文章の先生2009-03-26 Thu 01:13
![]() 文章の先生がいた。 幼稚園、よくても小学生くらいの文章力しかない僕に、自分の感情をどのように文章に織り込んでゆくかを教えてくれた大切な先生がいた。 大学時代、僕は南極のペンギンの写真を、講談社、月刊現代のグラビアに掲載することが決まった。編集者から言われたことを忠実に守って文章を書こうとするけれど、いかんせん気持ちが文章に乗らない。そんな時、知人がMさんを紹介してくれた。 大学の出版広報室に勤められていたMさんは、元電通マン。数々の名キャッチコピーや文章で、激動の時代を生き抜かれた方だった。僕は藁をもすがる思いで、Mさんに文章の書き方を教えて欲しいと懇願した。 Mさんは優しく、適切に、僕の気持ちを掬い取ってくれた。Mさんに連日逢いに行っては、教えてもらう。それを家に持ち帰り、もう一度練る。その繰り返しだった。Mさんから教えてもらった事、それは今でも僕の核心部を占領している。 「文章とは、上手く書くものでは無いということ。そして自分の気持ちを相手に伝えるには、相手の事を常に思い描き、相手に同意ではなく理解してもらえるよう丁寧に伝えること」 そのMさんが、3月24日午後1時に、この世を旅立たれた。 出版広報室に勤務する知人のSさんから、一通のメールが入った。何だろうと思い、ダブルクリックすると、Mさんの死が書かれていた。読んだ瞬間、文字が僕に迫り、浮かびあがり、頭の中が真っ白になった。嘘だ、あんなにお元気だったのに・・・・。 ![]() 去年の11月、毎年恒例の極楽隊を、岐阜県の飛騨「秋神温泉温泉旅館」で開催した。日本全国、世界各国から60名の友人知人が集まり、旬の極楽料理とお酒に舌鼓をうった。Mさんは秋神温泉旅館のご主人・小林繁さん(敬愛する氷の王様です)と電通時代に逢ったことがあり、秋神に惚れ込んでお父様を連れ秋神川の清流で釣り糸を垂らしたという。小林さんとも夜を通して飲み明かし、翌朝、小林さんは宿泊代を受け取ろうとはしなかった。 「わたしも楽しませてもらったので、お代はいりません」 敬愛する小林さんは、そういう人。飛騨で僕の最も尊敬する人だ。 Mさんは、秋神温泉へ何十年ぶりにやってきた。小林さんと逢って懐かしみ、秋神温泉に集まってくれた友人の中でも、ひと際異才を放っていた。 「今度はペルーに連れて行ってくれよ。宜しくな!」 翌朝、車に乗り込み、笑顔で帰って行かれたあの姿が、目を瞑るとすぐに浮かんでくる。 あんなに元気だったのに、突発性肺炎で、天界へ行かれた。 僕がチリに住むようになって、森のキャビンに時々遊びに来る犬「チャチャ」の事を書かせてもらったとき、Mさんはこんな返信をくれた。そのまま引用させてもらいます。 『いい犬じゃないか。我が家にも10年前頃まで、良く似た犬が居た。下の娘が学校へ迷い込んだのをつれてきて、5人ほどの生徒たちが最敬礼し「飼ってやってください。保健所へ連れて行かれるから」と。犬は好きだし、彼女たちの必死の訴えが良く効いた。飼ってみて、半年ほどは警戒を解かなかった。その後は、勝手に上へ上がりこむわ、寝床にもぐりこむわ、やりたい放題だった。獣医さんにはパピヨンといわれた雑種犬だが、良くなついた。最後の朝は、やったこともなかったのに、散歩の前に廊下で失禁した。よたよた歩きながら散歩をおえた。私は学校へ行った。帰ってみたら廊下で冷たくなっていた。見事な最後というべきだろう。今年70になった。あんな見事な最終末を迎えられたらと、願わずぬはおられない。ゴンという名前だった。多少似たところがあるチャチャに乾杯!』 詳しいことは分からない。今夜がお通夜、明日がお葬式だというから、ご家族の方はお忙しくされているのだろう。 僕はメールを読みながら、Mさんは見事な最終末を迎えられたと確信している。Mさんらしい、見事な最後・・・・・。この世からの卒業、まさに天命を全うされたのだ。 でも、でも、やっぱり悲しくて悲しくて、頭がボーっとしてしまう。 Mさんと、もうこの世で逢うことが出来ないと思うだけで、涙が溢れてくる。 でもこんなに悲しい想いをさせてくれる、寂しい想いをさせてくれる大切なMさんがいてくれた事に、心から感謝したいと思う。 「僕の前に現れてくれて、出逢ってくれて、大切な心を伝えてくれて有難うございます。僕も、あなたのように、大切なものを丁寧に伝えられる男性になります。Mさん、最後まで生きる、そして死ぬという事を身をもって教えてくれて有難うございます。パタゴニアから帰国したら、すぐに逢いに行きます」 今日は、シトシトと音のない霧雨が降っている。 森を見ても、雨を見ても、雲を見ても、そこにMさんがいるような気がする。 風に乗って「テツヤ、パタゴニアまで来たぞ~」ってな声が聞こえてきそう。 ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタンをクリックお願い致します! ↓ ココをクリック! ![]() |
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