ポセイドンの晩餐2009-06-04 Thu 06:00
5月30日。
日本全国から友人が蝦夷に集結し、ポセイドンの宴が執り行われた。 まずは、その経緯となったポセイドンの夜を、以前書いたもので記したい。 ![]() 北海道に忘れられない旅館がある。 噂を聞きつけて一度食べに行ったのが、2年ほど前。 漁師が足しげく通う旅館と言うに相応しく、素材を生かした料理が並べられた。あそこへひろちゃんと一緒に行けたら、どんなに幸せだろう。 これが北海道での大きなミッションとなった。 まず、このT旅館、年中満室で、ホームページもなく、ネット予約なんてもってのほか。電話予約しか受け付けてくれない。チリから電話したのは、今から4~5ヶ月ほど前。 「あの~、10月20日ですが、一部屋空いてませんか?」 「う~ん、そのあたりは混んでてねぇ、あっ、昨日、キャンセルが一部屋出たから、今なら大丈夫だよ」 「ラララ ラッキー、予約をお願いします」と、ブッキングに成功した。 夕方、蘭越から岩内まで車を走らせ、さらに山の中腹へ向かう。 森の中に、ひっそりと佇むようにT旅館は建っているのだ。2度目にも関わらず、やっぱり今日も旅館を通り過ぎてしまう。 看板が小さくて、わかりずらいのだ。 でも、口コミだけで年中満室になっているんだから、これくらいで良いんだろうな、と妙に納得させられる。 駐車場に車を止めると、入口から女性二人が足早に駆けてくる。 「何かお持ちするものはありますか?」ここから、T旅館のお客に対する、おもてなしの心が、ひしひしと伝わってきた。 部屋に通され、まずは、温泉で身を清める。 ナラの葉が紅葉し、高野槇で作られた露天風呂でボーっとする。 そして、いざ出陣。 18時30分から、名物の夕食が始まった。 まず最初に出てきたのは、ボタンエビ、ホタテ、ホッキ貝、毛ガニ、ナマコの酢の物、シシトウ、白貝、ヒラメに、この旅館の目玉、5年ものの立派な新鮮な生アワビ。 ![]() 「まず、アワビを一口でお食べ下さい」との言葉の後、口の中に放り込んでみる。それにしても、なんでアワビって女性器にこんなに似てるんだろう。触感はコリンコリン、芯はゴリンゴリン、響くのが海の新鮮な塩味、そして後味は昆布の上品な風味が広がった。 ![]() 「ひろちゃん、昆布の味ってしませんか?」 「そりゃぁ、そうだよ。てっちゃん、こいつらは日高か利尻しか食ってないんだから」 そうだった、アワビは昆布を食べて生きているのだ。 ボタンエビはもちろんプリプリで、甘味が下にねっとりと絡まる。 次に出されたのが、焼きアワビ。 ![]() 七輪の網の上に、アワビを乗せると、よじれ、ねじれ、とじて ひらく。串がスッと刺さるくらいまで焼きこみ、いただきます。内臓の苦味、塩の香り、そして最後に醤油の味がした。 ![]() 「これって、醤油とかを少しだけ入れてるんですか?」 「うちは、全て自然のまま出していますので、醤油は一切使ってないんです」 倒れそうになる。何もせずに新鮮な極上なアワビは炭火で焼くだけで、こんな醤油の味が感じられるのだ。ようは海水の塩と昆布の味、そして内臓がともに焼かれて醤油っぽい味になるのだろう。 そして海のきゅうりと呼ばれる「ナマコ」。 するるっ、っと舌の上を滑るように落ちてゆく。 「てっちゃん、温泉場に書いてあった言葉、覚えてる?」 「何も足さない、何も引かない、ですか?」 「そうそう、開高健の名キャッチコピーをパクッたんだろうけれど、まさに料理もそんな感じだね」 ほんと、T旅館の出されるものに、調理用の油や香辛料は一切使われていなかった。 そして、アワビの肝が出される。 「軽く湯通しして、酢に付けました」 「てっちゃん、これはまずいから、食べなくて良いよ」とひろちゃんは涙ぐんでいる。はっきりいって、これは年齢制限を設けないといけないね。60歳未満は食べちゃダメ」 ひろちゃんは、今年、還暦を迎えていた。 食べてみると、ガツンと衝撃を受ける。 後味が永遠に続くような味。どんな味というよりも、まるで磯から海へ、海から深海へ。 そのすべての海そのものを食べている味なのだ。 ![]() 絶妙な味に、エンドルフィンが脳内に広がり、ボーっとしてくる。 初めて見る白貝は、上品な甘みが美味。 「不覚にも、わたくし、お酒を飲むのを忘れていました」とひろちゃんがお猪口をくいっとあげた」 「僕も不覚にも、未だ毛ガニまで到達しません」 ![]() 「よっしゃ、俺が今日のこの夜に名前をつけよう。“ポセイドンの晩餐”だな」 「あっ、もうひとつ浮かんだ。こんな新鮮な料理をそのまま出すなんて、超剛速球だから、味のランディージョンソンっていうのはどうだ?」 良いですねぇ。もう一声」 「じゃぁ、コレだな。美人の女とやり続ける拷問」 毛ガニにようやく手が伸び、途中に深海魚のモンケが出され、鍋を食べて、デザートのメロンで締め。食事が終わったのは、20時40分だった。 2時間10分も食べ続けていた計算になる。 それでも、満腹じゃないって、どういうこと? 「これって、料理がひとつもないですよね」 「そうだなぁ、切って、焼いて、蒸して、茹でて。出てくるものは全部、前浜ならぬエゾ前だな」 それから少し日本酒を飲んだところで、ひろちゃんも僕も就寝してしまった。 朝、露天風呂に入りながら、ひろちゃんが一句。 「エゾの秋、コナラの森で オナラする」 「山染めて ナナカマドや エゾの秋」 今日も、どんどん出てきますねぇ。 もう一個、言っちゃう? 「オーストラリアにはワラビー(有袋類)がいるけれど、北海道には絶品アワビィがいる。忘れちゃならないね。グーググー グーググー グゥググゥググゥ コォー。エゾはるみ」 「てっちゃん、絶対に人に教えたくない旅館とかってあるじゃん、ここって本当にそう言う場所だよな。「どこにあるの?」「いわない」。なんちゃって」 そんな馬鹿話をしながら、周りを見渡した。 ナラ、カツラ、山ぶどう、土、草、陽光、そして空に浮かぶ半月。 森が今日も、甘い香りを放っていた。 朝食も怒涛の剛速球。 イカサシ、イカの塩辛、サンマ、ジャコ、梅干し、味噌汁、有精卵とベーコンの目玉焼き、それに北海道産のお米“おぼろ月”。 朝食後、僕はトイレに駆け込んだ。 ウンチが出た瞬間、すぐに異変に気付いた。 ウンチが、ウンチが、僕のウンチから、なんと昆布の香りがするのだ。 ノムラテツヤ、僕は今日、産まれて初めてアワビになりました。 ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタンをクリックお願い致します! ↓ ココをクリック! ![]() |
コメント
お2人とも実に楽しそうですね~。
日本に帰ったら是非、参加させて下さい!! 日本の幸を食べたいです!! from Hawaii
青木夫妻へ タンデム自転車の旅もラストのハワイですね。日本に帰国されたら、一緒に遊びましょう。楽しみにしていますね。 野村哲也拝
2009-06-09 Tue 17:19 | URL | Tetsuya nomura [ 編集 ]
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