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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

旅立ち

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最後の最後まで恰好良すぎる。
癌が見つかる前、繁さんは食事後にオデコを食卓テーブルに付けて休むことがあった。
「大丈夫?」と声をかけると、「気持ちいいんだよ」と女将の洋子さんに返した。
末期癌と診断され、2度に渡って入院し、3日前から初めて全身の痛みが出始めたため、モルヒネと同等の鎮痛剤を体に入れた。
「いくら沈黙の臓器の膵臓癌だと言っても、どうして痛みがなかったのか?それが不思議でならない」と僕が病室でつぶやくと、繁さんの妹さんが口を開いた。
「実はみんなに心配をかけたくなくて、言わなかっただけ。実際は痛かったのよ」。
いつもそうだ。
ほんと、いつもそうだ。
自分のことはさておき、いつもみんなのため。大好きな家族のため、仲間のため。
一見外から見ると、繁さんは山の中に入り、仕事を通じて、やりたいことをやっているように見える。でも僕は出逢った日に言われた言葉を、今でも心に刻んでいる。
「こんな山にいるとな、全部のことをせんとあかん。だから食事も作るし、経営もするし、山の手入れも欠かせない。重機もつかわんといかんしな」
どれもこれも、自分のためではなく、家族、そしてこの周りの自然のために自身の体を使っていた。
入院して意識がしっかりしていた時、お見舞いに来られる人たち全員に遺言を託した。
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友人のかよこさんは、雪まつりの原点となった「雪女の物語」をしっかり文章に起こすことを命じ、氷祭りの実行委員だったしんちゃんにも、その文章が出来上がったら目を通すように伝えた。
三兄弟の次男としくんには、来年、再来年のことまで、秋神の森の手入れを指示したという。
今朝から繁さんは殆ど動くことはなく、どんどん血圧が低くなっていった。やがて心拍数も弱くなり、担当医師からあと数時間だと宣告される。
12時ジャスト、のりさんからの「氷の王様」の呼びかけに、10秒ほど笑った。
みんなの言葉を最後の最後まで聞き、15時02分、繁さんは穏やかに還っていかれた。
もう、いやになる。
そこまで恰好良く逝かなくたっていいのに。
大きな大きな人が、また一人、この世から去っていった。
どうして大好きな人と別れなくちゃいけないんだろう。どうしてずっと一緒にいることが出来ないんだろう。
だから逢えたときの時間を大切に、そんな綺麗ごとはいい。
もっと、もっと、繁さんと話していたかった。
一昨日も、昨日も、手を握りながら、おそるおそる繁さんの体に直接聞いた。
「あと最大何日、体は持ちますか?」と。
答えは4~5日だった。でも、繁さんの強い心臓と精神力があれば、もう少し伸びるかもしれないと少しの希望を持っていた。
でも、結果はその逆だった。
5日連続で病院に泊まり込む長男ののりさんと洋子さんの体を労って、体の寿命を短くしたのだと思う。
「わっはっは」
もしそのことを繁さんに聞いても、きっと空を見上げて大きく笑うんだろう。
一番大切な部分は、決して言葉で言わず、心で伝える人だったから。
しげるさん、本当に人間として大切なものを教えて下さり、有難うございます。少しでも伝えていけるよう、バトンを受け取った僕たちは迫力を持って長生きします。
この世での時間、お疲れ様でした。
またあの世で、一緒にお酒を酌み交わせる日を、心より楽しみにしています。
シャボン玉

次は僕たちが命を賭けて生きて、伝える順番ですね。
少しでも人生に手を抜いていたら、枕元で叱咤して下さい。
自分の家族はもちろん、周りにいてくれる仲間たちを幸せにします。
あなたが最後まで背中で見せ続けてくれたモノを、大切にしていきます。
まだ病室にいるんですよね。
そこに。
PS,写真は日本で初めて凍るシャボン玉を開発して飛ばしているところ。繁さんは日本初をいくつも手掛けた。
              ノムラテツヤ拝
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銀座トークショーについて

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募集を開始してからすぐに銀座トークショーが満席になったと連絡が入った。
有難いことだけれど、今回話させてもらう場所は、銀座ソニーストア4階のオープンスペースなので、ご興味と気合いのある方は、
立ち見でも十分ご覧頂けるようになっております。
「これからのカメラの世界がどのようになっていくか? 新たに出てきた撮り方やテクニック」を時間の許す限り、全力でお伝えしたいと思っています。αアカデミー(今回はその一環のトークショー)は、そんなカメラに関する情報がオープンソースになっている場。皆で共有し、共に学び上がっていく世界になっていければ嬉しいです。
α9の出現により、様々な逆転現象が起きています。それを誰もが体感できる場にします。ご縁のある方は、ぜひいらして下さいね。
PS,今、担当者の方と相談した結果、少し席の枠を広げてもらえました。
以下のページより予約もできますし
https://ers-sony.secure.force.com/Academy/pageAcademyEventDetail?e=TS0003&p=S002&m=TS00030001&s=29
もしαのカメラやレンズを持ってないという方でも、こちらのFacebook
message または、fieldvill@gmail.comへ連絡を頂ければ席を押さえます。
遠慮なく教えて下さいね。
写真はα9で撮影した、ブータンの猫とマニ車です。
                ノムラテツヤ拝
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氷の王様

