写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

幸せの価値観

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「幸せって、なんだろう?」
ブータンはGNP(国民総生産)ならぬGNH(国民総幸福)という概念で一躍、時の国に躍り出た。この幸福思考は先代国王(四代目)の着想だと思われがちだが、実は四代目のお父さんである三代目国王の遺言だったという。
国民総生産よりも、自国の人々が幸福だと感じられる世界へ。
そのために行なわれたものが、国からの幸福質問状。その数は156問ほどある。
今回は特別に門外不出の中身を見せてもらうと、以下のような質問がズラリと並んでいた。

Q4, 結婚は何回目ですか? チェックして下さい。
初婚 2回目 3回目 沢山
Q27, 今日も先祖を感じましたか?
Q38, どれくらい氏神様にお参りに行きますか?
Q39, 日々の生活でカルマを感じますか?
Q91, 1年間でどれくらいボランティアをしましたか?
Q101, 夜になると何が怖いですか? 
人間、野生動物、幽霊
Q102, 昼間は何が怖いですか? 
人間、野生動物
Q105, 自然は魂と神の領域だと感じていますか?
Q106, 樹や水にも神様がいると信じますか?

これらを、全国民の27分の1の人の割合で、コンピューターが無作為で選択する。
役人たちが、その選択された人たちを意地でも探しだし、全員答えてもらうことで、その年のGNH委員会は役目を終える。
僕は、今までブータンの話を聞かせてもらう度、行ってきた人たちの貴重な体験談を聴くたびに、一つのイメージが浮かんできてしまう。
『誰に聞いても幸せと言う。その理由が判を押したように皆同じ』。
こんな意見を聴くと、嫌でも疑いたくなる。
「つまりブータンとは、情報統制された“幸せ教”なのではないか?」
今回、現地の人々に聴き取りをし、そして僧侶の話を聞かせてもらって、僕は大きな勘違いをしていたことに気付かされた。
「ガキーペルゾン」。
意味は現地のゾンカ語で、「希望を見る心」。つまり「Happiness」だ。
驚くべきことに、この言葉が出来たのはつい最近のことだという。それもGNHという思想が世に広まってからだというから、ブータンには幸せという言葉自体がそもそも無かったのだ。この国は敬虔な仏教国。もし今が悪くても、後世に良くなるように祈る。だから「不幸せ」という概念自体が存在しないという。
ある僧侶が言う。
「不幸せとは、すなわち自分のことを自分で信じていないこと。だからこそ、幼少の内から時間の概念を丁寧に教えます。まず重要なのは24時間の時間の使い方。
8時間働く、8時間睡眠、そして8時間家族と過ごすようにする。幸せとは自分ではなく、周りを喜ばせることだと刷り込みます。国がやることは、どうすると国民が幸せになるのか?市井の人々から聞き取ったものを実行に移す。例えば、教育費や医療費の無料化など・・・」
「田舎の人たちは、言わなくても分かっている。でもGNHはその価値観が薄れゆく町の人たちのため、そしてその子供たちのために作られたというのが真意なのです」
GNHの価値観は、遥か昔から、ブータンに息づいている根幹だったのだ。
ブータンが世界にしたこと。それは幸せな国を全面に出して目立つことではなく、世の中には、こんなに穏やかに生きる術がありますよ。もし良ければ皆さんも私たちと一緒に学んでみませんか?という世界への問いかけだったのだ。
ブータン人が全員幸せなのではない。というよりも、そもそも人に幸せですか?などと聴く意味がない。だって、幸せとは、心の在り方を指し、自分の心が決めることだから。
最近、ブータンの若者の中にも自己中心的な考え方を持つ者が出てきたと、僧侶は認めた。そして彼らは、決まってこう言う。
「不幸せだ」と。
幸福とは、心の在り方。自己肯定と他社肯定のバランスが取れている状態なのだと思う。どちらかが欠如していても、突出していても、そのバランスが崩れてしまえば、人は穏やかでなくなってしまう。
日々瞬間瞬間、揺れ動く心の在りよう。
だからこそ、日々の生活の中に、大いなるものへの、サムシンググレートへの祈りがある。
僕たちよりも偉大な何か?
それが、僕たち人間を謙虚にさせ、バランスを取らせてくれるのだろう。        
               ノムラテツヤ拝
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