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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

いのちのバトン

カレーうどん(c)

2割、いや3割くらいだろうか? 
JR名古屋駅の構内でマスクをしている割合だ。
大阪の友人からは、8割から9割がマスクをしていると聞いていたので、名古屋はまだ緩いのだろう。
今日は出版の仕事で、上京するが、空はどんよりと曇っている。チリの冬のような重い雲。でも、意外にこんな雲も好きな自分がいた。
昨日は、色々なことを考える日だった。
お昼に、大学の広報出版室のTさんとSさんと一緒に、うどんの岡崎屋に出かけた。ここは、文章の先生が愛して止まなかった店だ。
「てつや、うどん好きだろ、この辺なら岡崎屋がぴかいちだから、行こう」
数年前、連れていってもらった時、僕は味噌煮込みとカレーうどんを食べた。
両方とも味は秀逸。その印象が強く残っていた。
午後からは文章の先生のお宅に伺うことになっていたので、先生を想いながらカレーうどんを注文した。
激ウマ。
カレーの粉っぽい味と、甘味が抑えられたパンチのある口当たり、そしてどこまでも落ちてゆくような深い後味に、僕は我を忘れ、がっついた。
午後2時。愛知県春日井市高蔵寺のお宅へ伺った。
奥様が玄関から出てこられ「よく来てくれたわね」と一言。久しぶりの再会だった。
もう何年前になるのだろう? 文章の先生から誘われて、飲み明かした夜。楽しそうに、優雅に飲まれる方だなぁ~と、しみじみ想った記憶がある。
入って、居間のすぐ左手に文章の先生の遺影と遺骨、その脇にはラフロイグのシングルモルトウィスキーが置かれていた。
御仏前を供えさせてもらい、手を合わせる。
「先生、チリから戻ってきました。先生のお陰で、今の自分があります。教わったことを、少しでも周りに伝えていけるように、顔晴っていきます」
奥様と話すと、知らなかったことがザクザクと出てきた。
文章の先生は、重い病気にかかっていたのだ。でもそのことを本人は一言も周囲に言わず弱音を吐くことなく、あっという間に倒れ、すぐこの世から旅立たれたのだ。
いかにも先生らしい、でもあまりに存在感があるので、周囲の人は受け入れるのにどうしても時間がかかってしまうのだろう。
奥様と話していると、手が無性に熱くなってきた。それが自分の気でないことは分かっていた。
いったい、どうして? 答えは、すぐに出てきた。
「納骨のことを考えてるんだけれど、どうしてもまだその気になれなくて」
奥さまの気持ちに、また手が熱くなった。
「先生は、今、まだここにいらっしゃいますね」
「そうです、私もそう想っています。でも私が早く納骨してあげないとあの人はあの世へ行けないですものね」
また手が熱くなる。そして、勝手に口が動いていた。
「奥様が想われる時に納骨されれば良いと思います。先生はたぶんそれを望んでいると思います」
あれは、きっと先生がエネルギーが、僕にそう言わせたのだろう。
それから、奥さまは先生との思い出話を語ってくれた。
いつも一緒で、先生が計画を立てて、色々なところへ出かけられた。何でも自分でこなす先生のことを、心の底から愛していた。
その想いが移った。
「あなたが少しずつ大きくなって、上達してゆく姿を、うちのは本当に嬉しく思っていてね。てつやは、てつやは、ってよく話していたわ」
僕は一体、どれだけの人のお陰で、今、立たせてもらっているのだろう。生かさせてもらっているのだろう。
今まで逢ってお世話になった人、そして出会いすれ違っていった人、まだ出会わずこれから逢うだろう人、そのすべての人のお陰で、僕はいる。
先生に会う前に、大学院時代の担当教授にも逢ってきたけれど、やっぱり今の自分に関わっているんだなぁ~ということを強く感じた。
「先生、また来ます」
手を合わせ、僕はおいとました。
そして家に帰って、夜原稿を書いていたところで、友人のAさんからメールをもらった。
そこには横浜の木工職人Aさんに待望の長男が生まれた知らせが書かれていた。
すぐさま奥様のMさんに電話してみる。一回、二回。今日生まれたばかりだから、休まれているんだろうな、と電話をきった。
2分後、電話がなり、出ると奥様のMさんだった。
「おめでとうございます」
「ありがとう」
「本当に良かったねぇ、男の子なんだって」
「そうそう、男の子」
「たまのように可愛いんだろうねぇ」
「やっぱり、わかる?」
「ふふふ、近々、逢いに行きますね」
なんてやり取りをしながら、電話をきった。
天へ昇る生命と、天からやってくる生命。
その境は一体なんだろうと想う。
かたや姿形は無くなり、記憶の中で生き続ける生命。
かたや真っ白な記憶な中で、姿形が生まれてゆく生命。
生まれ、死んで、また生まれる。
めぐるいのち。そしてまわるいのち。
生命とは、生きるとは、何て尊いものなのだろう。
人の手によって、いのちは生かされ、人の手によって、送り出される。
今日、生かされいる奇跡を、どれだけ実感し、そこに感謝の念を込めるか。
日々の、人生の流れは、究極そんな想いに左右されてゆくのかもしれない。
先生、奥様や僕を含め、残された人々をどうぞお守り下さい。
AさんとMさんの間に新たに生まれたまばゆい赤ちゃん、必ず逢いに行きますからね。
                                 ノムラテツヤ拝
大学の構内(c)
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