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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

小路

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僕が大好きになる人は、43歳で亡くなるジンクスがある。
植村直巳、星野道夫、そしてフェルメールもしかり。
フェルメールは全人生で、37枚の至宝と呼ばれる作品を残しているが、その中で風景を描いた作品はたったの2点しかない。
一つはマウリッツハイス美術館所蔵の「デルフト眺望」、そして国立美術館所蔵の「小路」だ。
デルフト眺望は、デルフト南端の船泊の対岸から描かれたものと分かっているが、小路の方は、彼の住んでいたデルフトの何処で描かれたのかが350年もの間、謎とされていた。でも、一人のアムス在住の美術史家が、古い納税資料を調べることで、この場所を突き止めていく。
当時、デルフト市の税金は、家の間口の広さによって算出されていた。であれば、正確無比、ありのままを描くフェルメールの絵から、家のレンガを測量し、当時のレンガ寸法から、「小路」に描かれた家の間口を算出した。
すると、その寸法の家が狭い路地を挟んでいる場所は、たった一つしか無かった。
「ブラミン通り42番地」
古い地図と照合すると、なんとフェルメールのアトリエがあった場所の近くで、そこはフェルメールのおばさんの住まい。小路の中のおはじきに興じていた子供たちは、フェルメールの親戚の子たちなのだ。
そんなことを知ってから、またこの作品を見ると、より絵に奥行きが出てくる。
絵画や写真、いや、創作という芸術活動は、1度見れば良いというものではなく、何度も、時期を変えてみることで、また別の一面を学ばせてもらえる。
僕も生涯でそんな作品を創作することが出来るかしら?
そのためには、全力で毎日を丁寧に積み重ねないと。
レンブラントとフェルメールから、大切なことを教えてもらった。
日々精進します。
         ノムラテツヤ拝
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ミルクの意味

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アムステルダムの町中から路面電車に乗って、国立美術館へ。
威風堂々としたレンガ作りの建物、中は目を引くダッチデザインで構成されていた。
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レンブラントの最高傑作といわれる「夜警」の前には人だかり。のぞき込んで間近で見てみると、その精密さに押し返されるような氣を感じた。
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そのすぐ脇に、今日ここに来た目的の作品が。
フェルメールの「牛乳を注ぐ女」だ。
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一目見て、周りの空気感が違うことに気づかされる。
吸い込まれるように近寄ると、キャプションの解説にはこう書かれていた。
「この絵は二本の斜めのラインに沿った構図で描かれており、ラインは女性の右手首で交差している」。
だからこそ、見た者は知らぬ内に牛乳へと視線が寄ってしまうのだろう。手を伸ばせば、まるで女性に触れられそうであり、フェルメール自身が消えている。
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それこそが、フェルメールが人生を賭けて求めたことではなかったのか?
「自分という存在を消し、時間や空間という垣根を取り払う」
ただ、ミルクを使うということは、この時代、性的な意味も必ず隠されているはず。絵を丹念に見ていくと、足温器の背後にキューピッドと長い棒を持つ飾り絵のタイルが描かれていた。足温器は、女性のスカートの中を温めるもの。だからこその周りに性的な描写が隠されていることが多い。
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それにしても、見ればみるほど、見事な構成だ。
左側の窓から光が差し込み、女性に陰影を与える。机の上にはブレッドプリンを作るのか、大きめのパンとミルクが繊細に注がれている。ウルトラマリンのエプロンと淡い山吹色の服、そして右の空間と足温器へ視線が放たれていく。
       ノムラテツヤ拝
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美しき首都

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ヨーロッパには美しき首都が多い。
ストックホルム、コペンハーゲン、レイキャビークなどの北欧地域は勿論、ローマ、ロンドン、ブタペストなど。
でも、ひょっとして最も格好良い都市は、オランダのアムステルダムかもしれない。
デン・ハーグからアムスへ。
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駅を出た瞬間、夕日が町に差し込み、フェルメールの、レンブラント世界が現出した。
東京駅の姉妹駅と言われるアムステルダム中央駅から、無数の運河が放射状に広がる。
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歩いてみると、運河、干潟、運河、干潟と、まるで運河サンドイッチ。そのひとつひとつが個性的で、僕を魅了した。
初冬の短い日が落ちる頃には、町は紅色に染まり、静寂が押し寄せる。アンネフランクの家を横目に、レンブラントが眠る教会を見上げた。
夕闇が夜を連れてくる頃、クリスマス仕様の中央駅と運河を進む船、そして蒼い空が一面町を覆いつくした。
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首都として何処にも似ていない力強さが、大地から湧き上がった。
      ノムラテツヤ拝
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光の魔術師

