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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

伝説の写真家

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アンデス山脈をくまなく撮影した伝説の写真家がいる。
高野潤さん。2016年9月に他界されたが、生前に親交があった。
マチュピチュの中で、クスコの町で、村の酒場で、アンデスを旅する途上で幾度もその豪快な人柄に魅せられた。
高野さんの写真を見ると、ここまで対象に真っすぐ命を賭けているか?といつも自問せずにはいられなくなる。
今まで誰も解き明かしてなかった伝統や風習、それらを丹念に追った写真群。例えば、アンデス奥地にコンドルの祭りがある。地面に肉を置いてコンドルが降りてくるのを待つのだが、肉の下には秘密の大きな穴が掘られ、そこに現地のインディオさんと共に何日も息をこらして待つ。用心深いコンドルがようやく下りて肉を掴んだ瞬間、インディオさんは地面に手を出してコンドルの足を掴む。その瞬間を高野さんは見事に撮り切った。現在、この風習は廃れ、写真を撮ることさえ不可能とされる。
昔だから撮れた写真、と片付けるのではなく、その時代にだって珍しいその伝統を調べあげ、そこへおもむき、原住民と強固な絆を作る。その先に初めて生まれる写真なのだ。
この先もアンデスを撮影テーマにする若き写真家が多く出てくるだろう。でも、一度は高野さんの写真に打ちのめされるといい。それほどの写真を凌駕する、または全く違う切り口で勝負しない限り、二番煎じとなってしまうのだから。
アンデス山地を誰よりも歩き、現地の食や病気を極め続けた高野さん。最後に会った時は、こう語って豪快に笑ったっけ。
「俺は生涯をかけて、アンデスの隅々まで歩いてきた。次の本は「徒歩徒歩、トホホ旅」で行こうと思う。
亡くなられてから、高野さんの担当編集者から聞いた話も、興味深かった。
「高野さんの写真で、最も稼いだ写真は何だったと思います?」
首を横に振る僕に、微笑みながら教えてくれた。
「キヌアの収穫時期の一連の写真です。色々なところで幾度も使われたそうですよ」
長く売れ続ける写真というものが確かにある。一度何処かの媒体に出ても、切り口を変えて、何度も何度も使われる写真。
すぐに消える写真と後世に残っていく写真、その差は一体どこにあるのだろう?
珍しい秘境や絶景写真?それとも最高の時間帯に撮影したもの?昔だからこそ撮れた写真? いや、どれも違うような氣がする。
星野道夫さんしかり、高野潤さんしかり、たぶん後世に残る写真というのはしっかりと地に足がついた、どっしりした写真なのだと思う。何度も見続け、その中で生涯撮り続けた対象。星野さんならカリブーだし、高野さんはアンデスの民だった。
自分もいつか命を結ぶとき、そんな対象と出会えていたら嬉しいな。どっしりと大地に足をつけて、地球を撮れる写真家になれていたらと願う。
「世界の絶景パレット100(永岡書店)」は増刷を重ねて現在8刷目。そこに使われている自分の写真は、計10回以上別の媒体でも使われてきた。
カリブ海の美しき一本道と、ナミビアの赤砂漠の光と影世界。
両方とも一発勝負ではなく、何度も足を運んで撮影した思い入れの一枚だ。
時間を封じ込める作業が写真家の仕事だとしたら、通い続ける時間や見続けている時間もまた、一枚の中に写り込むのかもしれない。いや、そういう状態になった時に初めて大自然がシャッターを押してくれるのだろう。僕はこの先、何度そんな僥倖に立ち会えるのか。その数を想うと人生の短さに、胸が少し痛くなる。
         ノムラテツヤ拝
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テーマ:スナップ写真 - ジャンル:写真

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