FC2ブログ

写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

ポインセノット

木々(c)

サラサラとした清流、サワワと風、ギィギィと木々の擦れる音。
他の音は何ひとつしない。森の中は、深く静かだった。
チャルテンの村から、北西方向へ20キロ行ったところにエルピラーというこじんまりしたホテルが建っている。今日はここに車を置かせてもらって、トレッキングを始めた。
線香花火のようにオレンジ色に紅葉する南極ブナの林を通り、清流脇を登ってゆく。
エルピラー(c)

今夜はテント泊なので、ザックが肩に食い込んだ。重さにしてどうだろう。18キロくらいだろうか?
フィッツロイは朝日に染まってからはすぐに雲の中に姿を消し、今も薄い雲に覆われて頂きは見えない。
風は西から東へ、東から西へのせめぎ合い。これが西から東へ流れれば、フィッツロイは晴れてくる。この1年半、何度も通うことで、ようやく周辺の天候が読めるようになってきた。机上の理論ではやっぱり無理。自分で経験し、歩いて確かめないと。
森の間を縫うようにトレイル道が続き、木々には幹に無数の穴が開いていた。マゼランウッドぺッカーの仕業。さっき、一回だけ鳴き声が聞こえたけれど、姿を見ることは無かった。彼らが、幹の中の虫をついばむために、何個もあけるのだ。
キツツキ跡(c)

大木の下に、アキコさんが何かを発見したようだ。駆けよってみると「ねぇ、なんだか牛糞みたいじゃない?」と一言。そこにはクリタケによく似たキノコが、固まって生えていた。牛糞なんて、失礼な。食べてみたい衝動にかられるが、我慢我慢。
キノコ(c)

エルピラールホテル脇からポインセノットキャンプ場までの道は美しく整備されている。
登山道(c)

春は溢れんばかりの新緑、夏はキツツキがそこかしこで飛びまわり、秋は紅葉、冬はスカンクが現れたっけ。走馬灯のように、ここへ通った思い出が湧きあがってくる。
枯れた白木にオレンジや赤の南極ブナの紅葉が、よく似合う。
紅葉の葉(c)

アップダウンを何度かこなし、ようやく中間点の氷河が見渡せるポイントへ。フィッツロイ山の北側から流れおちる氷の河は、蒼々としていた。時折、ドドーン、ズーンと落雷のような崩落音を響かせ、大地を揺らす。滝のように雪崩が起きていたり、内側で崩れていたり、氷河は決して止まることなく動いていることを実感させられた。
一番最初にポインセノットキャンプ場を目指したのは、23歳の時。もう11年も前になる。一人で重い荷物を担ぎ、テントを張って、夜、この氷河の崩落音を聞いた。
夜の闇に不気味なほど似合う音に、僕は山も僕たちと同じように生きていることを知った。
最後の上りを終えると、キャンプ場まで平坦な道が続く。周りは開け、下草の黄金色の紅葉と、南極ブナの紅葉がミックスしていた。
紅葉の大地(c)

青空、雪、紅葉。一般に日本ではこの組み合わせを三段紅葉と言い、最も美しい紅葉風景とされている。理由はめったにみられない組み合わせというのと、紅葉は雪が降ると一気に色褪せてしまうから。が、パタゴニアではよくこの組み合わせを見ることができた。
理由はひとつ。紅葉する南極ブナが恐ろしく風と雪に強いのだ。雪が降っても紅葉は更に磨きがかかり、自分の役目を終えたところで色褪せてゆく。天候に左右されるのではなく、葉っぱ自身が決めているきらいがある。
キャンプ場への道(c)

今始まった紅葉もあれば、散っている紅葉もある。種類が違うならまだしも、同一種でこうも紅葉する時期がバラバラなのも、多様なものが多様である美しさに繋がっていた。
そして右に大きく回ったところで、フィッツロイが姿を見せた。
フィッツロイ登場(c)

風はいつの間にか、西から東へ流れ、雲を振り払っていた。
肌色と白の間のような岩肌に、青い雪が積もる。
雲を吐く山との異名を持つだけあって、常に岩壁周辺から突然雲が生まれ、流れてゆく。
それにしても大きい。
こんな巨大な岸壁が、目の前に鎮座している姿を見ると、やはり頭を下げてしまう。
昔も今も、人間は大きなものに、尊敬の念を抱いてしまうのだろう。
聖山・フィッツロイを見ながら歩き、森の中へ入る。
さっきまで吹き荒れていた風が、ぴたりと止んだ。
森に抱かれる。いつも森に入ると、そう感じる。森は僕たちを守り、そして生命を産む“ゆりかご”なのだ。
キャンプ場の森(c)

フィッツロイ直下のポインセノットキャンプ場へ到着した。
時計を見ると、歩き出して3時間がたっていた。
ザックからテントを出して設営。エアーマット、シュラフ、シュラフカバーと順に入れてゆく。
テントに、森の影がゆらゆら移り、振り向くと、森の中を突き抜ける太陽光がキラキラと輝いていた。
                                    ノムラテツヤ拝
ポインセノットキャンプ場(c)
ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタンをクリックお願い致します!     ↓ ココをクリック!
人気ブログランキングへ

テーマ:自然の写真 - ジャンル:写真

パタゴニア | コメント:0 | トラックバック:0 |
| ホーム |