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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

御嶽のちから

2003年7月3日
知念村(ちねんそん)へ向かっている。
海の蒼がそのまま太平洋に色づき、セミの声がこだまする。肌にまとわりつく熱風、やっぱり空気が濃い。圧倒的な自然力。風もどこか、楽しそう。
サトウキビ畑、ひまわり畑、そして屋根の上に乗る魔除け「シーサー」、知念の山腹に、沖縄に来た目的の一つの御嶽(ウタキ)がある。
冷房ガンガンのレンタカーを降りると、殺人的な太陽光が大地を焦がしている。
一瞬にして汗が吹き出てきた。
ウタキとは、琉球文化に息づく聖地のこと。
無数に存在する聖地の中でも、沖縄本島で最も高い力を持っているのが、この斉場(せーふぁー)ウタキと言われている。
霊威の高い場所らしく、森にはモンスターのようなシダ類がはびこっていた。
咳こんでしまうような草いきれの香り、そして木々の切れ間から見える見事な青空。
2羽の縞アゲハが空気と絡まりヒラヒラと樹幹を舞い、一本道が森内へ続いている。
足下には葉っぱの揺れる影が、ユラユラ波打ち際のような様相を示し、黄金色に蜘蛛の巣が光輝に満つる。
黄色、蒼、紫、白、オレンジ、視線を固定すると、沢山のチョウが体の周りを飛んでゆく。巨木の下にはマムシ草があり、森全体に緊張感を与えてくれる。
何といっても、ここはハブの棲む島だから。枝を折って、前方の大地を叩いてゆく。むかしおとうから習った、蛇対策。
まず現れたのが、うふぐーいのウタキ。深呼吸して感じて見ると、瞼の裏に3つの光が飛び込んでくる。ここが何かの儀礼に使われていたのは間違いなかった。
すぐ上にサングーイ(三庫理)があり、ここの自然力は見事だった。2枚の巨岩を組み合わせたトンネルのような場所に、ひっそりとウタキが作られている。岩そのものが、手と手を合わせた「合掌形」に見えてくるから、祈らずにはいられない。
コバルトブルーの光、その中に人々の姿、鍾乳石で出来たサングーイは、人々の聖なる拝所として、今まで使われてきていた。
出っ張った鍾乳石の一つから、滴が垂れる。そこに瓶が置かれ、水が一滴一滴入ってゆく。
そこに祈る人々、集まる賽銭。水への祈りが、アニミズムの世界を創りだす。
内へ入ると、岩、島、草、そこに息づく全てに、しっとりはんなり祈りが込められていた。
幸運な種子の一粒が、岩間から芽吹かせ、巨木に成長したそれは、岩を飲み込んでゆく。
琉球の祖神、アマミキヨが降り立った場所、久高島を望む場所に立つと、体が前に引っ張られるような感じを受ける。「早くここまでやって来い」久高島からそんな声が聞こえてきそうだった。
聖地は影が美しいと想う。 
生まれる光の明暗。その美こそが、聖地の心とどこか重なるような気がする。
グランブルーのまあるい光が、岩に現れる。
目をこすっても、サングラスをかけても、やっぱり青い光が見える。
なんだ?なんだ?
デジカメのシャッターを押すと、光は更に映り込んでくる。神の姿・・・、頭の中にそんな言葉がよぎった。
サングーイから上は、完全に結界が張られていた。
空気感もスッと自然に変わる。
一番上にある、ユンイチウタキに手を合わせ、また来た道を戻ろうとした。
背中には大量の汗が浮かび上がり、頭がぼんやりしてくる。
この感覚は・・・
何かがこの近くにある。
しばらく座って見渡すと、ユンイチウタキの上に一本道がまだ続いていた。
観光客はここまで来て、回れ右をして帰ってゆく。
僕は一人、その道を登ってみた。
すると、このユンイチが陽のウタキだとすると、陰のウタキが待っていた。
どの聖地にもある陰陽の関係、そのご神木ならぬご神石があった。
岩の下が少しだけ開き、それはそのまま磐座信仰に繋がった。
空、石、人、地、一本の気の路で、天と直列する。
挨拶をすまして、磐座に入ってみる。
二人入るのがやっとの隙間。祈ると、手が火傷しそうになるくらい燃える。
祈り込み、祈りの質が極めて高いのは明らかだった。
沖縄には神の人、神人(カミンチュ)がいる。
かれらの最も地位が高いカミンチュが、ここで祈るのだろうか?
その周りにも、3つのウタキがあり、家族の、沖縄の、世界の、平和を祈っていたのだろうか?
ぼんやりする。祈り終わってから、何だかぼんやりする。
気の巡りは良いのだけど、なんだか・・・
それを言葉にすれば、沖縄に抱かれているようなそんな感じ。フワフワ、綿菓子の中に迷いこんだような感覚。
蝶々の羽ばたきが、スローモーションのように見える。ゆっくり来た道を下っていった。
下から2人のピチピチギャルが登ってくる。
「あの木って面白~い」
彼女たちの視線の先を見つめると、森影から素晴らしい岩が見えていた。
2人は、その岩には目もくれず、さっさと登ってゆく。
「あの岩は、あんなでかい気がある岩は、何かあるはずだ」
足下をじっと見つめると、一本の獣道が続いては、切れていた。
枝を探し、ハブに注意しながら進む。
道が消えたところから、その巨石まではほんの少しの距離だった。
覆い被さるような巨岩。その円形劇場の中心のような場所に入った瞬間、このせーふぁーウタキの意味をしった。
ここはきっとせーふぁーウタキの心臓部なのだ。
気がグルグルとまわり、全ての気が中心に集まってくる。
そこに置かれた拝所。
ここだ、ここ。ここに呼ばれたんだ。
しばらく僕は、この巨岩ウタキの下で、目を瞑った。
夜は、那覇で友人とお酒を酌み交わす。
「てつやさん、今日って何の日か知っていますか?」
首を横に振ると
「今日は旧暦で六月一日。沖縄では神様の日なんですよ、神の日にウタキに行かれたんですね」
僕は黙って、オリオンビールを飲み干した。
                 ノムラテツヤ拝
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