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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

義侠

義侠さん(c)

「じゃぁ、杉村くん、頼むよ」
社長の一声があり、蔵を見学させてもらうことになった。
杜氏の杉村くん直々に、日本酒作りを教えてもらえるのだ。
憧れの酒蔵があった。愛西市になった「義侠」がそれだ。
日本酒を好きになったのは、何時の頃からだろう?
大学に入ってすぐに、飛騨のお酒「鬼ころし」を飲み過ぎて吐いた。翌日もずっと気持ち悪く日本酒はもう二度と飲むまいと心に決めた。
それから数年後、NHKに勤められていた友人が「てっちゃん、美味しいから、騙されたと思って日本酒を飲みに行こう」と誘われ、半信半疑のまま店へ連れていってもらった。
その時に初めて飲んだお酒が「義侠」だった。
生酒を冷で頼むと、お米の味がしっかりと口内で広がった。
えにしという銘柄は、ぬる燗で出てきて、どれだけでも飲み続けていたかった。それから僕の日本酒追及の旅が始まる。好きな飲み物は何ですか?と聞かれれば、僕は真っ先に3つ答える。
「日本酒、赤ワイン、シャンパン」
日本各地の日本酒の蔵をめぐり、お酒を購入し、自分の舌で少しずつ日本酒と交わっていった。
義侠の美味しさに惚れた僕は、そのお酒自体を購入することに骨をおった。義侠は社長が認めた小売店じゃないと売ってくれないらしい。ようやく名古屋駅近くの店で、義侠を見つけたときは、天にも昇る嬉しさだった。
「憧れの義侠の社長とお酒を飲みたい」
2年前、あることがあって、僕はそんな夢を描いた。そしてその願いが叶う日が来たのだ。
杉村杜氏は、分かりやすく説明してくれる。
杉村杜氏(c)

「日本酒は米と水で作ります。米は玄米のまま入ってきて、精米します。色々変えていますが精米歩合は大体51~52%です。70%っていうのもしますけれど」
日本酒は米の中心で作る。削った他の米は、外ぬかにしたり、中ぬかにしたり、酒粕にしたりするので、日本酒を作る上で、米をほかることはないという。次に麹で発酵させるのだけど、いいお酒を造る条件は、出来るだけ栄養のない米部分に、いじめながら発酵させてゆく。米は外側の方が栄養価が高い。だからその高い部分を削ってしまうのだ。
使っているコメは2種類。ひとつは米の至宝「山田錦 兵庫県特A地区」のもの。もう一つは「五百万石 富山の南砺地区」だ。
1級酒は精米の後、米を洗って水に浸けて、蒸す。
山田錦も五百万石も、共に水を吸いやすい米。50%も研磨しようものなら、8~9分で完全に浸かる。
麹作りは、デンプンを糖に分解するため。麹の持っている酵素によって糖に分解されるのだ。
米は固形。麹は米を溶かし、糖化させ、液化させる。つまり同時発酵が起こっている。このお陰で、ビールやワインなどと同じ醸造酒なのにも関わらず高いアルコール度数を保てるのだ。(ビール5%前後 ワイン10~14%、日本酒18%前後)
貯蔵タンク(c)

酵母は小さな酒で増やし、培養する。
麹作りはムロ室で行われる。菌が繁殖しやすように、温度は37~38度に保ち、50時間、見事な麹が出来上がる。
菌の発芽しやすい温度が34~35度、糖化させるには、40~42度が最適とされる。
この時に、機械ではなく、人の手で布をかけて温めたり、布を取って冷やしたりする手間がかけられる。
酒袋(c)

日本酒の甘い、アルコールの入っている水に対し、重いのか、軽いのかで指標は決められる。重い場合はマイナスの甘口となり、軽い場合はプラスの辛口となる。大吟醸などのフルーティーな香りは、更にお米をいじめて、いじめ抜いて作られる。
麻の酒袋に入れてたものは、まだお米の繊維質が残っている。なので、袋の繊維を使って、それらを酒かすと清酒に分ける。それでも清酒の中にまだ不純物があるので、滓下げ工程をする。
しばらく置いて、滓が沈んだところの上澄みが無ろ過の原酒となる。
吟醸蔵(c)

中には酵母が生きているので、さらにそこから細かい布・メンブランフィルターを使って素濾過をする。義侠の場合はこの工程でアルコール度数16~17%の原酒が出来上がる。
濾し器(c)

大好きな「えにし」は、このアルコール度数18度のものを5年置いたもの。濃い酒で時間をかけて待つ。そして5年経ったときの上澄みが「えにし」として売られているのだ。
よろこびややすらぎは、原酒同士をブレンドさせたもの。各年の各タンクを毎年試飲し、相性の良い物を結婚(マリアージュ)させる。
それらのブレンド作業は、社長と杜氏だけで毎年朝から晩までするという。その数は100をゆうに上回り、ひたすらテイスティングが続けられるのだ。
えにし、のタンクを見せてもらい、その濾過方法を見せてもらう。
まずは自然圧だけで絞り、それがあらばしり。まさにお酒のドモホルンリンクル酒だ。
「わたしたちは、待つのが仕事です」
そして義侠の市販される最上級種のひとつ「妙」は、30%磨いたものを、麹を作り750Lのタンクで作る。袋で絞り、最も良いところだけを8年置く。まさにビンテージだ。
圧をかける水船も見せてもらいながら、よろこびとやすらぎの配合率を教えてもらった。
ここで義侠の全てのお酒が生まれている。僕は杉村杜氏にお礼を言って、社長の元へ向かった。
                              ノムラテツヤ拝
水船(c)
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