写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

悠久杉

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写真を整理していたら、懐かしい一枚が出てきた。
今、あの杉はどんな風に森を守っているのだろう?
どんな静謐な空気に包まれているのだろう?
目を瞑ると、いつでもあの頃に還れるような気がした。
今から15年前、僕は「テツヤ通信」にこう綴っている。

「縄文杉」。
この名前にどれだけの人がロマンを感じているのだろう?
昨日、この杉に抱かれてきた。屋久島には、人に見つかっているだけでも(名前が付いているだけでも)縄文杉が37本あり、その中でも特に巨木なものは、ビックエイトと呼ばれている。縄文杉、ウィルソン株、大王杉、翁杉、大和杉、紀元杉、万代杉、そして弥生杉の計8本。
一昨日、昨日、今日と山を駆けめぐり、その全ての杉と逢ってきた。今日まで出逢った屋久杉の総数は19本。ちょうど半分だ。
矢山流の測り方で、気を測定していくと、最大が20として大王杉(18)、紀元杉(17)、大和杉(16.5)の順となる。
愛する岐阜の飛弾地方にある巨木でも10そこそこなのだから、この3本は尋常ではない気を放出している。
では、「縄文杉」は?
この問題は後回しにして、ちょっと前から話すとしよう。
島に着いたのは、2日前、僕は激安レンタカーを探していた。
ちょうど、運良く会社を見付け、聞いてみる。
「一日5000円が基本です」人の良い社長が言う。
それから値切って値切って、保険込みで一日3000円まで下げてもらう。そして僕は、今まで聞いた屋久島話の中で、心揺さぶられた話をさせてもらった。
「僕の古い友人なんですけれど、屋久島出身で写真家なんですね。彼曰く、縄文杉の裏山に、もう一つの縄文杉くらいの樹齢を誇る木が眠っている・・」と。さすが自称屋久島通と名乗るだけはある。社長は、頷きながら、「あるよ」と一言。
「それを全面的に公開しないのは、やっぱり痛んでしまうのと、第二の縄文杉として知られるのが嫌だからですか?」
「オマエさんは山を良く登るのかね?」
「すこしは」
「ちょっと待ってな、電話かけてみるから。いると良いんだけどなぁ~」
「あぁ~もしもし、今ここに変なヤツが来ているんだけど、例の話を知ってるんだよ。写真家Y氏の紹介で」
10分後、やってきたのはヒゲモジャの仙人のような男。名を仮にKさんとしておこう。彼が唐突に聞く。
「で、オマエさんはその杉を見たいのか?」
「出来ることならば」
「なら、連れてってやる。ただ守ってもらうことがある。沢登りとかしなくてはならないから、もし一度でも諦めたらそこで引き返すこと。時間にして丸一日はかかるから」
完全にKさんの勢いに押され、僕は少しばかり後悔し始めていた。話を聞くと、沢登りだけではなく、ロッククライミング、ケイビングのような事までしなければならないらしい。
早朝4時、Kさんと共に、縄文杉までぶっぱなした。
「縄文杉は通常の人で往復9時間。オマエさんの早さに関係なく、ワシは5時間で行く、じゃないと間に合わない」
ロボットのように話すKさんが前を行く。ヘッドランプの明かりを頼りに、漆黒のトンネルを抜け、トロッコ道を歩くこと1時間半、ようやく登山口までやってきた。よっし、と一気に登る。目標である2時間半で、何とか縄文杉へ到着した。
「結構早いなぁ~オマエ。良いぞ、このぶんなら間に合うかもしれない」
縄文杉へ早速ふれる。んっ、矢山流で測ると、最大の20を示す。というか無限大の数字。でも何か前出の3つの屋久杉とは違う。触ってみると顕著なのだが、前出の屋久杉は気持ち良い、でも縄文杉は怖ろしいほど体が、魂が引っ張られる感じがする。どこか遠い深海へ引きずり込まれていくような・・・・。
風景には、気には「陰」と「陽」がある。
前の3本が「陽」なら、明らかに縄文杉は「陰」となる。がしかし、陽と陰はお互いに調和して初めて完全に空気に溶け合う。
「何モタモタしてる、早く行くぞ!」
Kさんがイライラしてる。怖い・・・・・
「は、、はいっ!」
それからの道はきつかった。道は獣道となり、どんどん藪漕ぎして道を作ってゆく。あまりにも奥へ入ってゆくので、心配になってくる。一応、怖いので、ビニールテープのマークは付けてきているが、濃霧に包まれたら一発でおしまいだ。
沢登りではべっちょべちょになり、ロッククライミングではグッチョグチョ。もう体はボロボロ。でも不思議なことに息は切れないのだ。屋久島に来てから、ずーっとそう。屋久島と自分の体が合うのだろうか。
縄文杉から登ること、5時間。
Kさんが、突然立ち止まった。
「良くやった。これがその場所だ」
目の前には、縄文杉よりもでかいであろう、巨大杉が凛と立っていた。
なんなんだ、この静かなる迫力は。
「Kさん、この杉って名前無いんですよね」
コクッと首を傾ける。
「僕が名前付けても良いですか。悠久杉という感じですね」
「ほ~ん、じゃぁ、オレとオマエの中だけで悠久杉な」
悠久杉に初めて触れてみた。
生まれて初めて裸の女性を触るときくらい緊張した。
ゆっくり手をはわせると、手からゴーンと伝わる霊気。僕はその場に崩れ、号泣した。
縄文杉が陰、世界観で言えば「黄泉の国」。
悠久杉が陽、「天上界」への入り口となる。
つまり、2本で一体なのだ。
山を挟んでちょうど対称の位置で縄文杉と悠久杉が重なり、陽と陰が立ち上る。
そこに生まれる完璧なハーモニー。
その調和の気は何処へ行くのか?
一体何処から気は流れてくるのか? 
悠久杉と縄文杉から教えてもらった聖地へ、僕は明後日、目指すことにした。
PS、Kさんのお陰で出逢わせてくれた悠久杉、これはやっぱりそっとしておきたい。人間に見つかったら、きっとまつり上げられてしまう。そしてこの場所に来ようと人が殺到し、きっと死人が沢山でるだろう。それほど危険な場所に立っている。神経を削りながらようやく下山。時計を見ると、夜の21時を少しまわっていた。合計17時間半の旅。今日は休息日。屋久島にコノヤロ的な雨が降り注いでいる。
               ノムラテツヤ拝
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