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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

佳き人生

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それにしても、なんという濃密な人生なのだろう。
60歳までは岩手県を始め、東北と中心に行政の核心部を担い、岩手のため、弱者のために奔走する日々。64歳の時、盛岡で講演をしていた阪根ひろちゃんと自分と出逢い、そこから一緒に世界を歩く日々。アラスカ、ペルー、メキシコ、グアテマラ、イースター島、南アフリカと旅し、2010年からはこうちゃんの生きたいところへ行く「こうちゃんツアー」が始まった。
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一緒に旅した14回目の舞台がアイスランドで、15回目のスペインバスクは叶わぬ旅となった。
自宅療養に切り替えるために退院を決意。家に戻ってきた翌朝に息をひきとった。その時の様子を奥様の紀子さんや、友人、知人、先生から話を聞かせてもらい、僕の想いは確信に変わった。
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入定(にゅうじょう)。
昔の高僧たちは、命の持ち時間を自分で決め、死に場所へ入っていった。それを入定、または入滅と言うが、こうちゃんはまさに自分の命を自分で決めたのだ。
格好良すぎるよ。何でも自分で考え、周りが出来るだけ幸せになるよう配慮し、迷惑をかけず高潔に生きる。それがこうちゃんの何よりの美学だった。それを死ぬ間際まで貫き通した姿に、僕はただ畏敬の念が湧き上がる。
「てつやさん、娘から手紙を預かっていて」
それを読んで、僕は泣き崩れた。

海外で忙しく過ごしているにもかかわらず、素敵な言葉を寄せて頂き、有難うございました。葬儀で寄せられた父の言葉の数々は、私が知らなかった父の姿を知る事が出来、新たに父の人生を感じた儀でした。
既にお聞きの通り、父の最後はとても穏やかで、眠るように息を引き取りました。暫くは母の手を握り、話し掛ける母に目で応えていた父ですが、明らかに先が長くない状態になっていきました。「お父さん!!」、「〇〇ちゃんがおじいちゃんに会いにくるよ」など声を掛けても応えはありませんでした。母が突然、「こうちゃん!!」と呼びかけると、開かなくなった目が開き、しっかりと頷きました。
「そう、あなたはこうちゃんなの?」と母が聞くと、目を閉じたまま頷きました。これが父が意思疎通を取った最後となりました。そうして徐々に息が弱くなり、スーッと眠るように息を引き取りました。
父は「お父さん」「おじいちゃん」という衣を脱ぎ、「こうちゃん」として旅立ったと私は思いました。
私の妹は、「お父さんはお姉ちゃんを選んだんだね」と言いますが、父は誰かに旅立つ姿を野村さんに伝えて欲しかったんだと思っています。
あの年齢で一日超の帰路にもかかわらず、旅から帰る度、疲れを見せることなく語る旅の話は、一番のお土産でした。「次は〇〇に行くことになった」と語る父の目は少年のようでした。四年前、実家で皆さんと過ごしていた父の今まで見たことのない笑顔は忘れません。私や子供たちは「あー、お父さん(おじいさん)は、いつもこんな雰囲気で旅をしているんだ」と、父の旅をプチ体験させてもらいました。とても楽しかったです。
「てっちゃんとスペインに行くんだ」と体力をつけるべく努力していたので残念でなりません。
真面目で嘘や曲がった事が嫌いな父は一本道をまっすぐ歩む人生だったと思います。そんな中、野村さん・阪根さんと愉快な仲間達と出逢った事で、その一本道が彩り豊かな一本道へと変化したのではないかと思います。
父に新たな楽しい時間と幸せを与えて下さった事に感謝申し上げます。旅の最中父を思い出す事があったら、杯を傾けて頂けると幸いです。
               ノムラテツヤ拝
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盛岡へ

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帰国後、すぐに東京駅から盛岡へ向かった。
お葬式には間に合わなかったが、大好きなこうちゃんに逢いに行く。数日前、海外でアテンド中、盛岡の仲間からメールが届いた。お葬式の時に読みたいので、何かメッセージを送って欲しい、と。こうちゃんのことを想い、何度も溢れる涙をおさえながら、綴った。
お葬式当日、「地球の息吹」ブログ(http://fieldvill.blog115.fc2.com/)のメッセージに以下のようなメールが届いた。

今日の孝太郎さんのお葬式。野村さんの弔辞(代読)に、多くの人が涙しました。私は、孝太郎さんの元部下。ご退職後も、一緒に働いた部下たちで、孝太郎さんと時々お会いし、アンデスや南極の土産話を伺っていました。もちろん、お酒をのみながら。
野村さんの弔辞から、色んな謎もとけました。これからは、あの世でもっと自由に楽しく豪快に旅をすることでしょう。あの世での再会が楽しみです。

