御嶽のちから2003-07-03 Thu 14:33
2003年7月3日
知念村(ちねんそん)へ向かっている。 海の蒼がそのまま太平洋に色づき、セミの声がこだまする。肌にまとわりつく熱風、やっぱり空気が濃い。圧倒的な自然力。風もどこか、楽しそう。 サトウキビ畑、ひまわり畑、そして屋根の上に乗る魔除け「シーサー」、知念の山腹に、沖縄に来た目的の一つの御嶽(ウタキ)がある。 冷房ガンガンのレンタカーを降りると、殺人的な太陽光が大地を焦がしている。 一瞬にして汗が吹き出てきた。 ウタキとは、琉球文化に息づく聖地のこと。 無数に存在する聖地の中でも、沖縄本島で最も高い力を持っているのが、この斉場(せーふぁー)ウタキと言われている。 霊威の高い場所らしく、森にはモンスターのようなシダ類がはびこっていた。 咳こんでしまうような草いきれの香り、そして木々の切れ間から見える見事な青空。 2羽の縞アゲハが空気と絡まりヒラヒラと樹幹を舞い、一本道が森内へ続いている。 足下には葉っぱの揺れる影が、ユラユラ波打ち際のような様相を示し、黄金色に蜘蛛の巣が光輝に満つる。 黄色、蒼、紫、白、オレンジ、視線を固定すると、沢山のチョウが体の周りを飛んでゆく。巨木の下にはマムシ草があり、森全体に緊張感を与えてくれる。 何といっても、ここはハブの棲む島だから。枝を折って、前方の大地を叩いてゆく。むかしおとうから習った、蛇対策。 まず現れたのが、うふぐーいのウタキ。深呼吸して感じて見ると、瞼の裏に3つの光が飛び込んでくる。ここが何かの儀礼に使われていたのは間違いなかった。 すぐ上にサングーイ(三庫理)があり、ここの自然力は見事だった。2枚の巨岩を組み合わせたトンネルのような場所に、ひっそりとウタキが作られている。岩そのものが、手と手を合わせた「合掌形」に見えてくるから、祈らずにはいられない。 コバルトブルーの光、その中に人々の姿、鍾乳石で出来たサングーイは、人々の聖なる拝所として、今まで使われてきていた。 出っ張った鍾乳石の一つから、滴が垂れる。そこに瓶が置かれ、水が一滴一滴入ってゆく。 そこに祈る人々、集まる賽銭。水への祈りが、アニミズムの世界を創りだす。 内へ入ると、岩、島、草、そこに息づく全てに、しっとりはんなり祈りが込められていた。 幸運な種子の一粒が、岩間から芽吹かせ、巨木に成長したそれは、岩を飲み込んでゆく。 琉球の祖神、アマミキヨが降り立った場所、久高島を望む場所に立つと、体が前に引っ張られるような感じを受ける。「早くここまでやって来い」久高島からそんな声が聞こえてきそうだった。 聖地は影が美しいと想う。 生まれる光の明暗。その美こそが、聖地の心とどこか重なるような気がする。 グランブルーのまあるい光が、岩に現れる。 目をこすっても、サングラスをかけても、やっぱり青い光が見える。 なんだ?なんだ? デジカメのシャッターを押すと、光は更に映り込んでくる。神の姿・・・、頭の中にそんな言葉がよぎった。 サングーイから上は、完全に結界が張られていた。 空気感もスッと自然に変わる。 一番上にある、ユンイチウタキに手を合わせ、また来た道を戻ろうとした。 背中には大量の汗が浮かび上がり、頭がぼんやりしてくる。 この感覚は・・・ 何かがこの近くにある。 しばらく座って見渡すと、ユンイチウタキの上に一本道がまだ続いていた。 観光客はここまで来て、回れ右をして帰ってゆく。 僕は一人、その道を登ってみた。 すると、このユンイチが陽のウタキだとすると、陰のウタキが待っていた。 どの聖地にもある陰陽の関係、そのご神木ならぬご神石があった。 岩の下が少しだけ開き、それはそのまま磐座信仰に繋がった。 空、石、人、地、一本の気の路で、天と直列する。 挨拶をすまして、磐座に入ってみる。 二人入るのがやっとの隙間。祈ると、手が火傷しそうになるくらい燃える。 祈り込み、祈りの質が極めて高いのは明らかだった。 沖縄には神の人、神人(カミンチュ)がいる。 かれらの最も地位が高いカミンチュが、ここで祈るのだろうか? その周りにも、3つのウタキがあり、家族の、沖縄の、世界の、平和を祈っていたのだろうか? ぼんやりする。祈り終わってから、何だかぼんやりする。 気の巡りは良いのだけど、なんだか・・・ それを言葉にすれば、沖縄に抱かれているようなそんな感じ。フワフワ、綿菓子の中に迷いこんだような感覚。 蝶々の羽ばたきが、スローモーションのように見える。ゆっくり来た道を下っていった。 下から2人のピチピチギャルが登ってくる。 「あの木って面白~い」 彼女たちの視線の先を見つめると、森影から素晴らしい岩が見えていた。 2人は、その岩には目もくれず、さっさと登ってゆく。 「あの岩は、あんなでかい気がある岩は、何かあるはずだ」 足下をじっと見つめると、一本の獣道が続いては、切れていた。 枝を探し、ハブに注意しながら進む。 道が消えたところから、その巨石まではほんの少しの距離だった。 覆い被さるような巨岩。その円形劇場の中心のような場所に入った瞬間、このせーふぁーウタキの意味をしった。 ここはきっとせーふぁーウタキの心臓部なのだ。 気がグルグルとまわり、全ての気が中心に集まってくる。 そこに置かれた拝所。 ここだ、ここ。ここに呼ばれたんだ。 しばらく僕は、この巨岩ウタキの下で、目を瞑った。 夜は、那覇で友人とお酒を酌み交わす。 「てつやさん、今日って何の日か知っていますか?」 首を横に振ると 「今日は旧暦で六月一日。沖縄では神様の日なんですよ、神の日にウタキに行かれたんですね」 僕は黙って、オリオンビールを飲み干した。 ノムラテツヤ拝 ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタン ![]() ![]() |
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