白の彩色がなされている。白と赤と言えば、ペルー。ペル国旗の色だった。
国旗色の彩色(c)

「これを基にペルーの国旗が作られたのかしら?」
「国旗じゃなくて、これは蛇なんです」とアルバ博士が言う。
そうだ、なんといっても、壁画の描かれたのは少なくとも4000年前なんだから国旗なわけがないか。
アルバ博士が、赤白岩のすぐ後ろで、止まった。
「これが、チャカーナ型の建物です」
チャカーナの神殿(c)

足もとには、見なれたチャカーナ(インカの十字架で思想観を表しているとも言われる)の形が。
「げっ、やべえな」とひろちゃんが呟く。
「だってさ、これって4000年~4500年前の遺跡だろ。その文明がこんなものを作っていたなんて信じられないよ」
世界遺産になっているエチオピアのラリベラ遺跡を想い浮かべて欲しい。
あれは十字型の祈りの神殿だけれど、このV遺跡にはインカの十字、チャカーナの神殿が発掘されようとしているのだ。チャカーナの起源はボリビアのチチカカ湖沿いのティワナク遺跡だと言われているが、遥か前の4000年~4500年前に、もうチャカーナは存在したのだ。
最古のチャカーナがこのV遺跡から発見された。それも神殿の屋根がチャカーナ型なんて・・・・・。
「はじめに言葉ありき」。ひろちゃんが聖書の有名なフレーズを呟いた。
「これさ、ひょっとしたら初めからコンセプトがもうあったのかもしれないな」
まさに失われたアークが隠されているといわれるラリベラ教会のアンデス版なのだ。
眼下にはサトウキビ畑と、アルガロボの林が、大地にはトカゲが勢いよく砂塵を巻き上げ走ってゆく。
そして最上階まで上がると、神殿の全貌が見える。
遺跡内部(c)

中では2人の男性が土を運びだし、一人が記録の絵を描いていた。
「あれが、見つけたばかりの壁画なんだ」
その絵を見た瞬間、僕はのけぞってしまった。
壁画とフォゴン(c)

「そんなことってあるんですか?」
何とそこには、4000年~4500年前に書かれた見事な絵が精巧に描かれていたのだ。
「ここからだと遠いから、近くで見てみましょう」
何と言ってもアルバ博士の案内だから、何処にでも入れてしまう快感を味わいながら、僕の心臓は高鳴った。
階段を下がり、神殿内部へ。そして絵の前まで来ると、右の壁に黒いススが見えた。
「あれが、フォゴンです」
フォゴンとは火を炊いた跡のこと。
4500年前のフォゴン(c)

それも時代時代に場所を少しずつ変えて、三段のフォゴンになっていた。
火をたき、神と繋がる。まさに拝火教(ゾロアスター)なのだ。
これはカラル遺跡にもシクラス遺跡にもある。昔の人は、無土器時代の人々は、神殿の一番大切な場所で、神に近い場所で火をたいていたのだ。
てつ)「この絵はドラゴンですか?」
博士)「いや、鹿だよ」
ひろちゃん)「鹿ですか? 博士?」
博士が絵の前にたって、ここが目、ここが頭、ここが手足と教えてくれると、なるほど鹿のような模様が浮かびあがってきた。
アルバ博士と壁画(c)

「ますます、やっべ」
「何かあるんですか、鹿って?」
「ここらへんの王様は、みんな網を使って鹿狩りをしてるんだよ。鹿の後ろのあの模様は網だから、この時代にもう鹿狩りをしてたってこと。つまり昨日や今日で鹿狩りなんて文化は出来ないから、ここはもっと古い時代の神殿っていう可能性が高い」
壁画全貌(c)

「この壁画は全部で7色使われています。インカの旗、タワンティンスーヨみたいに」
インカの旗は、虹色の旗が正規のものとされている。
「博士、もしかしたら、インカじゃなく」
「マリコンじゃないよ」
次の瞬間みんなで笑い合った。マリコンとはおかまのこと。おかまの旗も虹色なのだ。
黄色、赤色、茶色、ネズミ色、黒色、白色、オレンジ色、確かに壁画には7色使われていた。
好きな映画にインディジョーンズがあるが、まさにアルバ博士は生きるインディジョーンズだった。
黄金のシパン王墓から大量の金を見つけ世間を驚かせたと思えば、今度は北中南アメリカ大陸最古の遺跡を発掘しているかもしれないのだから。
アルバ博士のまあるい後ろ姿を見ながら、僕は想っていた。
「王墓にも、この古代遺跡も、アルバ博士を呼んでいるんだ」と。
鹿の壁画(c)

鹿の模様(c)

アルバ博士の許可をもらい特別に撮影させてもらい、最後に遺跡の展望台へ。北にまたピラミッドのような山が聳えてるから、あれも遺跡なのだろう。
遺跡からの眺め(c)

ペルーって、何て凄い国なんだろう。21世紀を迎えても、まだまだ新しい遺跡がどんどん出てくるこの厚みのある文化、そして自然。
「これくらいの王国が無かったら、やっぱり今の美味いペルー料理は生まれなかったんだろうな」
ひろちゃんの言葉に、僕は妙に納得し、アルバ博士にチクラヨまで送ってもらった。
「もうすぐセニョールシパンの末裔が来るから、ほらあそこだ」
現れたのはルイス。シパン王墓の脇に新しく出来たワカラハーダ博物館の館長だった。
アルバ博士とはここでお別れ。がっちりと握手を交わすと「これからも良い旅を」と優しい言葉をかけてもらった。
これからは、博士の片腕・ルイスことルーチョに、バトンが渡された。
『現代のインディジョーンズ』。僕はアルバ博士を見ながら、口に出して言ってみた。
                                  ノムラテツヤ拝
アルバ博士とルイス館長(c)
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