ムジークフェライン2016-08-18 Thu 15:36
![]() 南アフリカに住んでいた頃、大切な友人と森のワイナリーにいた。 仮にZさんとしておこうかな。 Zさんは南アで仕事のために滞在していた。日本でも3本の指に入るダイヤモンド鑑定士。 日本ではなく本場のアントワープが主戦場だった。 一緒にワインを傾けていると、なぜか音楽の話に。 Zさんのお気に入りは、やはりウィーン。それも、とある演奏場。 「ノムラさん、そこだけは音が天井から降ってくるんです」 「嘘でしょ?」 「本当です。コンピューターでどれだけ精巧に作っても、未だに作れないんですが、あそこだけは何故かそれが完璧に組み合わさっているんです。まさに神の宿る会場です」 あれ以来の夢だった。そして僕は今、ウィーンにいる。 その場はムジークフェライン(楽友協会)。 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメイン会場であり、お正月に世界各国に中継されるニューイヤーコンサートが行なわれる聖地。 Zさんは楽友協会の上級会員なので、幻のプラチナチケットを手に入れ、3度ほど生で聞いたことがあるという。 豪奢な建物の中へ入ると、まず目に飛び込んでくるのが金色。柱、パイプオルガンの枠、天井など夥しい量の金。キノコ型のシャンデリアが10本下がっていた。天井には2つのフレスコ画、そして銀の巨大なパイプオルガン、壁面には麒麟のいような翼の生えたドラゴンが鎮座した。2階席を支えるのが、水瓶を持った女性像。 ![]() もうすぐ演奏会が始まる。 今回はシーズン中だというのに、Zさんお勧めの完璧な席が取れた。 1階席18列目のど真ん中。ドキドキ、ワクワクだ。 ![]() 20時15分、会場にブザーが鳴り響くと、オーケストラの団員が続々と登場。音の調律が終わると、恰幅の良い指揮者がタクトを振った。 最初の音から、地面が揺れる。 前方で演奏しているのに、何故かそんなに音が迫らず、不思議なことに背後からも聞こえてくる。柔らかい音で、ゆっくりと抱かれるみたい。音の渦の中心に引き込まれていく。 目を瞑ってみる。 大きな音、高音は天井から降ってくる。まるで音符が雨粒のようになって、サーサーと浸み込んでくる。小さな音や低音は壁面を伝い背後から。重奏なのに、まるで一人だけが演奏しているように音が収束していく。 上から、左右から、下から。四方八方から音符の玉が届いてくる。 真っ直ぐ届くのではなく、まるで放物線を描くように。 音の高さと、響いてくる高さは比例するのだと思う。 低音は低く長い放物線、高音は高く短い放物線。それらが収束してまあるく響き渡る。全身の細胞が震え、マッサージされるようだ。 やがて視覚と聴覚が麻痺し始め、無重力状態に。こんな感覚は生まれて初めての体験だ。 頭から足先まで全てに鳥肌が立つ。そして体内が泡立った。 指揮者に視線を戻すと、音の波が、波長が見えてくる。 ドナウ川の横に立つムジークフェラインで、「美しき青きドナウ」を聴ける幸せ。指揮者が腕をグルグル回すと、団員も最高潮に。一気に音が昇り、マエストロが指揮棒を止めると、天から残響が落ちてくる。 そして包まれる。 ![]() ラストは「ラデツキー行進曲」。 ニューイヤーコンサートのように、観客も拍手で応え、会場が一体に。 音楽って、こういうものなんだ。 音を楽しむ、それを初めて知った夜だった。 ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタン ![]() ![]() |
クリムト2016-08-18 Thu 05:17
![]() セセッション(分離派教会)の地下にクリムトがベートーベンのために描いた壁画がある。ひとたび部屋に入るなり、圧倒的なエネルギーに包まれる。 ![]() 「人類の幸福とは?」 ぐるりと囲まれた3辺の壁に、クリムトの答えがあった。 ![]() 今までの歴史、そしてこれからの歴史、その不変な生死が緻密な計算のもと配置されている。 一言で形容すれば、これは死ぬまでに絶対に見ておくべきものだ。 ![]() レオポルト博物館では、クリムトの名作「生と死」を見てから、風景が素晴らしさに驚愕させられた。 ![]() ![]() 個性を出す、または個性を消す。 ![]() その両極の追及の末の作品だったのだ。 ![]() だから、ヌードの絵の前に立てば、女性の体から匂い立つような香りがするし、風景画の前に立てば 。自分がその現場にいるような臨場感が生まれる。 そしてラストがベルベデール宮殿。 ここにクリムトの最も有名な作品「LOVERS(The Kiss)」がある。日本では接吻で知られるゴージャスな絵。 ![]() 一目見て吸い寄せられるのは、やはりこの黄金色と配置の妙だろう。 過去に誰も似た人はいず、以降もまたクリムトに似た人はいない。 ガールフレンドのエミリアとの接吻。ほのかにピンクに染まる彼女の頬。 この絵もまた、匂いたつ色気が絵の中から飛び出してくる。 個性を全開にし、そしてそれから消し去っていく作業、それら相反する世界を一つの絵に封じ込めた名作。だからこの絵に介在者がいないのだ。 バックは色を重ねているのかと思い、近づいてみると、あまりに薄く塗られていて驚いた。薄く、でも重厚に見せる神々しさ。 作家の息遣いまでもが聞こえてきそうだった。 ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタン ![]() ![]() |
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