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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

老人と海

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実を言うと、文豪ヘミングウェイを一度も読んだことがなかった。折角キューバに行くんだからと、鞄に忍ばせたもの。それがノーベル文学賞にも繋がった「老人と海」だった。
古都トリニダードから、カリブ海へ向かい、パラソルの下で読み始めた。文庫にして130ページ、2万7000語の文章は、ぼぼ最初から最後まで一人称、自身の行動、そこから湧き上がる内面の心の軌跡だけが書かれていた。
はっきり言って、最初の60ページくらいは退屈だった。まさしくそれが緻密に計算されたプロットだと知ったのは、読み終えてからのこと。老人サンチャゴが海へ出て、3日3晩巨大なカジキと対峙し、最後はサメとの壮絶な戦い。それらが淡々と抑制の聞いた文体で語られていく。そして、前半部分の仕掛けが後半に次々と繋がり、衝撃のラストまで一気に疾走する。この最
後の言葉を書きたいがために、この本があったのでは?という見事な切れ味で締めくくられた。
ヘミングウェイの筆法を語る上で欠かせないものがある。
「氷山の理論」と呼ばれるそれは、ヘミングウェイ自らの言葉で説明される。
「もし書いている対象を十分に心得ているなら、知っていることを書かなくてもよい。もし作家が真実を込めて書いているなら、書かなかったことであっても、読者には書いたも同然に実感される。氷山は水面に出ている8分の1だけで堂々たる動きを見せている」
魂が打ち震えた。
そう、自分が20歳の時に感動した星野道夫の名著「アラスカ~光と風」には、死という言葉がまったく書かれずに、行間から死の匂いや掟が漂ってきた。
知っているからこそ、そこについての体験を書かずに、体験の先に出てきた普遍的な経験を淡々と記すことで、書いたも同然となるのだ。
23年間解けなかった疑問が、ヘミングウェイのお陰で融解した瞬間だった。
            ノムラテツヤ拝
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