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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

インカの大布

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天野博物館の奥に、沢山の手が刺繍された大布が飾られている。
中央には六本指があり、それらを囲むように5本指が幾つも。その解釈は「インカ文明は、一般と違う容姿や特性を持った人を神の使者として崇め、6本指の多指症の人も手厚く守っていたのだろう」と。
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去年、ここを訪れた時、Kさんが言った。
「与える人は3本で、貰う人は31本。これが逆になったら素敵だね」
あれから1年間、僕の胸には、ずっと棘のようなものが引っかかっていた。
阪根ひろちゃんに質問してみる。
「これって、どうやって上下を決めたんですか?」
「祖父がこれを初めて見た時、珍しい六本指を中心として見たんだろうな」
「ということは、どちらが上か下かは、誰にも分からない」
「あぁ、そういうこと」
「そもそも、この布はお墓から出土したと思いますが、何に使われているかは分かっているんですか?」
「それは分かってる。祭壇の掛布だ。きっと儀礼をするときに使っていたんだろうな」
なるほど。儀礼場にかけるのであれば、上下でなく地面に置く。であれば、やはり場の奥に鎮座する皇帝やシャーマンが上(かみ)側、受ける方が下(しも)側だと想像出来る。でも、どうしても去年から考え込んでしまう自分がいる。
「もしも与える人が貰う人よりも多ければ、どんな世界になるのだろう?」
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物質面から言えば、地球には有限の資源がある。それらを活用できた人が与え、それ以外の人は貰う。でもより裕福になり、皆がお腹ぽんぽんに食べられる時代が来たら、後者が「貰う人の閾値」を越えたら、その瞬間「与える人」に変化する。与えて、与えて、与え尽くす。それによって、貰う人が一人また一人と与える人に転換する。するとどうなるか? 物質面だけでいけば、皆が豊かになるように思う。でも本当にそうだろうか? 
人間は無いものネダリの生き物。聖人君子になるために、この世に学びに来たわけではない。であれば、与える人が多くなれば、今度は貰う側に変わる人が出てくるのでは?
そもそも、与える人の地位が高く、貰う人の地位が低いというのは階級社会が出来てからのこと。それまでは皆で分け与え、集団で生き抜いてきたのだから、その思想すら無かったはず。だって、狩りの得意な人は狩猟をし、裁縫が得意な人は布を織って、全体で生きていたのだから。
精神面で言えば、与えるということは、相手を思いやるということ。皆が相手だけを想い込んでいたら、今度は一匹狼のような芸術家が突如現れないだろうか?
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つまり僕たちは大昔から、少ない方に憧れ、それらが多くなれば逆転する、行ったり来たりする生き物。だから、どちらが偉い、偉くない、なんて無い。自分は今、どちら側にいたいのか? それが生きる(在る)ということなのでは?
一枚の大布を逆さにすることで、見える世界がまったく違ってくる。それをインカの人たちは知り尽くし、儀礼という聖なる行事で使っていたのかもしれない。そこにはきっと「幸福」や「不幸」という概念すらも、無かったのだろう。
              ノムラテツヤ拝
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デジタル国

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インカ帝国は、世界初のデジタル文明国だった。
こんな仮説を聞いたのは、もう17年前のこと。
人間トリビアの巨人「阪根博」と出逢い、彼の祖父が創設した天野博物館を案内してもらった。
日本よりも遥か昔に織られていたレースの美しさに驚き、ユーモラスな土器を食い入るように見つめた。ピューマを左肩に乗せた人、
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レチューサと呼ばれるフクロウ、
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そして水を張るとまさにティティカカ湖に葦舟を浮かべたようになる酒器。その高いデザイン性に、インカの豊潤さを知った。
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そして、大きなパネルの前で、阪根さんは僕に話し始めた。
「これ、なんだと思う?」
「縄ですか・・・?」
「そう、インカ時代に使われていたキープという縄文字だ。10進法を使って縄の結び目を数を表し、人口や納税額、数にまつわるものを記したと言われている」
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「文字がなくても・・・、数があった」
「そこなんだ。10進法だから言い換えれば、0と1の組み合わせ。それってまさに」
「デジタル!」
「そう、インカはアナログ(文字)が無かったんじゃない。それを飛び越えてデジタルをもう使用していたんだ」
衝撃的だった。僕はこの時に、文字がないからとか、スペイン軍に簡単に破れたから「劣っていたのでは?」という誤った見解を恥じた。
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すべての文化には、それぞれの美が隠されている。大切なのはそれらを現地で学び、感じ、まっさらな心に焼き付けること。それが歴史を感じることだし、その国を好きになるということ。それは、きっと地球、宇宙を愛することに繋がっていく。
               ノムラテツヤ拝
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