東京の深さ2018-11-08 Thu 16:07
![]() Fさんに誘われ、東京へ。 タクシーを降りると、怪しいネオン街。薄暗い細い階段を上がると、カウンターの向こうにスキンヘッドの大将が待っていてくれた。 「てっちゃんに、どうしても食べさせたくて」とFさんがにっこりと笑った。 まず白木のカウンターに置かれている巨大松茸にビックリ。 「丹波産の最高級を、今日、新幹線を使って持ってこさせました」 ![]() んっ? 思えば、最初のこの会話から変だった。 ワインを始め、 ![]() 日本酒も見たことがないものばかりがズラリと並ぶ。十四代の七重二十貫や、出羽桜の100本限定酒など。 ![]() それらを注ぐ酒器は天下のバカラ。 最初に出てきたものが黒いキノコ。 ![]() 「これって、もしかして老茸(ロウジ)ですか?」 「お客さん、キノコのことよくご存じですね。普通はクロカワと答えるんですけれど」 あー、良かった。飛騨の山の先生たちに鍛えてもらっていて。 ご機嫌になった大将が、自家製カラスミとイクラの醤油漬けを出してくれる。 ![]() ![]() それに合わせるのは、バカラに注がれた出羽桜100本限定酒。 ![]() 初めて見る柄だったので、大将に聞くと明治末期の春海藤次郎コレクションだと教えてくれた。 ![]() 日本一のバカラ蒐集家だ。 ![]() 「これって、美術館とかに飾られているクラスですよね?」 「そうですね、ただグラスは使ってもらってナンボですから」 焼き松茸、 ![]() フグのてっちりが出たかと思うと、 ![]() 松露が浮かぶ白きスープが。 ![]() 出汁はコブとあわび。なんて上品なんだろう。ふぅっとため息をつくと、「国産の良質松露は、もう殆ど出回らなくてね」と大将。今まで食べてきた松露とは別次元の味だった。 クエの煮つけ、 ![]() 生ハムと黒トリュフ、 ![]() フーテージャン ![]() と炊き込みご飯、 ![]() 最後はブルーベリーソースのかかったアイスと、目の回るような流れだった。 ![]() 「実を言うと、てっちゃんの好きなものを事前に大将に伝えてね。今日のために日本全国から最上のものを集めて料理してもらったんだ」 「まさに、食のオートクチュールということですか?」 「まぁ、そうなるね」 日本には美味しいもの、美味しい場所が沢山ある。でも、やはり年を重ねるごとに、東京という大都会、怪物のような奥深さをひしひしと感じる。 「大将、今日頂いたものはどれも突き抜けていましたが、ここまで美味しいとミシュランとかいらっしゃいませんか?」 「来ましたよ」 「それで?」 「星を是非と言われたのですが、断りました。今のまま続けるのが一番なので」 このお店は、一見さんお断り。大将の希望でネットに名前を出すのも禁止なので、ググってもまったくヒットしない。 「こんな風にやらせてもらえるのは、やはり東京という町のお陰でしょうね」 しみじみ言う大将に、最後の質問をした。 「大将の思う、美味しい味って、どんなものですか?」 「食べた後に、何も残らない味」 聞いた瞬間に、体中に鳥肌が。究極の答えが、そこに詰まっているような気がした。 東京は食の曼陀羅だ。そして、何処まで掘っても、ゴールは見えない奥深さがある。踏み入れたい気持ちもあり、踏み入れたら最後、戻って来られない怖さもある。 「てっちゃん、今日は楽しかったね。今度は別の店に行きましょうね」 Fさんが、風のように笑った。 ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタン ![]() ![]() |
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