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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

熱帯樹

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今日は世田谷パブリックシアターへ。
劇場の前には、すごい人だかり。なんと当日券を求める人、そして立ち見席を希望する人たちだという。
関係者受付でチケットを貰うと、背後から声がかかった。
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「野村さん、お世話になっています」。振り返ると、遣都のマネージャーさんが人懐っこい表情で立っていた。
 「この度は、おめでとうございます」
ひとしきり近況を報告して、早速劇場内へ。初めての世田谷パブリックシアターは、ビックリするほど、こじんまりとしていた。演じる俳優側と、観劇側の距離がとっても近いアットホームな感じ。ぞくぞくとお客が集まってくるが、9割は女性。ここでもおっさんずラブでブレークした遣都の人気が伺えた。
舞台には青白いライトを浴びたベッドがひとつ。
「熱帯樹」、三島由紀夫の作品を、天才肌の小川絵梨子が舞台監督を務める。出演者は遣都を含めて5名。ストーリーは莫大な遺産を持つ一家の成れの果てを追う。
遣都は妹から母の殺害を請われ、母からは夫の殺害を求められるという難解な役どころ。
妹がベッドに寝ているところから物語は始まり、奥から飛び込んでくる遣都。その第一声に驚いた。以前の舞台よりも、明らかに声が太くなっている。発声練習などを取り入れているのかしら?
物語の詳細はネタバレになってしまうので、これ以上は書かないが、人間の業と呼べる暗い部分だけに焦点を当て、その闇が熱帯樹の枝のように会場全体へと広がっていく。
セットは、アフリカ最高峰のキリマンジャロを模しているのだろうか? その麓には熱帯樹のような模様が描かれていた。
父と母が話し合っている時、舞台の裾からそれらを聞く遣都。スポットライトを逆から当てて、ゆらめく影で感情の不安定さを出していた。
鞴(ふいご)のようにいしずく息。
はかばかしくない。
ふうばぎゅう。
燃える秋の雲と、メノウのふのような闇夜。
星々の下を滑り降り、夜空が裸になった。
星と夜空、まるで一面の入れ墨だ。
重苦しい物語の中、格式高い日本語が星のように煌めき、プロットが的確に打たれていく。
熱帯樹に咲く花。真っ赤な艶々した鮮やかな花。その花は朝焼けの雲のように映える。
物語は怒涛のようにクライマックスへ。泣き、震え、悲しみ、怒り、そして満たされ・・・。迫真の演技が3時間。心の軌跡が、外界を作り、感情の機微が、物語のディティールを編んでいく。
最後は会場総立ちのスタンディングオベーション。「ブラボー、ブラボー」の声が小さな劇場に響き渡った。
終わってから楽屋に顔を出すと、今しがた緊張が解けたのか、柔らかい顔の遣都が抱きついてきた。
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「お疲れさん、良かったよ」
「今回は本当に難しくて・・・」
「でもしっかり言いたいことは伝わってきたよ」
「良かったです」
ふぅ~っと一息ついてから、遣都は風のように微笑んだ。
             ノムラテツヤ拝
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開高

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富士、熱海、藤沢、横浜。
いずれに住んでいた時も、ふらりと出かけたくなる場所があった。
物書きとして、旅人として、人間として、尊敬する開高健さんの記念館。茅ヶ崎の海辺から少し入ったところにあり、玄関には有名な句碑「悠々として 急げ」がある。
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今回はプレイボーイに連載していた「風に訊け展」が開催中。
原稿に手を入れるなら、最初から書き直す。それが半歩前進させる。
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男の優しさの答え、
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蜘蛛が嫌いだから、タランチュラの剥製を側に置いていたことなどのエピソードが生き生きと立ち上がってくる。
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自分も一応、物書きの仕事をさせてもらっているので、やっぱり巨匠・開高健の創作現場は何度見ても、勉強になる。
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小部屋に座椅子。そこに本が陳列され、赤のカーペット。ウィスキーを片手に、悩み苦しんで、死ぬ寸前に言葉をねじりだした。
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「筆舌に尽くしがたい、言葉にならない、得もいわれない」という言葉を使ってはいけません。物書きとは、それらを言葉にする職業です。
「人生で楽しいことは二つ。見知らぬ場所へ行くこと、そして危機です」
その後、茅ヶ崎の愛するカフェで、黒糖を齧りながら、濃厚なココアを呑む。
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そして開高さんの言葉を、ひとつひとつ、体の細胞へ落とし込んでいく。
           ノムラテツヤ拝
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ボヘミアンラプソディ

