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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

人生の旅

行きたいところへ、行きたいときに、行ける幸せを想う。
この世に生を受けて間もなくの家族旅行、10歳からの一人旅、18歳からは日本国内と外国をずっと旅してきた。
転機は3度あった。
が、まずは生まれてすぐに、沖縄や八丈島へ連れていってくれたおとうとおかあに感謝したい。
写真を見せられて「てっちゃんは、行ったのよ」と言われても、全く記憶にない僕は、いつも「なんで大きくなってから連れて行ってくれなかったの?」と頬をふくらませた。
でも、今なら想う。
記憶に刻まれる前の旅が、どれだけ細胞に刻まれているかってことを。風景は、記憶されているのだ。それは脳を通して思い出せないだけ。でも体はハッキリと五感を通して覚えている。その証拠に、沖縄で漁師から、今しがた上がったばかりの巨大なボラを持たせてもらった時の、生ぬるい、ぬめりを帯びた感触は、目を瞑ればすぐに思い出せる。
記憶が定着するようになってからも、よく家族旅行に出かけた。
土日(週休二日ではない時代)だけではなく金曜日を休むこともあったので、おかあは大変だったと思う。毎回、国道脇の公衆電話から、朝の8時半前に、おにい、おねえ、僕の担任の先生へ休みの申請をする。背後にトラックが走っていく中、「もうしわけありませんけれど、てつやが風邪をひいたので、休ませてください」と。
担任も分かっていたが、黙認してくれた、良き時代だった。行き先はもっぱら長野か山梨、時には尾瀬や谷川岳といった関東方面まで遠征した。おとうは文句のひとつも言わずに、僕たちのために、高速道路のない時代に、国道だけを走り往復した。おとうが疲れてやしないかと、おにい、おねえの番が終わると、僕も肩たたきをした。
車の振動で眠ってしまい、起きたときは夜。まっすぐ前を見て運転するおとうの広い背中は忘れられない。
10歳になると、野村家は一人旅に出させられる。
僕が最初に選んだ場所は、飛騨高山と飛騨古川。僕はここで、1度目の転機を得ることになる。10歳の僕は、夕食をユースホステルでとることにしていた。ユースホステルはセルフサービスで、食堂のどこで食べるか、そして配ぜんも全部自分で決定しなくてはいけなかった。初めての経験に、どうして良いか分からないでいると、食堂のはじから声が聞こえた。
「おい、ぼうず、こっちに来て一緒に飯食おう」
27歳のお兄ちゃんが手を振っていた。
僕はモジモジしながら、お兄ちゃんと話すことに。
「ずいぶん小さいけど、家出か?」
「ちがいます、一人旅してるんです」
「そっか、そっか、ごめん、ごめん」
それからお兄ちゃんは、日本には北海道や九州の美しいところ、世界にはバイクで走り抜けたアメリカの大自然やヨーロッパの整然とした町並み、南米やアフリカの秘境の話などを、10歳の僕にも分かるように教えてくれた。
ドキドキした。
ワクワクした。
今、僕の生きている世界だけが、地球じゃなくて、そんな面白い別の世界があるんだ。
翌日、僕のあたまをくしゃりとつかんで、お兄ちゃんはバイクのエンジンをかけた。
「今度は、外国の何処かで、フラッと逢えたら良いな」
遠くなる背中を見つめながら、僕はいつまでも手を振っていた。
10歳からの旅は、僕に様々な自信をつけ、不思議さを感じさせてくれた。電車をひとつ乗り遅れるだけで、出逢う人が全て変わる。当たり前だけど、その現実が不思議でしょうがなかった。
旅は人を成長させると言うけれど、僕の人生で、あのときが一番伸びた時だったのかもしれない。自分で決めて、自分で旅を作り上げていたと思っていたあの時代が。
10~18歳までは毎年、休みになると、好きなところを旅した。
飛騨高山を皮切りに、木曽福島、神戸、富士、信州各地、青春18切符を片手に時刻表とにらめっこして旅を続けた。
18歳になると、僕の視線は自然に外を向いた。27歳のお兄ちゃんが言っていた世界が、一体どんなものなのか、見たかった、知りたかったのだろう。
外国の人たちと話し、何を考えているのかを感じたいと思った。
大学在学中は勉学というよりもバイトに精を出した。そしてお金が貯まれば、すぐに外国へ出た。
アメリカ一周をして要領をおぼえ、ニュージーランド、ネパール、ケニア、タンザニア、そしてアラスカ。
ここで第2の転機が起こる。心の師である星野道夫さんとの出会いがそれだ。星野さんの人柄と、男らしさ、そして何よりも少年らしさに強く惹かれた。そして生と死の境をいつも考える姿勢に、僕は虜になった。
あまりにも背中が格好良かったからか、僕も星野さんと同じ職業を選ぼうと決めた。
大学を卒業するときに、迷いはあった。大手旅行社の内定をもらったけれど、感覚として何かが違うような気がした。ちょうどその時は大学4年の夏、忘れもしない8月8日、星野さんはロシアのカムチャツカで、熊に食べられて天へ召された。それによって、僕はアラスカから遠のくことになる。僕はアラスカが好きだったけれど星野道夫さんが住むアラスカを愛していたのだ。
