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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

トレス湖へ

蒼の時間(c)
まだ暗がりの中、キャンプ場からトレス湖を目指す。
清流を何本か渡り、クライマーだけのリオブランコキャンプ場を越える。そこからは砂礫質の直登が待っている。日本で言えば、富士山上部、利尻岳上部に似て、登っては滑る登山道だ。
まだ闇は深く、直登は、まるで天へ昇ってゆくかのような錯覚を覚える。南十字星に向かってゆく感じ。空はこんなに晴れているのに、途中から天候は雪。気温は氷点下となった。
東の地平線は少しずつオレンジ色に染まり、蒼の時間がやってくる。スペイン語だと「モメント デ アスール」となるのだろうか。
キャンプ場を出てから、1時間で8合目まで上がってきた。
小山を回りきったところからは、暴風の世界。さっきまでは山の斜面だったから良かったけれど、ここから先は何も遮るものがなく、風をもろに浴びてしまうのだ。どんどん体感温度が下がる。体温を奪われ、手はもちろん、体も感覚が無くなってきそうだ。トレス湖を見渡せる展望台まで来たときには、全身がカチンコチンになっていた。
朝のフィッツロイ(c)

飛ばされそうな三脚を立てて、またも抱きしめながらの撮影。
早朝のアップ(c)

この前ここに来た時は、トレス湖に鏡のようにフィッツロイ山群が映ったっけ。あの完璧な、寒気を覚えるような光景は、生涯忘れることはないだろう。対して、今日はいかにもパタゴニアらしい、ダイナミックな風と雲が支配していた。フィッツロイの背後からも、フィッツロイ山からも雲は生まれ、北へ押し流されてゆく。トレス湖畔までゆくと、今度はパワフルな朝焼けの始まりだ。
朝やけ雲(c)

雲にオレンジ色に浸みこみ、生きもののようにうねり、散ってゆく。
朝やけ雲2(c)

そして、また雪が降り出した。雪は風に乗り、たちまち猛吹雪となり、僕たちは岩陰へ隠れた。何とかバーナーに火を付けてお湯を沸かし、啜った紅茶は、体の中心部を温めてくれた。
あまりの暴風に、来た道を戻ろうとした矢先、朝日がフィッツロイの南側の斜面を照らす。黄金の朝日に、真紅の紅葉がぼんやりと浮かび、それは幻想的な風景だった。
斜光と紅葉(c)

発夏秋冬、季節を通して、フィッツロイ周辺を撮ってきたつもりだったけれど、僕は秋の山火事のように燃える紅葉をまだ撮影していなかったことに気付いた。
深紅の紅葉(c)

“フィッツロイが、今日も撮らせてくれている”
うなる紅葉(c)

僕は紅葉を全身で測り、撮影しながら登山道を下った。
ブナの葉(c)

蒼い氷河を包み込むような紅葉が、秋の冷風に揺れていた。
                                    ノムラテツヤ拝
氷河と紅葉(c)
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テーマ:自然の写真 - ジャンル:写真

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