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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

ダイアモンド・フィッツロイ

夜、風が縦横無尽に走り、風速は台風並みとなった。
大人がまともに立っていられないほどの風の力。でも森の中は木々が緩衝の役割を果たし、テントが大地からはぎ取られることはなかった。
夜中12時過ぎ。
フィッツロイ方向は、ぬりかべのような分厚い雲が立ちはだかっていた。
風は大地を這い、そしてまた上昇する。こんな時は用を足すのが怖い。どんな態勢でおしっこをしても、風がいたずらをする。パタゴニアの旅の途上で、何度も自分の小便をかぶったものだ。
夜中5時。
テントに明かりが差し込んできた。キャンパーのヘッドランプの明かりかな?と思ったけれど、動かずにテントを照らし続けている。顔を出してみると、それは満月の光だった。
氷点下0度の空気をかき分け、フィッツロイを見に行くと、雲はどこかへかき消され、フィッツロイ山の北側に、満月が落ちてゆくところだった。
今まで何度も試みたが、なかなか思い通りの場所へ落ちてくれなかった満月が、今、絶好の位置で光り輝いていた。
ダイアモンドフィッツロイ(c)

『ダイアモンド・フィッツロイ』
一年の内、たった数日だけフィッツロイ山に月が落ちる。それが今日だとは、思ってもみなかった。テントに戻り、カメラと三脚を用意する。三脚を立てた瞬間、飛んでいってしまう。森の中はまだ良いけれど、森の外は暴風なのだ。
震える三脚を抑え、カメラをセットする。膝をおとし、三脚とカメラを抱きしめながらの撮影だった。
月は待ってはくれない。特に落ちてゆくときは、異様に早い。
シャッターをきる。
フィッツロイと満月の写真は、合計4枚だけ撮れた。その中でブレてないものが2枚、僕はホッと胸をなでおろした。
満月がフィッツロイの真裏に落ちると、今度は山自体がシルエットに浮かびあがる。全体にプラチナ色の光となり、それは妖艶で崇高な光景だった。
フィッツロイの山肌から雲が作られ、途切れることなく北へ流れてゆく。
まるで雲の噴火だ。
夜中のフィッツ(c)

天の川の中に南十字星が輝き、サソリ座が大きく横たわっている。心臓部のアンタレスが何だかいつもより赤く見えた。
5時半。
フィッツロイに、まばゆい後光が射した。
僕は祈るような気持ちで写真を撮り、テントへ戻った。
さぁ、これから闇の中の登山が始まる。
                                     ノムラテツヤ拝
後光(c)
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テーマ:自然の写真 - ジャンル:写真

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