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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

遣都の翼

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観劇が終わり外へ出ると、林立するビル群が茜色に染まっていた。
少し肌寒い風の中にどこか温かみがある。
それはまさに春を予兆させる風だった。
「野村さん、今どこにいらっしゃいますか?」
「う~ん、眼鏡屋さんのゾフの近く」
「分かりました。今から行きます」
数分で遣都が駆けつけてきた。三軒茶屋から恵比須へ場所を変え、遣都が「是非ご一緒したいお店があります」と紹介してくれたのが、GEM By MOTOだ。
「ここに日本酒のスペシャリストがいまして、是非野村さんと引きあわせたくて」
アルコールを含むお酒の中で、僕が最も好きなものが日本酒。次にシャンパン、赤ワイン、白ワインと続く。
「どうも、宜しくお願いします」。遣都が話している女性こそが、スペシャリストの千葉麻里絵さんだった。この店で、体験したことは、あまりにおもろく、印象深かったので、後日書くことにし、今日は遣都とのことを綴ろうかな。
「最近の仕事で大きく変わったことはある?」
「この前のリーガルVとかで特に感じたんですけど、一流の人たちが集う場所には、やはり一流の場が生まれていて」
「その世界を一度知ってしまうと」
「そうなんです。そこで勝負したいなと。華やかで豪快に見える人も実は裏ではとても繊細で怖がっていて」
「だからこそ、そこにいられるんだね」
「はい」
昔から言う。スポットライトを一度でも浴びた人はその快感を脳が覚えていて、それ無しでは生きていけなくなる、いや、生きている実感が湧かなくなってしまう。だからこそ、そこで努力し、邁進し続けていけるのだと。
「最近、色々な媒体で取り上げてもらっているじゃない。葉巻もくわえてたり」
「ははっ、去年、野村さんの家で本場キューバの葉巻、見せてもらいましたよね」
「そうそう」
「取材する方から聞かれることがあるんです。林さんは何故そんなに謙虚でいられるんですか?」と。
「それで?」
「僕は有難いことに、自分にハッキリ言ってくれる人、教えてくれる人が周りにいる。だから天狗になんてなれません」
5年前、僕たちは仕事で南米チリのアタカマ砂漠にいた。
「遣都くん、何か自分自身でやりたいことはない?」
番組ディレクターからの問いに、遣都は「砂漠でキャンプしたいです」と想いを静かに口にした。昼は灼熱、夕方は少し涼しくなる。番組に使いたいからと、遣都に火のおこし方や保ち方を教えた。そして星々が輝きだす頃、遣都、ディレクター、カメラマンを砂漠に置いて、僕たちはホテルへ戻った。
翌朝、パティオで朝食をとっていると、「おはようございます」と遣都が震えながら帰ってきた。
「砂漠、凄かっただろ?」
「最高でした」
遣都の弾ける顔を見て、自分で自発的にやり切った満足感が見てとれた。誰かからやらされるのではなく、自分が何をしたいのか。受動的でなく、能動的に。その先に達成感や満足感が得られるのだ。
「遣都、ひとつ質問していいかい?」
「はい」
「今の遣都がもし、あの砂漠の夜にいる遣都に話しかけられるとしたら、何を伝える?」
う~ん、と首をひねり、頭を掻きながら、しばらく考えた末、恥ずかしそうにポツリと呟いた。
「ちゃんと周りの人を愛したら、その愛は戻ってくる」
胸がジーンとし、何度か自身の中でその言葉を反芻した。
あの時の遣都は、誰も信用せず、今日の舞台の役柄のようにプルプルと震える子犬のようだった。
「あの頃の僕、人に対して物凄くバリアを張っていましたよね」
「だねぇ」と笑い合った。
「僕、今秋からの朝ドラ「スカーレット(9月30日~3月まで)」に、スカーレット役の戸田恵梨香さんの幼馴染みとして出演することが決まりました」
「おめでとう、って、それまだ情報公開してないだろ、大丈夫?」
「いえいえ、昨日、公開されたので大丈夫です」
http://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/preview.html?i=17872
「いつから撮影は始まるの?」
「4月からです」
「それと重複するように、おっさんずらぶの映画のクランクイン?」
「はい、でも、あれを越えていくというプレッシャーが凄くて」
遣都、何かを作り上げるというのは苦しいもの。楽に作れるものなんて何一つない世界。
だからこそ面白い。監督、共演者、スタッフたちを心から愛し、話し合い、ぶつかり合い、共に進んでいけばきっと皆を幸せにする最高の作品になっていくよ。
今の遣都に、今だからこそ、遣都に伝えたいことがあった。
周りを信用できなかった遣都が、まず言動を変えることで自分の心を少しずつ信用する。周り全員をライバル視していたけれど、ある出逢いから他を認めるようになる。周りを信用し認めることで、心はフッと楽になり、その隙間に感謝の念が湧き始める。やがて自分も他人も愛するようになることで、その幸せは途切れることなく螺旋状に押し寄せる。人生はそこで終わりではなく、ここからが本番なのだ。さぁ、次の一手は。それを遣都に丁寧に伝えた。それが最短距離で駆け上がっていくための梯子になれば良い。
これから更に有名になるにつれ、想像もしていなかったことが多々起きるだろう。でも遣都が周りに感謝して、周りを愛し続ければ、必ずそれらの出来事を踏み台にして大空へ羽ばたいていける。謙虚、素直、感謝、それが遣都の翼となってくれるはずだ。
「どうせ目指すなら何だっけ?」
「日本一じゃなく、世界一の俳優ですよね?」
「そうそう、目標は常に高く、宇宙一の俳優を目指しな!」
濃密な夜は、あっという間に過ぎていった。
家に帰るとラインが届いていた。
「今日は有難うございました。毎日大切に積み重ねていきます」。
遣都、頑張れ。皆が応援してるよ!
             ノムラテツヤ拝
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