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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

社長の心

古酒(c)

「これが作りたいっていう方向へ10年、腹がくくれたのに10年かかったかな」
熱狂的なファンが多い酒蔵「義侠」の山田社長が呟いた。
「品評会の審査員が嫌いだというお酒を作ってるの」
「わたしは、最高の酒米で作ったお酒を最高な管理状態で、何十年も寝かせるとどうなるのか、味としてどこまで行くのが見てみたい」
社長から色々な話を聞かせてもらう。
「お酒は平面なら円、立体なら球体のようなお酒が一番良いと思う」
山田社長は、ワイン文化と同じように、ビンテージに、こだわっていた。時間だけは、どれだけお金を積んでも、買うことができないのだから。
山田社長は昭和61年に、菊姫と天狗舞と共に30%精米を始めた。
そして一口飲んで美味しいものよりも、ずっと飲み続けていたい酒を追い求めてきた。
「最近は、若い女性で、赤ワイン好きな人がうちの酒をよく買ってくれてね」と顔を崩す。
「何で、義侠さんのお酒はこんなに入手困難なんですか?」との質問には、
「うちが命を作っている気持ち、そして最高の管理をしてもらえるところじゃないと、そして何よりその人間を信じられる、そういう人じゃないと売れないんだよ。小売りの人の面接は全部わたしがやってるよ」
今年も一番遠いところでは、山形と宮崎から来ているらしい。
「最近は特別栽培米に興味があってね。除草剤を使わずに米を作ってもらい、その米を酒を作る。2年目までは味は変わらないけれど、3年目に味は劇的に変わる。やわらかく、まるいお酒が出来るんだ、さぁ、そろそろ時間だな。タクシーで行くとするか」と、山田社長が立ち上がった。時間はもう2時間も経過していた。今夜は社長いきつけの店で、一緒に飲めるのだ。
うれしい、うれしい。
タクシーに乗り込み、そこで質問をぶつけてみる。
「なんで、今の日本は焼酎の方が勝ってるんですか?日本酒と比べたら、焼酎は美味しくないと思うんですけれど」
「やっぱり健康番組が嘘ついたからだろ。純水アルコールが入ってて体に良いものなんかあるか?もし純水アルコールが入ってたとしても、わたしならジンかウィスキーを飲みたいよ。あとは値段の安さだろ。水で割れるから、安くあがる。どうしても日本酒の方が分が悪いな」
「わたしは百年の孤独の社長Kさんとも友達なんだけど、Kさんがよく言うんだ。あれはあの値段だから買うんであって、東京とかでプレミアムがついた10000円だったら、わたしは買わん。シングルモルトでも飲んどるわ」って。
タクシーは、名古屋の栄、“まほらま”の前で止まった。
やっぱり、、、この店はNHKの友人が連れていってくれた店だった。何年ぶりだろう、ワクワクしながら、2階へあがるとあの時と同じバンダナを巻いた大将がいた。
「この店が、一番義侠の種類を置いてるからな」
社長がまず大将に頼んだのは、ビンテージものだった。
昭和60年に作って、寝かせているもの。
一本四万円だというそれを、ワイングラスに注いでもらい、飲んだ。
色は琥珀色、味はトロントロン、古酒特有の絡みついてくる感じ。
琥珀色(c)

「これはワインみたいに時間と共にマリアージュするから」
でた、この前、成城石井の友が持ってきてくれたnechi(ネチ)みたい。
日本酒は丁寧に作ったものであれば、マリアージュするのだ・・・・・
次が特別栽培米で作った純米原酒の70%。
特別栽培米(c)

きたきたきたぁ~コレコレ。上品なんだけれど、生酒特有の米のふくよかな味が爆発する。
「ブレンド作業ってあるだろ。それで1番から5番くらまで選ぶんだけれど、その中で商品になるのは何番目だと思う?」
「やっぱり一番目じゃないんですか?」
「大体2番目か3番目を選ぶことになるんだよ」
次は純米原酒の滓がらみ。
純米原酒(c)

飲んだ瞬間、無ろ過とか、原酒とか、生酒とか、そんな風に区切る無意味さにとらわれた。
「消費者に伝えなきゃならないのは、そこじゃない。どこの米を使って生なのか火入れしているのかの方がもっと大事」
社長の言葉が、胸に突き刺さった。
最初の古酒を飲むと、もう倒れそう。味がどんどん深くまろやかになっている。明らかに最初の味とは変化してきている。
「社長はやりたいことを真っ直ぐにやられてるんですね」
「よくヤクザみたいな仕事って言われるけれど、誰が見てもヤクザみたいな仕事じゃなけりゃ楽しくないんだって」
特別栽培米60%(c)

そして平成19年の純米原酒60%と女性用に作ったという伴侶の侶(ともがら)が出された。
侶(c)

「この素敵なラベルの字はどなたが書いてるんですか?」
「おれの女房だよ」
あそびも出され、字がラベルの中で踊った。
あそび(c)

そんな事実に驚きながら、どんどん飲めてしまう。
義侠の素敵な所は、美味しいのは勿論、どれだけでも飲みたくなるところ。
「じゃぁ、この辺で特別なアテを頼むか」
出てきたのは、塩味のきいたヘシコだった。
これに合う酒は、やっぱりコレだろ。
「そこにはぬる燗にされた“えにし”があった」
字のとおり、僕は今日の縁に感謝しながら、飲み、つつかせてもらった。
古酒は更に威力を増す。
どんどん、どんどん、美味しくなってゆく。
気づいたら、もう岐阜行きの終電は無くなっていた・・・・・
                               ノムラテツヤ拝
へしこ(c)
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テーマ:食べ物の写真 - ジャンル:写真

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