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奇跡の美術館はまだ終わらない。
オランダでもう一人愛して止まない画家、それはレンブラント。
最初に見たのは20歳の時。仄かに当たるランプのようなオレンジ色の光、そして緻密に計算し尽くされた写真のような絵。超精密画の世界を体現した光の魔術師、それがレンブラントだ。
このマウリッツハイス美術館にはレンブラント作品が十数点がるが、特に有名なのが、彼の代表作でもある「テュルプ博士の解剖学講義」だ。
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部屋の壁面を覆うように飾られた絵からは、光を自在に扱う画家らしく強弱、濃淡、静動などを完璧に組み合わせた一枚だった。
描かれているのは、ニコラス・テュルプ博士が腕の筋肉組織を医学の専門家に説明している場面。
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一点一点、キャプションも含めて見ていくと、一枚の前で足が止まった。
セルフポートレイト。
レンブラントの晩年の自画像だが、その右目の強さ。
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すべてのものを射抜く力に、僕は殴られたような衝撃を受けた。
もっと突き詰めて、もっと冷徹に、もっと、もっと。
「人生には終わりがあるが、芸術には決して終わりがない」
口がかすかに開き、そんな言葉が聴こえたような気がした。
人生長く生きても、たったの100年。
でも芸術は、数百年、数千年の時を越えて、僕らに語り掛けてくる。
ノムラテツヤ拝
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奇跡の美術館

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アントワープから30分ほどでオランダのロッテルダムに到着。そこからローカル線で更に北上すると、目的の町、「デン・ハーグ」が見えてきた。
ベルギーではチョコとビールを極める旅だったが、オランダは芸術三昧の旅にしよう。駅から歩くこと10分でお洒落なマウリッツハイス美術館へ。入口で14ユーロを支払い、荷物をクロークに入れた。
目的の部屋は3階の15番。入ったすぐ左手に、憧れのあの少女が待っていた。
「真珠の耳飾りの少女」、または「青いターバンの少女」と言った方が分かりやすいだろうか。
僕はオランダで愛して止まない画家が2人いる。フェルメールとレンブラントだ。
特にフェルメールの作品は、この世に30点ほどしか存在しないにも関わらず、この美術館に3点も収蔵されている。
部屋には自分一人だけ。青いターバンの少女の近くまで寄り、じっくりと対峙した。
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まず、ラピスラズリで作られた高級絵具ウルトラマリンを使って塗られた青いターバン。実物を前にすると、それらをいかにして塗り重ねて蒼という色を深めていったのかが、筆遣いで分かる。そして少女の口元が少し開いているところから、無限に想像がかきたてられる。瞳はぼんやりとして全体を見つめ、角度を変えると、モナリザのようにどの角度からも目が合ってしまう。無垢さは肌の白さから、艶っぽさは口紅の赤から醸し、下唇を明るく光らせ、上唇の輪郭をぼかすことで、更に初々しい質感を出している。
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フェルメールの素晴らしさは、光の扱い方にある。写真もまた光と影の組み合わせなので、学ばせてもらうことが多くある。
この絵は正面左奥から光が当てられ、顔全体が浮かび上がらせ、その光の先に将来の希望を表しているように見えた。
もう一枚は、「デルフトの眺望」。フェルメールが生まれ育った町・デルフトの空気感をシンプルな色使いで描き、3点目の「ディアナとニンフたち」も、肌に当たる光の柔らかさに惹かれた。
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憧れた作品を前にすると、魂が歓喜するのが分かる。血が湧きたち、細胞が泡立つ。
「芸術は鑑賞するものではなく、一体になるもの」
一級の名画から、いつもそんなことを教えてもらう。
ノムラテツヤ拝
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