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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

1000kmの旅

朝ごはん(c)

今日はパン・アメリカンハイウェイで北上する。
マイカーのアンデス号に、荷物をぎっしり詰み込んで、プエルトバラスから高速に乗った。
それにしても、昨夜の雨も凄かった。キャビンはたちまち断水し、停電にもなった。そういえば、冬はいつもこんな感じだったな。水が無くなれば当然トイレんも水も流れないので、用を足すのも森の中、ウィンドブレーカーを着て雨に濡れながらの脱糞はなかなかオツなものだった。
Kさんから「やらずの雨だね」とメールが入った。恥ずかしながら、僕はこの言葉を知らず、今朝、Kさんから直接教えてもらった。昔の言葉って、本当に心がこもっていますね。
ハイウェイを走りながら、僕はウキウキしていた。だって、足元に、Kさんがこしらえてくれたお弁当があるだもの。
「長旅だもんね。私がお弁当作るから持って行って」と最後の最後までKさんにお世話になった。
朝弁は、玉子サンドから始まる。白身が大きくカットされ、濃密な玉子の味。隠し味は胡椒。僕好みのまあるい味だった。そしてハム&レタスのサンドイッチ、ツナ&レタスのサンドイッチ。更にボックスの奥からは、くるみ入りのバナナケーキが。いつも想うんだけど、Kさんの料理は絶対に売れると思う。
「無理無理、だって私、作りたいときにしか作らないから」とKさんは言うけれど、作りたてのパンなんて、涙が出そうになるほど美味しかった。
プエルトバラスから3時間ほどでテムコという町へ。そこからまた2時間ほどでロスアンヘルへ。
ここでランチタイムとした。
ランチボックスを開けると、そこにはから揚げ、玉子焼き、インゲン、味付けおにぎり、鮭おにぎり、リンゴ、モモがぎっしり詰められていた。そして脇にスマイルカットされたレモンが。
お弁当(c)

コレハ ナニニ ツカウノカナ?
Kさんに妥協の文字はない。レモンは唐揚げにかけるために、添えられていたのだ。
どれもこれも、絶妙の味付けで、本当に感激の味だった。Kさん、お弁当、御馳走様でした。
ちょうどここで、プエルトバラスから450キロ北上してきたことになる。
ハイウェイというと、日本の場合、車とバイクの世界だけれど、ここはチリ。自転車も脇を走るわ、地元民は高速道路を横断もしてゆく。それらを見ながら、更に北を目指した。
チリ第3の都市コンセプシオンの近くになったとき、大きな川を渡るのだけれど、看板に「RIO Bio Bio」とあった。ここが有名なビオビオ川。
北緯1度コロンビアのマウレ川から、この南緯35度くらいのビオビオ川までがインカ帝国の領地だった。つまり、これから北はインカ帝国となるのだ。対して、僕たちの住んでいたプエルトバラスやパタゴニア地方は、現地民のマプーチェ族やアラウカーノ族が仕切っていた。
空も晴れ、空気も少しずつ生ぬるくなってきた。あの森の寒さが嘘のように、北上するごとに、服を一枚、また一枚と脱いでゆく。気持ち良く、運転していると、前方に緑の白のツートンカラーの車が。横に立つ人影がこっちへ車を寄せろと合図していた。
それは、チリを牛耳る警察、車はパトカーだった。
チリはよく検問がある。車を脇に止めて、窓を開けると、運転免許証を見せろという。
やっぱり。。。と国際免許証を見せると、色々質問される。
「スペイン語は話せるか」「この高速道路は何キロまで出して良いか知ってるか?」などなど。
とっさにヤバイと感じ、スペイン語は少ししか話せない、法定速度は120キロだと思う、とたどたどしく答える。
ポリスはパトカーの上を指差す。そこにはスピーカーのようなものが乗っていた。
「キミは法定速度よりも早く走っていたよ」
「えぇぇ?」
スピーカーに見えたそれは、スピードガンだった。覗きこむと、悲しいことに136キロと表示されていた。16キロオーバー。
「分かるかな? 君は罰金を支払わなければならないんだ」
「う~ん、何を言ってるか分からない・・・」
「この車はレンタカーか?」
「はい」
「旅行者か?」
「2週間だけチリへ来ています」
「いつ、帰るんだ?」
「明後日」と口からでまかせを言うと、ポリスはしばらく腕組みし「今度からは気をつけるように」と奇跡的に開放してくれた。有難い。チリは規律が厳しく罰金国家として名高い。そのポリスが見逃してくれるなんて。頭を下げて、車に乗った。はぁ、ツイテル ツイテル。
鱗雲(c)

西側のアンデス山脈には、鱗雲がかかり、タルカの町を越えると、ここからがチリが誇るワイン王国となる。タルカ、クリコ、コルチャグア、レンゴー、有名なワイン生産地が点在し、ハイウェイの両脇には、ブドウ畑が出てきた。やがて、見渡す限りブドウ畑になると、サンペドロのワイナリーが見えてくる。この前、絶品ワインとして紹介した1865のカベルネは、ここで作られていた。
そしてクリコへ。ポプラ並木の先端が黄色く紅葉していた。クリコ。ここは僕の大切な場所だ。初めて南極へ向かった時、クリコ在住のチリ人家族と仲良くなり、何度も居候させてもらった場所。あの濃密な時間が、僕をよりチリに近づけてくれたような気がする。マルセロは元気かな? バレンティーナは大学生になったかな?などと思いながら通り過ぎる。
この近くに、日本でも有名なワイナリー、モンテスがある。サンフェルナンドに入ると、ワインの香りがいきなり窓から飛びこんできた。ふっと脇に目をやると、大きなワイナリー工場が建っていた。
午後6時半。
夕焼けもワインレッド色に染まり、雲も、山も、ブドウ畑も燃えた。
夕焼け(c)

今日の目的地、ランカグアまでは後15キロ。
6時45分、夕日が静かに沈み、茜色と水色が混ざりあった。
車のテールランプが流れてゆく。南と違い、北へ上がってくるにつれ、車の数が多くなり、多様な香りが充満している。肥料やら、りんごやら、ワインやら、窓を開けるだけで、香りが満ちるのだ。
19時、チリで最も古いゴルフ場、ロス・リリオスへ到着。
この中に、チリ人の友人Iさん豪邸があるのだ。
森のキャビンを出てから11時間半、合計1000キロの旅だった。
真っ赤な豪邸に車を止めると玄関が開いた。そこにはIさんが涼やかな顔でたっていた。
「いらっしゃい、久し振りねぇ~」
懐かしいIさんとハグし、荷物をひとつずつ家へ運び入れた。明日、僕たちはチリの首都、サンチアゴへ入る。
                                  ノムラテツヤ拝
パンアメリカンハイウェイ(c)
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