ペルーダック2009-02-19 Thu 01:53
![]() ペルーが好きだ。 パタゴニアの森から飛行機を乗り継いで、ペルーの首都リマへやってきた。 ミラフローレス地区のいつもの宿に荷を下ろし、早速愛すべき人と待ち合わせる。 「よぉ~、元気してた?」 敬愛する阪根ひろちゃんが、半そで短パンといういでたちで、やってきた。少し痩せられたかな? 「夏ですねぇ~」 「これがペルーよ。リマ晴れだな」 僕は、今までぺルーに20回ほど来ているが、砂漠の花が咲き誇る9月か10月に滞在することが多か った。だからだろうか、リマという町全体がガルーア(海霧)に包まれた印象を持っている。 真っ青な空に、薄いイッタンモメンのような雲が流れてゆく。 「じゃ、行こうか」と向かったのは、ペルーリマのセントロ(中心街)だ。 ひろちゃんと一緒に旧市街に行くなんて、いつ以来だろうか? リマは、ミラフローレス地区とセントロ地区があるけれど、一般的に治安が悪いとされる旧市街は、よほどの事が無い限り、現地民も近寄らないのだ。 「でも、今日は旧市街に行かないと食べられないものだから」 ひろちゃんに最初に逢ったのは、今から8年ほど前。 南米一周の一人旅をしている途中だった。ペルーの地で、何度美味しい食事に唸らせられたことか。 今なら自信を持っていえる。世界三大料理は、中国料理、フランス料理(イタリアも含める)、あと残りの一席はトルコではなく、日本、韓国、ペルー料理のどれか、だと。 それほど、ペルーには美味いものが溢れる美食の国なのだ。 ペルーの昼、と言えばセビーチェなどの海鮮ランチと相場が決まっているが、今回は中華料理だという。 「オレが今まで食べた中華料理の中でも突出してる店がペルーのセントロにあってさ。ペルー・ナンバーワンだと思う」 「ペルーのナンバーワンなんですか?」 「いや、ごめん、違うな。香港のY酒家よりも美味しいかもしれない」 その言葉を聞いてのけぞった。Y酒家と言えば、香港の名店中の名店。そこよりも美味しいお店がペルーの旧市街にあるなんて。南米13ヶ国には、少ないながらも中華街がある。その筆頭がブラジルとペルーだった。 旧市街の昼は、やはり雑多な香りに包まれていた。森の鮮烈な空気感に慣れていた自分は、匂い の多様性に、鼻をクンクンさせてしまう。 アバンカイ通りを抜けて、偽造証明書屋さん、子犬からイグアナまでの違法ペット屋さんなどを横目に、カポン通りに入ってきた。カポン通りの両脇には中国の建物、食材屋、レストランなどがひしめきあい、漢字がありとあらゆるところに溢れている。そんな中を迷いなく歩くひろちゃんは、半そで短パン。もう現地の中華人にしか見えなかった。 「ここだよ、ここ」 レストランKの前でひろちゃんが立ち止まった。 ショーウィンドーの中に吊るされた焼きものを見ながら、左手の階段を上ってゆく。2階には、いるわ、いるわ、満員御礼のお客さんの8割は中国人だった。 テーブルに座ると、赤と黒のチェック服を着たボーイがやってくる。 「いつものヤツ」とひろちゃん。 ボーイは、すぐに裏手に下がり、ビールを3本持ってきた。 「ここはさ、昔から知ってたんけれど、この前久々に来てしみじみ食べたんだ。う~んと唸って、また4日後にまた来て、しみじみとさ」 ビールで乾杯し、ひろちゃんの四方山話に、耳を傾けていると、さっきのボーイが飴色の物体を運んできた。今日のメインは“北京ダック”だった。 ![]() 「オレが今まで食べた中でも、この店のは極上だ」 ボーイがダックの皮を薄く薄く切り分けていく。自分も中国で4回ほど、この飴色ダックを食べたことがある。北京、広州でそれぞれ2回づつ。 北京ダックは薄く切るのが勝負。このボーイの技術は、見ていて気持ち良かった。 カリカリのビーフンというか、ベビースターのような上に、薄切りが丁寧に敷き詰められてゆく。 「まずさ、北京ダックって、美味しいとかまずいとか言うこと自体が贅沢なんだよ。だって日本に住んでて、北京ダックをしみじみ食べるなんてあんまり無いだろ。大抵の場合は結婚式とかの晴れの日に、ちょっとつまむくらいでさ」 「そうですよね。でもこの北京ダックって、何で中華料理でこれだけ有名になったんですか、最初に作られたのは、いつ頃なんでしょうね?」と早速疑問を人間トリビア、知的文化遺産の阪根ひろちゃんにぶつけてみる。 「やっぱりまずは宋の時代だろ。あのときにコークスが産まれてから、中華の料理が激変したのは間違いない」 中華は火力が命。その火力の元がコークスだった。 「そこに北京という土地柄、いろいろなものが集まってくる。アヒルの有名な産地から送らせ、宮廷料理として完成させたんだろうなぁ」 おつまみに、米粉のクレープを食べながら、更に話を聞く。 ![]() 世界三大料理は中国、フランス、トルコと言われている。が、どれもその料理は宮廷料理が発祥とされ、宮廷に仕えた人たちが、やがて庶民に味を伝え、それが僕たちの口に入ってくるという流れなのだ。 テーブルの上に置かれたネギがこれまた可愛い。ネギを小さなピーマンの輪切りで束ねてあるのだ。ピーマンをはずし、ネギを割く。 ![]() そしてトルティーヤみたいな薄い皮に、薄い北京ダックを乗せ、上にネギを載せ、辣と呼ばれる香辛料を付けて食べる。 ![]() ![]() 「んっ、んっ、上品ですねぇ」 「そうだろ、ここのは油っぽくなくて、上品極まりない」 くどくないので、何個でも行けてしまう。 そして次に出てきたものに、僕は目を丸くした。 レタスの上に輪切りのアスパラ、ニンジンとセロリとズッキーニのみじん切り、そして黒い肉のようなものがピラミッド型に積まれる上に砕かれたカシューナッツがまぶされている。 ![]() 「何ですか、これ?」 「さっきの中身だよ」 中国で何度も不思議に想ったことはココだった。北京ダックという料理を頼むと、悲しいことに殆どの場合「皮」だけ出てきて、ダックの中身は出てこないのだ。が、ペルー中華は、中身も北京ダックという料理の枠に含まれているらしい。 それらを、辣につけて食べた瞬間、口内に多様に広がる味に、僕は沈没した。 ペルーはアマゾンを抱える国。そのアマゾンからこのカシューナッツは運ばれてきているのだろう。味が違う、味の深みが。中国の華、北京ダックの肉をこうやって出すこと自体が、僕にとって初体験だった。 無我夢中で食べる。 「てっちゃん、ビール飲むのも忘れてるよ」とひろちゃんがコップを空けるように促す。 ほんと、ほんと、忘れてました、照れ笑い。 まさに犯罪の味だった。 「てっちゃん、美味しい北京ダックを食べたけりゃ、ペルーに来なきゃな」 スペイン語で、北京ダックのことを「パト・ペキネス」という。 「ここはペルーだから“パト・ペルネス”だな」とひろちゃんが、ふうわり笑った。 頭がボーっとなり、椅子に根が生えてしまったよう。 僕はしばらく動けなくなり、ただ、ただ、味の深みを体中に沁み渡らせた。 確かに美味い。皮と肉、この両方だと、僕も同感。今まで食べたどのペキンダックよりも、ペルーダックのほうが美味かった。 ペルーは奥深い。今回の旅は2週間を予定しているけれど、文化と味の旅になりそうだ。 帰り道、ひろちゃんにピスコサワー発祥のバー「ホテルM」に連れていってもらい、昼下がり午後に、レモン色のカクテルを飲んだ。 そして、夜がまた凄かった。 ひろちゃん宅に招待されて、今度は海鮮攻め。 その前に、お酒攻め。 「まぁ、ペルーは田舎だから、こんなお酒しか用意できないんだけれど」 出されたのは、何とジャパンが世界に誇る日本酒「洗心(せんしん)」だった。 ペルーで銘酒・洗心って・・・・・。 「こんなのもあるけれど」と福井産の「梵」まで出てくる。 ほんと、とんでもない家ですこと。 久しぶりの日本酒を啜り、その後は見たこともないチリ産のワインを。 テーブルの上には、巨大な川エビを蒸したものと、さっきまで生きていたワタリガニのカングレッホが並ぶ。そしてひろちゃんの親友トシさんのところからお寿司も届けられた。もう僕の目なんか、キランキラン。 デザートはマラクーヤ(パッションフルーツ)とチチャモラーダ(トウモロコシの発酵酒)のクレモラーダ(アイスクリーム)で締め。 美味しい食事と美味しいお酒、気の置けない人たちとの楽しい会話。世の中にこれ以上の幸せってあるんだろうか? 僕の体は幸福感にボワンと包まれ、時間は緩やかに、夜はしっとりと更けていった。 ノムラテツヤ拝 ![]() ランキングに参加しています。“地球の息吹”を楽しくご覧下さった方は、ぜひ1日1回「人気ブログランキングへ」ボタンをクリックお願い致します! ↓ ココをクリック! ![]() |
コメント
阪根さんの元気な姿を見ることができて何よりです。昨日「宇宙の約束」の映画をみました。阪根さんの祈りの話や、哲也さんの写真も見ました。よかったですよ~。
2009-02-19 Thu 07:37 | URL | toko [ 編集 ]
3か月ぶりに阪根さんと逢ったのですが、少し痩せられて元気そうでした。みんなが幸せな方向へ進んでいるのですね。姫の言葉を借りれば「いつかいい日のために・・・・」ですね。
2009-02-19 Thu 11:56 | URL | Tetsuya nomura [ 編集 ]
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