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ボヘミアン・ラプソディを見た。
評判があまりに高い映画に、襟を立てて観る。物語は言わずとしれたQueenの伝説ボーカリスト、フレディ・マーキュリーの物語。
「前歯が人より4本も多いから、音域があるんだ」という名言から始まって、フレディの愛の物語。愛した女性メアリーと早々にプロポーズ。結婚するかと思いきや、自分はバイセクシャルだと告げることで、その関係も微妙に崩れだす。そして身近のスタッフの男性と恋仲に。複雑に絡み合う人間模様、それらを見事なカメラワー余すところなく描き出す。
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メジャーになることで反比例するように、フレディは孤独になっていく。それらがQueenのメンバーにも飛び火し、やがてソロ活動に。そこからは一気呵成。孤独はさらに深まり、自分にとって何が大切なのかをメアリーが全力で伝えてくれる。目が覚めた時には、フレディは不治の病エイズに感染。
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時間がないとメンバーに伝え、アフリカの巨大チャリティーコンサートへ。
We are the Champion から始まり、数々の名曲が披露される。その声の勢い、命のかかった歌声に、もう号泣。ハンカチで拭いても吹いても、噴水のようにあふれてくる。
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王道。
人生をかけて、生命を燃焼させ、真っすぐに愛を伝える。フレディは深い闇を抱えたことで、この圧倒的な愛の光を放つことが出来たのだろう。彼を演じきったRami Malekは、2019年の主演男優賞に決定だな。
一度っきりの人生、ありったけの命を燃やそうぜ! 
フレディは、それを全身で体現して、45歳の若さでこの世を去った。僕たちの上の世代は、まさにQueen世代だからこその感動、僕らは伝説のボーカリストとしての感動、そして下の世代はこんな格好いい男がいたのかという感動。年齢を超えて、おじいちゃん、おばあちゃんから子供まで、シンプルな構成と精緻なカメラワーク、そして魂の歌で魅了した。
これは人気になるはずだわ。直球の愛の映画に、ハンカチはグチョグチョになった。
               ノムラテツヤ拝
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スーパームーン

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早朝のスーパームーン。
日の出が近づくにつれ、ひと際大きな満月は線香花火色に染まっていく。
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僕たちが見ているこの一瞬、それが「今」という連続だとしたら、月光は1.3秒前、太陽は8.3分前の光を届けている。闇に浮かぶ水の惑星「地球号」は、今日も、絶妙な距離を保ちながら宇宙を巡っている。
             ノムラテツヤ拝
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ムースの光景

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星野ファンなら誰でも知っているエピソードがある。
それは星野さんが北極圏で出会ったムースの物語。ある日一頭のムースが川を渡ろうとすると、もう一頭のムースが森から現れた。繁殖期を迎えたムースは互いに戦いを挑み、何度も何度も角を突き合わせる。
やがて、何かの拍子に角が絡み合い、抜けなくなる。もがき、苦しみ、体力が消耗してくると、現れたのが狼。そのまま2頭とも食べられ、絡まる角だけが河原に化石のように残った。
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若き日、僕はこの圧倒的な時間を含めた光景に、茫然とした。そしていつかその風景を自分も見てみたいと想った。それがこんなところで出逢うとは。チェナ温泉で素晴らしいオーロラを見せてもらった後、翌日はフェアバンクスでお買い物タイム。僕とひろちゃんは近くのカフェに入った。そこで、オーナーが自分のお家自慢をしてくる。うちの祖父はゴールドラッシュ時にフェアバンクスへ入植して一儲けした。その叔父が見つけて、運んできたのが貴重なムースの角だった。
それは2頭が重なり、角が絡み合い、抜けなくなってしまった雄ムース。あの時のあの想いが、叶った瞬間だった。
最後の晩餐は中華を頂き、飛行機が出るまでオーロラハント。
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フェアバンクス郊外で、外に出て、皆でオーロラを呼んでみる。雲が流れ、薄くなり、消えた。天空をかける緑の橋が1本現れ、やがて2本のオーロラに成長していった。
          ノムラテツヤ拝
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