「好きなこと、今、自分に一番興味のあることをしよう」
その結果が、お金を貯めての南極行きだった。
ペンギンに逢い、南極の蒼い大自然に圧倒された。一度では飽き足らず2度目は季節を変えて行く。
ペンギンの赤ちゃんの愛くるしさに、星野さんがいなくなったショックが、少しずつだけど、確実に癒されていった。
「水」をどうしても研究したくて、旅行社をけって、大学院へ。
その間も旅をつづけ、24歳で大学院を卒業した。
その頃になると、迷いなく写真家の道を志すようになっていた。
周りの友達は、社会人になってゆく。けれど、僕はひたすらバイトの日々。久しぶりに同級生の友達に逢うと、もうみんな明日のことを気にしながら生きていた。もう僕のいる場所が、そこには無かった。
そのときの僕は、自分を表現する、体当たりする場を求めていたのだろう。南極に行く時に通ったチリとアルゼンチンに何度も通い、やがてそれは南米各地へ広がってゆく。
あの時から決めていた。僕はこの大陸の一番美しい場所に住むと。
パタゴニアは、美しかった。が、これよりももっと美しい場所があるかもしれない。その不安と好奇心を満たすために南米各国に足を踏み入れた。
ギアナ高地、ブランカ山群、コトパクシやチンボラソ山(エクアドルの最高峰)、パンタナール、コロンビア奥地のサン・アグスティンや失われた都のシンダー・ペルディーダなどを旅し、僕は初志とおり、パタゴニアに住むことを決めた。それが29歳のとき。けれど、いざ移住を試みてみると、仕事や私事が重なり、結局行けず仕舞。
そして30歳になると、周りの人から言われるようになる。
「てっちゃん、人生、そろそろ固い仕事に就いたら」
「趣味と仕事は違うよ。写真家みたいなヤクザのような仕事は長くは続かないよ」
『そんなことないですよ』と笑って抵抗するものの、あまりに沢山の人から一気に言われると、自分自身が見えなくなり、気持ちがぐらついた。
今のままじゃダメなのか? 人生はもっと固くあるべきなのか?
そんな風に悩んでいる時期に、扉を開いてくれたのが、ひろちゃんの友人、白根全ちゃんだった。ぜんちゃんは今も何で稼いでいるのか分からない自由人。独身で6月になるとアラスカにサーモン釣り、10月になるとフランスのシャトーでブドウ踏み。今まで行った国は160ヶ国以上。
「今までの一番のエピソードって何ですか?」と質問すれば「自分が、今、生きていること」と言える、“風のような人”だ。
ぜんちゃんに悩みを話すと、アドバイスしてくれる。
「そう出来ないと思うヤツラから、出来なくなるんだよ。人生に形なんて無いんだから」
僕のしたい道、それを体現されている人が、目の前にいた。
これが3度めの転機だった。
体の何かが、パチンと弾けたような気がした。
「自分の好きなことを好きなだけしよう。死ぬまで全力で遊ぼう。
その延長に、周りの人の幸せを探しながら」
その人がそこにいるだけで笑いがおき、花が咲く人がいる。ぐいぐい惹きつける人がいる。反対に風のように生きる自由人もいる。
僕の理想、進んでいきたい道は、その両方の道を融合させた新たな道。
前者はまさにペルー在住の天野博物館事務局長の阪根博。
後者はぜんちゃん。
2人の素敵なところを、自分の体に取り入れ、そしてあとは全力を出し切って生きたい。
32歳で結婚し、世界一周。
去年の11月からパタゴニアに住み始めたのも、その理想の延長上だった。
『人は帰る場所があるから旅に出る。人生こそが旅だ!』と、よく人は言う。でも、人生がどんな旅になるかは、結局分らないのだろうか? いや、多分そうじゃないのだろう。
受け取り方によって、どのようにでも自分は変われる。柔軟さがあれば、やっぱり死ぬまで好きな事をして生きていけると思う。
夢はかなう。想えば叶う、とかじゃなくて、想ったとおりにしかならないのだ。
想い方に、肯定、否定は無い。強く念じた想いが、現実を作り上げるのだ。
借金におびえる人は、借金をさらに作り上げ、楽しいことしか念じない人は、さらに楽しいことを連れてくるように。

バスに乗っていると、言葉が溢れることがよくある。書きたい衝動が抑えきれなくなるときがある。自分の中の想いが噴出することがある。
これも、原始脳が、揺れるという常動運動で活性化されて繋がっているのだろうか?
外は闇がびっしりと広がり、夜空には星が瞬き始めた。
光があるから闇が目立ち、闇があるから、光の存在が浮かび上がるように、僕たちは愛する周りがいてくれるお陰で、この世に立たせてもらっているのだ。
誰が欠けても、僕は生きていない。
そんな奇跡の星に手を合わせる。
合掌。
                                ノムラテツヤ拝    

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