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尊敬して止まない人がいる。
小林繁さん、79歳。霊峰・御嶽山の麓に建つ秋神温泉旅館主人であり、冬になると「氷点下の森」を作り上げる氷の王様だ。
そして、僕はいつも畏敬の念を込めて「飛騨の天皇」と呼ぶ。
友人の新聞記者に秋神温泉へ連れていってもらったのが22歳の時だから、もう20年も前になる。
繁さんは初対面の僕をニコヤカに迎え入れてくれ、繁さんの子供たちの秋神三兄弟と初対面。僕が求めていた世界がここにある。直感で初日に四男になりたいと申し出て、固めの杯を交わした。
僕の20代は、秋神と共にあった。
三兄弟と森を駆けずり回り、秋神川で鮎を食べきれないほど取り、夜にはお客さんも一緒になって、秘密のバーで酒を浴びるように飲んだ。
連日連夜、午前3時過ぎまで宴は続いたが、繁さんはいつも最後までいてくれた。翌朝、眠い目を擦りながらバーに行くと、机はピカピカに磨かれていた。毎日どれだけ早く起きようとも、その前に整理整頓が終わり、繁さんが「おはよう、コーヒー飲むか?」とひょっこり顔を出した。
「人間はどうやって美しく生きていくのか」
それを、繁さんは自分の背中で、僕たち若者に教えてくれた。
それにしても、繁さんは一体いつ寝ていたのだろう?
三兄弟に聞いても、横に首を振るだけ。
その答えを知りたくて、僕は繁さんの後を金魚の糞のように追っかけた。
山菜を取りに山へ入り、キノコを採りに沢を歩く。ひとつひとつの行動を共にすることで、無尽蔵の体力の在り処が分かってきた。
それは、シンプルに言えば、全身全霊で身の回りの自然を愛し、そこに生かされていることに心から感謝すること。更に、この美しい自然をどのようにすれば後世へ残せるか、そのために自分が何をすべきかを自問自答し続けることだった。
僕はこれほど山や川、森や林、野生動物や高山植物を愛した人を知らない。
全てを賭けて愛するからこそ、秋神温泉周辺の大自然も、小林繁という男性に無限の力を与え続けていたのだろう。
そんな小林さんが癌を宣告されたのが5月中旬。それも手の施しようのない末期の膵臓癌だった。入院をしている間に家族会議が行われ、抗がん剤治療を受けないことに。退院した小林さんは秋神温泉でいつものように暮らしたが、遂にその時がやってきた。癌が肥大化し、6月23日の11時に繁さんは旅館で倒れた。
それからも飛騨の仲間たちから逐一状態を教えてもらっていたが、三兄弟の次男としくんから「繁さんが昏睡状態になって危ない」と連絡を受けた。
昨日、横浜から岐阜の実家へ戻り、車で高山まで走る。病室へ行くと、女将の洋子さんが廊下で話されていた。
「洋子さん」
「てっちゃん。まぁまぁ、遠いところからわざわざ駆けつけてくれて」
駆け寄る洋子さんを抱きしめた。
「もうお父さん、朦朧として分からないかもしれないけれど」
病室へ入り、カーテンを開けると、痩せて小さくなった繁さんが横になっていた。
「お父さん、てっちゃんよ。てっちゃんが来てくれたのよ」
繁さんが顔を上げた瞬間、僕は泣き崩れた。
今までお世話になった思い出が走馬灯のように脳裏に浮かび、繁さんの腕に涙が止めどなく落ちた。繁さんも僕の声と泣き顔を見て、顔をクシャクシャにして、頭を縦に振った。
「繁さん、有難うございます。僕、本当にお世話になりっぱなしで」
涙で滲んで、ぼんやりとしか見えない繁さんを抱きしめると、耳元で繁さんの声がした。かすれた声で「あ・・・」、「あり・・・」。
「ありがとう」。
女将の洋子さん、繁さんの妹さんが次々にハンカチを渡してくれるが、溢れる涙をおさえる事が出来なかった。
「おとうさん、待っていたのよ、てっちゃんのこと。間に合ったのね」
繁さんの手から、ぎゅっと力が込められた。
ハンカチで涙をぬぐい、ようやく繁さんの顔がはっきりと見えた。
次の瞬間、繁さんが悪いことをする前の子供のように、ニヤリと笑ったような気がした。
手が鼻に伸び、差し込まれた管をするすると引っ張る。
あっ、と手を伸ばした瞬間、繁さんから管が抜け、血が僕の腕に飛んだ。
何が起こったか分からなかったが、繁さんを見ると、茶目っ気たっぷりで僕を見つめていた。
「四男のてつやの前で管なんか付けてられるか。お前の涙をしっかり受け取ったから、俺からは涙の血をな」と声が響いてきた。
血を拭きながら、さすが繁さん、と苦笑した。
そこからは気持ちよさそうに眠られ、繁さんはまた朦朧状態に。でもそう見えているだけですよね。しっかりみんなの声を聴いていますものね。
20時まで病室にいて、としくん、はなちゃんと秋神温泉で泊まり、今日は朝からまた病室へ向かった。
「昨夜はちょっと痛がってね。鎮痛剤を座薬で入れたから、頭が朦朧としているんだわ」と洋子さん。
でも声をかけて手を握ると、しっかりと握り返してくれた。
あと何日、繁さんはこの世で持ち時間があるのだろう。
皆様、どうぞ力を貸して下さい。
「繁さんが穏やかに、秋神の自然へ還られますように」と一緒に祈って下さい。
どうぞ宜しくお願い致します。
写真は繁さんと洋子さん、秋神さん兄弟です。
          ノムラテツヤ拝
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