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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

アンデスの王家の谷

村の風景(c)

アルバ博士から、博士の右腕のルイスこと、ルーチョがアテンドしてくれる事になった。
ルーチョは、薄茶のサングラスをかけて、ちょいワルおやじのよう。赤と白のポロシャツを着て、何を話しても朗らかに笑う。何だか場がたおやかになる人、それがルーチョだった。
2009年1月29日、シパン王墓の横にワカラハーダ博物館が出来た。まだ出来たてほやほや、一か月しかたっていないけれど、館長に就任したのはルーチョ。チクラヨの町から、車をぶっとばすこと30分で、博物館前に到着した。自然の中に溶け込むようにして、博物館が建てられていた。
ラハーダ博物館(c)

ルーチョに館長部屋へ招いてもらい、少し休んでから、博物館を館長の案内でまわった。
王墓博物館には及ばないが、2007年以降発掘されたものは、全てこの博物館に収蔵されているという。撮影をさせてもらいながら、40分ほどでゆっくり見学。そして外に出てきて、昼食を近くの茅葺のレストランで食べた。僕はやっぱりカブリート。田舎のおばあちゃんの作った愛情たっぷりのヤギ肉を頬張った。
ルーチョにひろちゃんが聞く。
「チクラヨに来てから、あっちのカブリート、こっちのカブリート、そっちのカブリートと走り回り、食べまくってるけれど、本物のミルクの味がする仔山羊は何処で食べられるのかな?今度ペルー北部だけのツアーを企画していて、どうしても核になるカブリートが欲しいんだ」
ルーチョの瞳が話をするにしたがって、どんどん輝いてゆくのが分かった。
最後なんかキランキラン。
「オレに任せろ。オレが最高のカブリートを食わせるから」
話を聞くと、ルーチョはかなりのグルメ。そのグルメがこうじて、ランバジェーケの村にレストランまで開いているのだ。
「オレに任せろ!」
胸を叩くルーチョの姿に、僕は間違いないと確信した。
時間が無かったので、ルーチョのカブリートを食べることは出来なかったけれど、間違いない。
「てっちゃん、ルーチョは今日から名前変更だな。セニョール・カブリートっていうのはどうだ?」
ぐはははは、とみんなで笑い合った。
アルガロボの実(c)

ビールを飲んでから、本物のシパン王が出てきた遺跡を案内してもらった。まずは右手に10階建ての大きなピラミッド。ここはセレモニーをする聖なる場所だ。
ワカ・ラハーダ(c)

そして左側にそれよりは小さいけれど、ピラミッドが聳えている。そのてっぺんの部分に、シパン王は眠っていたという。その下階には、神官や軍人、王様の周囲の人々が埋められているのだ。
本物のシパン王墓(c)

木箱に入れられたシパン王の左右に執事と軍人、上下に女性が埋葬されていた。
「これを見つけた時は・・・・」
「えぇっ?」
ルーチョはこのシパン王発掘時に、現場にいた運命の人なのだ。
王墓アップ(c)

「午後遅くに、私たちはついに、このシパン王の墓まで掘り下げたのです。ただ、ここが私有地だったため、6時に入口の扉が閉まってしまう。アルバ博士はライトを持って夜通し掘ろうと言ったのですが、安全面を考えて翌朝から掘ることにしました。その夜は、私の生涯の中で一番長かった」
格好良い。そしてそんな場に立ち会えて、羨ましい。
「これは秘密の話ですが、ここにもあるんですよ」
シパン王の墓から少しだけ下がった場所、ここも掘れば確実に墓があるという。金の埋蔵量もかなりのもの。
シパン王の息子か、はたまた血縁関係の誰かが、埋められている可能性が高いのだろう。
「これはどうやって掘る人を決めるんですか?」
「スポンサーがついた時に、スポンサーと一緒に掘ります。もし・・・ドルあれば、一掘ることが出来ます。もちろん一緒に」
ビックリした。ここにはそのお金の値段は書けないけれど、集めることのできない額ではなかった。
もし20人くらいでお金を出し合って、スポンサーになり、この発掘を一緒に出来たら。それも掘っていけば、絶対に下に埋葬されているなんて。墓を開ける瞬間はどんな気持ちになるのだろう? そしてどんな匂いが充満しているのだろう?
王家の谷(c)
 
僕は、目をつむり、そんな夢のような時間を想像した。
何だか体が軽くなり、浮かびそう。シパン王墓は、そんな場所だった。
目を開けると、少し離れた場所に、レチューサが見えた。レチューサとは、砂漠に住むフクロウ。小型だけれど、足が長いフクロウだ。
レチューサ2羽(c)

僕たちはルーチョと握手し、博物館前で別れ、おかかえ運ちゃんにチクラヨまで送ってもらった。
そしてその夜、ひろちゃんと、ひとつの議題を考えることになった。
「文明とは・・・?」。 その定義の問題だった。
「文明とは何をもって言えるのか? 農耕形体が文明の最低条件。そしてヨーロッパ人が規定した定義は都市形成だった。人間が集まって家を建てて生きる。文明とはまさにメソポタミアが見本なんだ。都市を作らないと文明じゃないのか? 文明の再定義が迫られているのに、再定義すると既得権が侵されてしまうヤツがいるって理由で、そこも進まないのが現状だ」
「まず、最初の定義は、2足歩行、道具を使う、火を使う。これが人と猿など動物との違いだな。そしてやっぱり言葉が出てくる。言葉を使って、人間が文明と呼ぶには、ヨーロッパは都市というものにこだわるけれど、アンデスには、人間の集団生活跡が見られないんだ」
「集団生活跡が見られないからって、文明じゃないなんて、無理がある。だってあれだけの文化があったんだから」
ひろちゃんの熱い語りを聞きながら、僕は今までそんな事を考えたこともない自分を恥じた。
もっと、もっと、体験し。
深く、深く、勉強しないと。
そんな事を強く想った夜だった。
                                  ノムラテツヤ拝
レチューサ単独(c)
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テーマ:風景写真 - ジャンル:写真

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