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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

クオウエス

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前を走る変態がいてくれる幸せ。それをしみじみ感じる夜となった。
とある大手出版社の編集者Hさんを、僕は昔から兄貴と呼ぶ。
芸術全般、お酒全般、向かうところ敵なしの博学な兄貴から、僕は東京の美を沢山教えてもらった。
昔は寿司屋は、富山だ、仙台だ、天草だ、と吠えていたが、今は静かなもの。
だって兄貴に連れて行って貰った東京の2店を越える店が未だ見つけられないから。
「野村くん、ナショジオの投票も終わったことだし、久しぶりに何か食べようか?
仕事の話もしたいしさ」というわけで、お店は南青山の和食屋さんに決定した。
表参道のスパイラル前で待ち合わせすると、やっぱり今日も兄貴はお洒落さん。蝶ネクタイをさりげなく付けて、颯爽と現れた。
「元気そうだね」
「兄貴こそ」
タクシーで何度か細い道を曲がったところで降ろされた。
「分かりにくい店なんだ、ここらへんだと思ったけれど・・・あった、あった」とインターホンをならした。
「ここって、一見さんお断りのお店ですか?」
「いや」
「でも、絶対に最初の人は、このブザー押せませんよ」
中から美人の女性店員がひょこっと顔を出し、兄貴の顔を見るなりニッコリと笑った。店名は「挧翁S(クオウエス)」。もしこの名前にピンと来る人がいたら、あなたは間違いなく陶芸好き。それもかなりの。陶芸で初めて人間国宝をとった4人のう
ちの一人、石黒宗麿の雅号だ。
中へ入ると、サッパリした内観。
まずはビールを片手に、つきだしの貝を頂きながら、松茸の土瓶蒸し。上から見ると十字型の器に目がいく。
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日本酒に移ると、自分の好きなお猪口を選べるようになっている。ちょっとひしゃけた青いお猪口に一目ぼれ。
「野村くん、お目が高い。それ8万円」と兄貴がこそっと教えてくれる。
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ぬる燗をすする。もちろん美味いけれど、壊してしまったらと思うと酔えない(笑)。
ヒラメの3種盛りも、まるで天目のような模様に、川底の藻を想像させた。
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お酒が変わると、徳利も変わる。
「これ、ウン十万円」と、次々と高くなっていく。
何がそんな変わるのかと、その表面を撫でてみた。驚くことに、ザラ目なのにぞっとするほど滑らかだ。
鶏肉煮つけとジャガイモと枝豆で作られたスープ、あぶらの乗ったクエ。器はもう百万を超えていた。見ているだけで、静かな迫力が器から立ち上がってくるのだ。
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そして、松茸に鱧が巻かれた天ぷらに、ガツンと衝撃。松茸の香りに負けてしまうかな?と思いきや、鱧が良い仕事しますね。後味にすっと寄り添ってくる。
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そして、ノドグロのヘシコに出汁をかけたお茶漬けで、僕はとうとう即死した。
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ひとつひとつの丁寧な料理だからこそ、数百万の器にもしっくり来る。
茶道の長いクロモジでデザートの梨を頂きながら、兄貴と大将の四方山話に笑った。
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大将は、椀が好きすぎて、眠る横に置いて撫でまわしているそう。
「良い椀って、どのようなものですか?」
「飽きないもの、一年間同じ椀で飲んでも、飽きない。逆にどれだけ見栄えが良くても、わずかに破たんしているものは、何処かで飽きる」
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椀に限らず、それは人間にも言えることだなぁ~と、唸った。
だって、目の前にいる二人は完全に変態。破たんして突き抜けてしまっている。
有難いな、と思う。
こんな愛すべき先輩たちが、前を走っていてくれて。
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僕も安心して、変態道を突き進みます。
帰る時に大将が一言。
「この壺300万。でもこれを売って、500万のを買おうと思って。今度見せてあげるからね」
             ノムラテツヤ拝
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