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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

ドロミテ

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父が働いていた岐阜ユースホステル。
二階へ上がる階段のすぐ脇に、一枚の写真が飾られていた。
天を突くような急峻な岩峰に、緑の草原。そこにポツンと建つ教会。
「これって、どこ? 日本?」
「これはイタリアのドロミテっていうところだよ」
「ドロミテ」、聴いたことのない不思議な響きが、僕の心へ沈殿した。
大学生になり、自分の稼いだお金で海外へ行けるようになった時、候補地に挙がったのがドロミテ。でも、僕は兄の影響でアラスカのマッキンレー(今はデナリ山)を目指してしまった。
行けそうで、なかなか訪れなかった場所。そこへ41歳でようやく向かうことになった。
さっきまでの霧はより濃くなり、峠から先の細道は、純白の峡谷へ続いていた。
今日の宿はAirbnbで予約した民家。住むように旅をするには絶好の場所だ。荷物を運び入れる頃には、雨が降り始め、そのままスコールのような土砂降りとなった。
今日の撮影は無理だな・・・・・。
台所で焼きそばを作り始め、イタリアの至宝・フェラーリのスパークリングを抜いた。たっぷりのサラダと共に頂く夕食時、窓から西側の空を眺めると、雨雲が地平線あたりでスッパリと切れ落ちている。
手元の時計を見ると18時40分。
まさかな・・・
10分、20分、30分、時間が経つにつれ、どんどんその雲の切れ間は東側のこちらへと移動してくる。
40分後、雲の切れ間から光が漏れ始めた。
雨の中、僕は慌ててカメラを手に、外の車に飛び込んだ。
何処に行けば見晴らしが良いのか分からないけれど、ワイパーを強にしながら、細い坂道を上る。
そして夕日が西の空に姿を見せた瞬間、雨のカーテンに大きなダブルレインボーが架かった。みるみる光は強くなり、七色の雨の弓矢がクッキリと確認できる。
草地の脇に車を止め、小高い丘を駆け登った。
何時消えてしまうか分からない。焦る気持ちとは裏腹に、足元は雨露で滑りやすい。あと少し、あと少し、てっぺんへまで登り切ると、眼前の絶景に息を呑んだ。
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ダブルレインボーの端から端までが、しっかりと確認できるのだ。
そして上空の雲が薄くなるにつれて、憧れていたガイズラー山群がまるでシルエットを脱き捨てるように姿を現した。
天を突く針峰群。その前に緑の草原、そしてポツンと教会が。それらを全てくるむように、二重の虹がまあるく輝いた。
見た瞬間に、落涙する。
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雨なのか涙なのか分からぬまま、滲んだファインダーを覗いては無我夢中でシャッターをきった。
何枚撮っただろう。ファインダーに映し出される写真は、僕の感情の起伏が激しいためか、命がこもらない。
こんな時は急がず、まず目を瞑って力を緩める。そして目の前の自然に感謝すると共に全託する。やがて体が自然に引っ張られ始めたら、それに従うだけ。下り坂の一角へ連れていかれると、まさにそこは教会と虹の根元が重なる場所。レンズに付く雨をふき取り、マニュアルで焦点を合わせて、祈るような気持ちでシャッターを押し込んだ。
液晶に浮かび上がった写真を見て、思わず叫ぶ。
「うぉぉぉぉぉぉぉ~」
脳天から足元に落雷のような光が走り抜け、感動が四方八方へ爆発する。
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意識が薄れるにつれ山の波調と重なり始め、僕とガイズラー山群との境が突然ふっと消えた。次の瞬間、僕は山になり、山は僕になる。まるでゆりかごのような純白の真綿に、ふうわり抱かれているような快感だ。
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ガイズラー山群が雲を飛ばし、遂にその黄金に染まる全貌を現した。
憧れ続けた風景からの歓迎なのか、この田舎の民家に泊まってなければ、決して撮ることが出来ない光景だった。
時間にして10分くらいだろうか? 
雲が山を追い越すと虹は静かに消えた。
まるで今まで何もなかったかのように。この大自然の静と動のコントラスト。この差があるほど、僕は見惚れて、感動する。
空には、吸盤で吸ったようなポコポコとした鱗状の雲が流れている。
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西日が低くなってきた。
これからどんな夕焼けになっていくのだろう?
激しい雨でびっしょりと濡れたが、胸に手を当てると、熱いものが浮かび上がった。
                ノムラテツヤ拝
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テーマ:スナップ写真 - ジャンル:写真

ヨーロッパ | コメント:2 | トラックバック:0 |
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コメント

ドロミテ・・、死ぬ迄に行きたい場所のひとつに入っています。
ホントに奇跡的な写真ですね!!感動!!
神様が野村さんのために用意してくれたのでしょう!!
2016-09-14 Wed 00:55 | URL | ライラック [ 編集 ]
素晴らしい場所ですよ。ぜひいらして下さいね。
2016-09-14 Wed 17:18 | URL |  野村哲也 [ 編集 ]

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