スーパーマン2017-05-01 Mon 17:57
![]() 水田に夕日が輝き、一台の車が走り去っていく。 こんな風景を見ていると、涙がこぼれ落ちそうになる。 そして日本は美しいな、としみじみと熱い気持ちが突き上げてくる。 仕事を終えて、東京駅から東北新幹線で北上した。 夕闇が迫るころ、遠くに女性が横たわったような優美な山が見えてきたら、目的地はすぐそこ。 ![]() 盛岡。 この雅な町に、友人が数多くいる。そしてスーパーマンもひとり。今夜はそのお方と一献。 佐々木孝太郎さん、僕たちは「こうちゃん」と呼ぶ。 今まで自分が主催させてもらった海外ツアーは約20種に及ぶが、その中で、全てに参加された唯一の人、それがこうちゃんだった。 10年前からは「こうちゃんツアー」と銘打って、ギアナ高地、ガラパゴス諸島、南アフリカ、ウユニ塩湖、南極、ナミビア、ペルー北部、アイスランドと独自のルートで楽しみ、一昨年の喜寿(77歳)の誕生日は、ペルー北部の秘境、チャチャポーヤスのレストランでお祝いさせてもらった。 去年、アイスランドを旅している途中で、こうちゃんから「帰国したら手術を受ける」という話を聞いた。 病名は食道ガン。 こうちゃんは持ち前の心の強さで手術を乗り切り、僕もお見舞いに駆け付けた。それ以来の再会だ。 レンタカーで家へ向かうと、こうちゃんが家の脇で待っていてくれた。 「もうすぐ来るかな、と思って」 久しぶりに抱擁すると、こうちゃんは痩せていた。 「よく噛んで食べないといけなくて、20キロも痩せた」 ![]() 県の文化財でもあるこうちゃん宅に上がらせてもらい、奥様の紀子さんの手料理を頂いた。フキ味噌やウルイ(ギボウシ)など春の味を楽しみ、タラやウド、コシアブラの天ぷらまで。 ![]() 「これって?」 「うちの庭で取れたんだ」 まさにオラの山菜だった。 ![]() お酒を酌み交わしていると、ポツリとこうちゃんが話し始めた。 「この前、パスポートが切れてしまって、どうしようか悩んだ。でもやっぱり、旅がしたい。歩きたいって思って」 「更新されたのですね?」 「うん、10年ものを」 ![]() 来年には80歳のこうちゃん。僕は自分が80歳になったとき、果たして10年有効のパスポートを更新できるだろうか? 人間は、特に男性は、年を経ればとるほど、家の中から出なくなる傾向がある。それなのに、こうちゃんは退職してからも、世界各地を一緒に歩き倒しているのだ。 ![]() 今年のこうちゃんツアーは、スペインのバスク地方。 「今はなかなか食べられないけれど、少しずつ。少しずつ。必ず11月までには食べられるようになっているから、ぜひ今年もひとつ」 こうちゃんが静かに頭を下げ、僕は涙が溢れそうになった。 誰にでも頭を下げられる大人でいたい。ふんぞり返ったり、胸を張り続けるのではなく、僕はしなやかに頭を下げられる人でいたい。こうちゃんのように。 ![]() 紀子さんに優しい視線を送りながら、 「ほんと、世界をたくさん歩かせてもらったなぁ。良い友達もいっぱいできたし」 ![]() その言葉を聞いた瞬間、僕は一瞬でイースター島を共に旅した時に引き戻された。 チリの首都のサンティアゴ。市場へ行こうとしていたが、こうちゃんは熱を出していたため、ホテルにいた方が良いのでは?と伝えにいった。 ![]() こうちゃんは、絶対に行くと言い張り、みんなで市場へ。 そこで、こうちゃんは話し始めた。 「年になると、友達っていうのが少なくなっていく。まず定年して激減し、それからはひとり、またひとりと友達がこの世を去っていく。それは本当に寂しいもんだ。でも、俺は幸せだ。この年になっても毎年、ツアーに参加して素敵な友達がどんどん増えていくんだから」 そこにいた全員が、こうちゃんの気持ちの籠った言葉に打たれて泣いた。 僕たちは生命のバトンを渡され、次世代にそれらを渡していく。 年齢を重ねても外側へ出ていく人と内側へこもる人、その差は一体どこにあるのだろう? 僕はこうちゃんというスーパーマンに出会えて良かった。 痩せてはいたけれど、顔は艶々とし、目力はしなやかで強い。 ![]() 今年も、是非やりましょう。 最高のこうちゃんツアーを! ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタン ![]() ![]() |
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