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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

晩秋の一日

オソルノと雲(c)

美しいもの、楽しいこと、嬉しい出来事、それらの経験の深さと別れの寂しさは比例する。
離れたくない大切な家族がいた。プエルトバラスから少し牧場の方へいったところに住むKさん一家だ。Kさんについては、また別のところで書くとして、今日はこの素晴らしい晩秋の一日を書いてゆきたいと思う。
僕たちが住む火山公園を抜けると、すぐに琵琶湖の3.4倍の湖・ジャンキウエが見えてくる。
海のような広がりの向こうに、雪をかぶったオソルノが鎮座する。雨が雪が空を洗ったのかいつもより輪郭がハッキリしているように見える。オソルノと対峙するカルブコ山にも雪が積もり雲が高速で流れていた。
森のキャビンからプエルトバラスの町まではちょうど60キロ。エンセナーダ村からプエルトバラスまでは45キロの距離だ。ジャンキウエ湖の湖畔を走り、40分ほどでリンゴ園が見えてきた。
最近、実をたわわにつけているのは知っていたが、天気が悪かったため、撮影出来ずにいた。青空の下、僕は車を降りて、りんご園を散策した。赤、オレンジ、黄色、多種のリンゴが仲良さそうに共存していた。
リンゴ畑(c)

リンゴ園でも桃園でも、大切なのは土の部分。チリのリンゴ園はふっくらと腐葉土が盛り上がり、豊かそうに見えた。
風に、リンゴの熟した香りが、乗った。
隣接する牧場では、牛がモーゥ、モーゥとないていた。
牧場(c)

プエルトバラスはドイツ移民が作った町。町の中心部を通りぬけ、そこからパンアメリカンハイウェィを横切り、ヌエバブラウナウへ行く途中、道脇に遅付きのモラが実っていた。
遅咲きのモラ(c)

ブラウナウの手前を左折し、オフロードに入る。
左手に広大な牧場が広がり、そこに数十頭の牛が放されていた。
大空と牛(c)

U通りを右折し、200mほど行くと、Kさん宅だ。
シェパードのももちゃん、黒ラブのぎんちゃん、白毛が印象的なサニーの三頭が弾丸のように走ってきた。ゲートを開けて中に入ると、Kさんが顔を出す。「いらっしゃい、遅かったから心配してたわよ」といつも通りの優しい顔で迎えてくれた。Kさんお手製のピザを頂き、大根おろしと共に蒸した鳥料理を食べさせてもらう。
この辺も、別の機会に書かせてもらうが、この一年半で、僕たちはKさんからどれだけの美味しいものを頂いたことだろう。
醤油20キロをはじめ、僕たちの不要になったものをKさんに手渡した。そしてお茶をしながら少しお話して、僕たちは夕方、バラスの町で買い物をしてから我が家へ向かった。
夕日が湖を黄金に染め、オソルノも少しずつ優しい光になってゆく。
家々からは煙があがり、もう冬の到来を感じさせた。
煙突の煙(c)

湖畔沿いで止まり、腰をすえて撮影。
もうしばらくは、オソルノにファインダーを向けることは無いだろうから。
湖にはさざ波がたっていたけれど、オソルノの麓は穏やかで、山々をうっすらと映した。
オソルノ遠景(c)

風が強いため、木々はかしぎ、自然の厳しさを感じさせてくれた。
僕は、倒木に意外なほど感動してしまった。それは、旅では見えなかった視線だった。僕もこの木々と一緒に、ここで一年半過ごした先に、初めて実感として見えてくる風景。旅での撮影じゃなく、住むことによって映せる写真が、目の前にあった。
倒木とオソルノ(c)

同じ時間を共有したものだけが、持ち得る不可思議な絆。それは“縁”と言い換えてもいいだろう。
毎日見上げたオソルノ、日々喉の渇きを潤してくれたアンデスからの水、安眠させてくれた森の包容感と静けさ、僕の体は、まさにこの自然だった。
自然が僕を作り変えてくれた・・・・。
それは当り前のようで、僕にとって新たな発見だった。
僕と倒木の距離はなく、僕が倒木に、倒木が僕になる。
日を浴びる倒木に、僕は話しかけ「この自然が好きか?」と話しかけられた。それは「自分が、自分らしくあることが好きか?」と問われると同義だった。
1枚、2枚とシャッターを切り、いつの間にか時間が過ぎてゆく。
日の光は刻々と姿を変え、陰影を深くした。
エンセナーダ村を過ぎ、火山公園の看板を右折。ここからオフロードを6キロ行ったところが我が家だ。何度も何度も走り抜けた道、キツネが歩き、ウサギが跳ね、鹿のプドゥが俊敏に駆け、フクロウが夜を支配した森の道。目をつむると、いつでも鳥の囀りやキツツキがドラミングする音が聞こえた。
キャビンに着くと、もう夕焼けが始まっていた。
三脚にカメラをセットし、少しずつ桜色に染まってゆくオソルノ山を眺めた。
変幻自在の山、それが僕にとってのオソルノ山だった。
いつも僕を見ていてくれて、それでいて、決して見飽きることが無い。
今朝は少しだけ顔を見せてくれ、今は雲の中。
それでも、オソルノ山は、僕たちを見つめてくれている。
                                  ノムラテツヤ拝
オソルノ夕方(c)
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テーマ:自然の写真 - ジャンル:写真

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