fc2ブログ

写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

霧の花園

ソラヌム

ペルーの首都リマ近郊に、砂漠の花園がある。
以前、ここを何度も取材し、まとめたのが福音館書店から出版した「たくさんのふしぎ 砂漠の花園」だ。
9月から10月にかけて、見渡す限りの砂漠が、花園になる。
その姿を見ようと、毎年この時期にペルーツアーを開催している。
ツアーの隊名は、いつも一緒。ローマス隊だ。
ローマスとは霧を意味し、霧によって生まれる花畑を一般に「ローマス」と呼んでいる。
隊のみんなと花を見に出かけると、最初に出てきたのがジャガイモの原種ソラヌムピンナディフィディウム。霧の中から浮かび上がるように姿を現す姿に、今年の豊作ぶりを感じた。
そして僕の最も好きな花、ノラナガイアナがぽつぽつと咲いている。
ノラナガイアナ

ここローマスで咲く花の殆どが、固有種。つまり世界中でここしか見られないものばかりだ。
ソラヌムの種がぶら下がり、僕はシードバンクのことを想った。
種子

以下、悠久のときに書いた文章を抜粋する。
濃霧が、ウエディングドレスのようにヒラリと舞う。
純白のベールを抜けると、そこは豊かな渓谷「チャンカイ」だった。遠くアンデスから雪解けのしずくが生まれる。一滴の水玉が小さな流れとなり、川から海へ注ぎこむ。海へ行き着いた水は、太陽光によって水蒸気へ姿を変え、風を含んだ霧が生まれてゆく。
そしてまたアンデスの山々へとまあるく戻ってゆくサイクル。
「旅する水」
その途上で、彼らはたまに奇跡を起こす。
ペルー湾岸部は砂漠地帯が広がり、年間降水量はたった18mmほど。首都リマも同様に、雨はめったに降ることがない。が、それを補うように海からの霧「ガルーア」が少しばかりの潤いを大地へ分け与えてゆく。
1983年、ペルーで起こった奇跡の話を忘れることが出来ない。
その年は近年希にみるエルニーニョ現象により、雨と霧が多量に大地を濡らしていた。アンデスへ帰る霧たち。その霧の通り道が、大砂漠地帯が、何とその大量の水分により見渡す限りのお花畑になったという。見渡す限りの砂漠に花が咲いたのである。期間はたった3ヶ月だけ。その後はまた元の砂漠へと戻っていった。
「砂漠に咲く奇跡の花」・・・・・「霧の足跡が花道となる」・・・・
この奇跡の場所を目指し、旅が始まった。
2001年7月8日。
スペイン語で「霧の峰」と言われる地を初めて訪れた。その日は希にみる濃霧に悩まされ、車前方3m先の視界は完全に奪われていた。外へ出ると一瞬にして肌に水滴がまとわり、ビショビショに。
良いぞ、良いぞ、と期待したが、時期が早すぎたためか、前年度の残骸を見つけたにすぎなかった。
2001年9月9日。
ブラジル・アマゾンからアンデスを越え、僕はまたこの場所へ戻ってきていた。ペルーの砂漠が起こす奇跡を何とか一目見ようと。薄日が射す今回の砂漠地帯、霧も前回よりは薄い。あの時見た残骸後は今どうなっているのだろう?
胸が高鳴り、僕は前夜から眠ることが出来ないでいた。
そして遂に対面の瞬間、目の前の光景が一生忘れることの出来ない風景となった。
「ここへ戻ってきて本当に良かった・・・・・」
これが僕の第一声となり、自然が生み出す芸術に心が同調した。
そこには、地平線まで見渡す限り「お花畑」が広がっていたのである。一つ一つ、日本で見る高山植物のように可憐な花が霧の中でふうわり揺れていた。
「霧ヶ峰」とは文字通り、霧の通り道。
その霧が含む水分によって、砂漠の下に埋められている種が一気に息を吹き、花を咲かせる。核心部へ入ってゆくと、更に花、花、花。僕の周り360度が見渡す限りの花となった。巨匠、黒沢映画「夢」の世界が現世へ姿を見せた。
これは夢では無いのか?
そんな錯覚を覚える頃、僕は自然の巧妙な摂理にガツンと目を覚まされた。昆虫が花の蜜を吸いに来て、ツバメがその虫を食べてゆく自然界の連鎖に胸を強く打たれたのを覚えている。
2001年9月23日
3度目の霧ヶ峰を訪れた。
同じ所へ3度も通うと、心に不思議な現象が起きてくる。1度目は場所に感動。2度目は花に感動。3度目は今までと違う視線となった。
つまり回数を重ねる事に知識が2倍、3倍と増え、それに合わせるように疑問が4倍、9倍と膨れ上がっていってしまう。知れば知るほど、分からないことだらけになる不思議さ。すると思わぬところに、視線がいくようになる。
そしてこれが僕の中で、最も感動することになっていった。
植物は、次世代の生命のために今を生きていた。
2週間前のあの花たちは、もうしっかりまあるい実を大地にばらまき始めていた。そう、まあるい実の中には30個ほどの干しぶどうのような種子をギュウギュに詰め込んで。それが大地へ埋まり、何十年かに一度起こる霧の奇跡に、また花を咲かせてゆく。
目の前に咲く花より、土の中に眠る無数の種を想像し、そこに力強さ、自然の驚異を感じててしまうのは、きっと3度もここを訪れたからに違いなかった。
砂漠の中に眠る種、自分の頭上に霧がやってくる時のためだけに、何十年でも待つその健気さに僕は涙が出た、と同時に自然とはなんと面白いものだろう・・・と思った。
人に見られるためでも無く、ひっそり花を咲かせ種を作り、また花を咲かせてゆく。こんな当たり前のサイクルが、今は少し違って見えた。
生命が力強く生きているのは、花では無く、実は土の中にいる「種子」の期間だったのだ。英語で言うと「シードバンク(種の銀行)」。
無数の種からほんのわずかだけが地上に現れ、花を付ける。次世代へ子孫を残すため、出来る限りの種を作り出す植物たちの智恵。
これが正に「自然界の底力」だと改めて認識させられた。
夕方が夜の闇を迎え入れようとしていた。
大地のすぐ下に眠る、深遠な「種の力」に、僕はただ呆然とした。
                                      野村 哲也拝

ひろちゃんと何度も通ったローマスを、今度は縁のある人たちと一緒に旅する。
花園とひろちゃん

旅はいろいろな気付きを与えてくれる。
花の種類

イラクサの仲間・ロアザウレンスが今日も風に揺れていた。
ロアザウレンス

放牧された山羊が一心不乱にローマスの草や花たちを食べてゆく。そして足元から上がる虫たちを狙うツバメが上空をせわしなく飛び回る。
山羊と燕

花たちは次世代に自分の生命を繋ぐために、今、大輪を咲かせ、周辺の谷では人々が、ジャガイモの収穫に追われていた。
                                      ノムラテツヤ拝
ジャガイモの収穫
ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタンをクリックお願い致します!     ↓ ココをクリック!
人気ブログランキングへ

テーマ:花の写真 - ジャンル:写真

ペルー | コメント:0 | トラックバック:0 |
| ホーム |