老人と海2017-12-21 Thu 17:27
![]() 実を言うと、文豪ヘミングウェイを一度も読んだことがなかった。折角キューバに行くんだからと、鞄に忍ばせたもの。それがノーベル文学賞にも繋がった「老人と海」だった。 古都トリニダードから、カリブ海へ向かい、パラソルの下で読み始めた。文庫にして130ページ、2万7000語の文章は、ぼぼ最初から最後まで一人称、自身の行動、そこから湧き上がる内面の心の軌跡だけが書かれていた。 はっきり言って、最初の60ページくらいは退屈だった。まさしくそれが緻密に計算されたプロットだと知ったのは、読み終えてからのこと。老人サンチャゴが海へ出て、3日3晩巨大なカジキと対峙し、最後はサメとの壮絶な戦い。それらが淡々と抑制の聞いた文体で語られていく。そして、前半部分の仕掛けが後半に次々と繋がり、衝撃のラストまで一気に疾走する。この最 後の言葉を書きたいがために、この本があったのでは?という見事な切れ味で締めくくられた。 ヘミングウェイの筆法を語る上で欠かせないものがある。 「氷山の理論」と呼ばれるそれは、ヘミングウェイ自らの言葉で説明される。 「もし書いている対象を十分に心得ているなら、知っていることを書かなくてもよい。もし作家が真実を込めて書いているなら、書かなかったことであっても、読者には書いたも同然に実感される。氷山は水面に出ている8分の1だけで堂々たる動きを見せている」 魂が打ち震えた。 そう、自分が20歳の時に感動した星野道夫の名著「アラスカ~光と風」には、死という言葉がまったく書かれずに、行間から死の匂いや掟が漂ってきた。 知っているからこそ、そこについての体験を書かずに、体験の先に出てきた普遍的な経験を淡々と記すことで、書いたも同然となるのだ。 23年間解けなかった疑問が、ヘミングウェイのお陰で融解した瞬間だった。 ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタン ![]() ![]() |
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