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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

鮭の遡上

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「鮭の遡上を見たい」。
これが父の長年の夢だった。
母は東北の仙台育ち。幼少の頃に見た北上川の遡上を楽しそうに父に語っていたからかな?
見に行く、見に行く、と言い続けて、現在になってしまった。
鮭の遡上を見るには、場所は勿論、季節が最も大切になる。秋を迎える知床、写真家の友人に教えてもらった小さな川へ向かった。橋の欄干から川面を見ると、黒い影が。
「すごい、おるやないか!!!」。父が興奮した面持ちで、叫んだ。
クリスタルのような清流の中を、ゆらゆらと鮭の大群が遡上中。川の流れと上へのぼる泳ぎが相殺され、止まっているように見える。大きいものだと、背びれが水中から飛び出してウヨウヨと揺れた。
「お父さん、良かったわね」
「うん、うん」と互いに喜びを分かちあっている。
こうやって父母は人生を共に歩んできたんだな、と背中を通して見せてもらった。
僕の方は、秘密兵器を出して、川の中へ。水中の鮭は、満身創痍の傷だらけ。最後の力を振り絞っている最中だった。
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ギザギザの歯、陽に輝く体躯、うつろな目。撮影しながら、僕は自然に泣いていた。
鮭が遡上する川は、豊かさのバロメーターと言われる。それは、彼らが産卵を終えた後、その死体が多様な生態系を作り上げるから。
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熊をはじめ、さまざまな動物がその身を食べて、川の中を豊潤な命のスープに変えるのだ。
「森が川を作る」という言葉があるが、「鮭も川を作る」のだと知った。振り返ると、父は、いつまでも川面をジッと見つめていた。
        ノムラテツヤ拝
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テーマ:スナップ写真 - ジャンル:写真

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