ビックリした。海外からの手紙の一部として読まれる、または見せると思っていたのが、まさかの弔辞とは。代読は進行役の女性が抑揚をつけて丁寧に話してくれたらしい。
少し長いですが、そのメッセージを記します。
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佐々木 孝太郎 様へ
2017年4月28日、僕は仕事を終えて、東京駅から東北新幹線で北上した。夕闇が迫るころ、遠くに優美な岩手山が見えてきたら、目的地はすぐそこだ。
「盛岡」。この雅な町に、スーパーマンが住んでいる。佐々木孝太郎さん、僕たちは「こうちゃん」と呼ぶ。
今まで僕が主催させてもらった海外ツアーは20カ国以上になるが、その全てに参加された唯一の人、それがこうちゃんだった。
10年前からは「こうちゃんツアー」と銘打って、ギアナ高地、ガラパゴス諸島、南アフリカ、ウユニ塩湖、南極、ナミビア、ペルー北部、アイスランドと独自ルートで楽しみ、4年前の喜寿(77歳)の誕生日は、ペルー北部の秘境、チャチャポーヤスのレストランでお祝いした。 
2年前、アイスランドを旅している時、こうちゃんから「帰国したら手術を受ける」という話を聞いた。病名は食道ガン。帰国後こうちゃんは入院。僕もお見舞いに駆け付けた。それ以来の再会だ。こうちゃんは持ち前の心の強さで手術を乗り切り、懸案になっていたスペイン・バスク地方へのこうちゃんツアーが、そろそろ実現できそうだというので、打ち合わせに来たのだ。
レンタカーで向かうと、こうちゃんが家の前で待っていてくれた。
「もうすぐ来るかな、と思って」
久しぶりに抱擁すると、こうちゃんは痩せていた。
「よく噛んで食べないといけなくて、20キロも痩せた」
県の文化財でもあるこうちゃん宅に上がらせてもらい、奥様の紀子さんの手料理を頂いた。フキ味噌やウルイなど春の味を楽しみ、タラやウド、コシアブラの天ぷらまで。久しぶりにお酒を酌み交わしていると、こうちゃんが話し始めた。
「この前、パスポートが切れてしまって、どうしようか悩んだ。でもやっぱり、旅がしたい。歩きたいって思って」
「更新されたのですね?」
「うん、10年用を」
僕は自分が80歳になったとき、果たして10年有効のパスポートを更新できるだろうか?
人間は、特に男性は、年をとるほど、家の中から出なくなる傾向がある。それなのに、こうちゃんは退職してからも、世界各地を一緒に歩き倒しているのだ。
「今はなかなか食べられないけれど、少しずつ。少しずつ。必ずそれまでには食べられるようになっているから、ぜひ今年もひとつ」
こうちゃんは静かに頭を下げ、どうしても今年バスクへ行きたいと言う。僕は涙が溢れそうになった。誰にでも頭を下げられる大人でいたい。ふんぞり返ったり、胸を張り続けるのではなく、僕はしなやかに頭を下げられる人でいたい。こうちゃんのように。
紀子さんに優しい視線を送りながら、「ほんと、世界をたくさん歩かせてもらったなぁ。良い友達もいっぱいできたし」
その言葉を聞いたとき、僕は一瞬で共に旅したイースター島へ引き戻された。
チリの首都のサンティアゴ。市場へ行こうとしていたが、こうちゃんは熱を出していたため、ホテルにいた方が良いのでは?と伝えにいった。こうちゃんは、「絶対に行く」と言い張り、皆で市場へ。そこでこうちゃんが語った。
「この年になると、友達っていうのが少なくなっていく。まず定年して激減し、それからはひとり、またひとりと友達がこの世を去っていく。それは本当に寂しいもんだ。でも、俺は幸せだ。この年になっても毎年、ツアーに参加して年下の素敵な友達がどんどん増えていくんだから」
そこにいた全員が、こうちゃんの気持ちのこもった言葉に打たれた。
僕たちは生命のバトンを渡され、次世代にそれらを渡していく。年齢を重ねても外側へ出ていく人と内側へこもる人、その差は一体どこにあるのだろう?
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2019年7月10日、長い入院生活を経て、こうちゃんは自宅へ戻ってきた。
翌朝、目覚めると、こうちゃんは小さな声で「氷が舐めたいと」と呟いた。紀子さんはすぐに冷蔵庫から氷を持ってきて、小さくして口に含ませた。台所に行こうとする紀子さんをこうちゃんは呼び止め、「お前はここにいろ」とかすれた声で言う。紀子さんは、「足でも温めましょうか?」、「お揉みしましょうか?」とその場にいると、すぅ~っと、静かに息が薄くなり、こうちゃんはそのまま旅立ったという。
「本当に最後まで孝太郎さんらしくて・・・」
亡くなった日、知らせてくださった電話口で語る紀子さんのその話を聞いて、僕は涙をこらえることができなかった。誰よりも強く、そして誰よりも優しい。老若男女から愛され、分け隔てなく皆を愛したこうちゃんは、苦しむことなく、静かに、愛する紀子さんに見守られながら、肉体を離れた。
分かるよ、こうちゃん。無機質な病院で亡くなるのが嫌だったんだよね。大好きな思い出たっぷりの自宅で、息を引き取りたかったんだよね。誰もが「あんな風に年を重ねていきたい」、そう思わせてくれたこうちゃんの大きな背中を、僕は必ず受け継ぎます。
こうちゃん、明後日逢いに行きますね。一緒に美味しい日本酒を酌み交わしましょう。            
            異国の地より 野村哲也拝
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ゴゾの夕日

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ゴゾ島の西端で夕日を眺める。
海風が僕の体を洗い、茜色の空へ消えていく。
凪いだ海に光の道が作られ、モザイクのように瞬き始める。
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太陽が紅色になる頃、一艘の船が滑るように走っていく。
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団子のような夕日が、語り掛けた。
「今日も幸せな一日だったかい?」
             ノムラテツヤ拝
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