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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

盛岡へ

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帰国後、すぐに東京駅から盛岡へ向かった。
お葬式には間に合わなかったが、大好きなこうちゃんに逢いに行く。数日前、海外でアテンド中、盛岡の仲間からメールが届いた。お葬式の時に読みたいので、何かメッセージを送って欲しい、と。こうちゃんのことを想い、何度も溢れる涙をおさえながら、綴った。
お葬式当日、「地球の息吹」ブログ(http://fieldvill.blog115.fc2.com/)のメッセージに以下のようなメールが届いた。

今日の孝太郎さんのお葬式。野村さんの弔辞(代読)に、多くの人が涙しました。私は、孝太郎さんの元部下。ご退職後も、一緒に働いた部下たちで、孝太郎さんと時々お会いし、アンデスや南極の土産話を伺っていました。もちろん、お酒をのみながら。
野村さんの弔辞から、色んな謎もとけました。これからは、あの世でもっと自由に楽しく豪快に旅をすることでしょう。あの世での再会が楽しみです。

ビックリした。海外からの手紙の一部として読まれる、または見せると思っていたのが、まさかの弔辞とは。代読は進行役の女性が抑揚をつけて丁寧に話してくれたらしい。
少し長いですが、そのメッセージを記します。
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佐々木 孝太郎 様へ
2017年4月28日、僕は仕事を終えて、東京駅から東北新幹線で北上した。夕闇が迫るころ、遠くに優美な岩手山が見えてきたら、目的地はすぐそこだ。
「盛岡」。この雅な町に、スーパーマンが住んでいる。佐々木孝太郎さん、僕たちは「こうちゃん」と呼ぶ。
今まで僕が主催させてもらった海外ツアーは20カ国以上になるが、その全てに参加された唯一の人、それがこうちゃんだった。
10年前からは「こうちゃんツアー」と銘打って、ギアナ高地、ガラパゴス諸島、南アフリカ、ウユニ塩湖、南極、ナミビア、ペルー北部、アイスランドと独自ルートで楽しみ、4年前の喜寿(77歳)の誕生日は、ペルー北部の秘境、チャチャポーヤスのレストランでお祝いした。 
2年前、アイスランドを旅している時、こうちゃんから「帰国したら手術を受ける」という話を聞いた。病名は食道ガン。帰国後こうちゃんは入院。僕もお見舞いに駆け付けた。それ以来の再会だ。こうちゃんは持ち前の心の強さで手術を乗り切り、懸案になっていたスペイン・バスク地方へのこうちゃんツアーが、そろそろ実現できそうだというので、打ち合わせに来たのだ。
レンタカーで向かうと、こうちゃんが家の前で待っていてくれた。
「もうすぐ来るかな、と思って」
久しぶりに抱擁すると、こうちゃんは痩せていた。
「よく噛んで食べないといけなくて、20キロも痩せた」
県の文化財でもあるこうちゃん宅に上がらせてもらい、奥様の紀子さんの手料理を頂いた。フキ味噌やウルイなど春の味を楽しみ、タラやウド、コシアブラの天ぷらまで。久しぶりにお酒を酌み交わしていると、こうちゃんが話し始めた。
「この前、パスポートが切れてしまって、どうしようか悩んだ。でもやっぱり、旅がしたい。歩きたいって思って」
「更新されたのですね?」
「うん、10年用を」
僕は自分が80歳になったとき、果たして10年有効のパスポートを更新できるだろうか?
人間は、特に男性は、年をとるほど、家の中から出なくなる傾向がある。それなのに、こうちゃんは退職してからも、世界各地を一緒に歩き倒しているのだ。
「今はなかなか食べられないけれど、少しずつ。少しずつ。必ずそれまでには食べられるようになっているから、ぜひ今年もひとつ」
こうちゃんは静かに頭を下げ、どうしても今年バスクへ行きたいと言う。僕は涙が溢れそうになった。誰にでも頭を下げられる大人でいたい。ふんぞり返ったり、胸を張り続けるのではなく、僕はしなやかに頭を下げられる人でいたい。こうちゃんのように。
紀子さんに優しい視線を送りながら、「ほんと、世界をたくさん歩かせてもらったなぁ。良い友達もいっぱいできたし」
その言葉を聞いたとき、僕は一瞬で共に旅したイースター島へ引き戻された。
チリの首都のサンティアゴ。市場へ行こうとしていたが、こうちゃんは熱を出していたため、ホテルにいた方が良いのでは?と伝えにいった。こうちゃんは、「絶対に行く」と言い張り、皆で市場へ。そこでこうちゃんが語った。
「この年になると、友達っていうのが少なくなっていく。まず定年して激減し、それからはひとり、またひとりと友達がこの世を去っていく。それは本当に寂しいもんだ。でも、俺は幸せだ。この年になっても毎年、ツアーに参加して年下の素敵な友達がどんどん増えていくんだから」
そこにいた全員が、こうちゃんの気持ちのこもった言葉に打たれた。
僕たちは生命のバトンを渡され、次世代にそれらを渡していく。年齢を重ねても外側へ出ていく人と内側へこもる人、その差は一体どこにあるのだろう?
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2019年7月10日、長い入院生活を経て、こうちゃんは自宅へ戻ってきた。
翌朝、目覚めると、こうちゃんは小さな声で「氷が舐めたいと」と呟いた。紀子さんはすぐに冷蔵庫から氷を持ってきて、小さくして口に含ませた。台所に行こうとする紀子さんをこうちゃんは呼び止め、「お前はここにいろ」とかすれた声で言う。紀子さんは、「足でも温めましょうか?」、「お揉みしましょうか?」とその場にいると、すぅ~っと、静かに息が薄くなり、こうちゃんはそのまま旅立ったという。
「本当に最後まで孝太郎さんらしくて・・・」
亡くなった日、知らせてくださった電話口で語る紀子さんのその話を聞いて、僕は涙をこらえることができなかった。誰よりも強く、そして誰よりも優しい。老若男女から愛され、分け隔てなく皆を愛したこうちゃんは、苦しむことなく、静かに、愛する紀子さんに見守られながら、肉体を離れた。
分かるよ、こうちゃん。無機質な病院で亡くなるのが嫌だったんだよね。大好きな思い出たっぷりの自宅で、息を引き取りたかったんだよね。誰もが「あんな風に年を重ねていきたい」、そう思わせてくれたこうちゃんの大きな背中を、僕は必ず受け継ぎます。
こうちゃん、明後日逢いに行きますね。一緒に美味しい日本酒を酌み交わしましょう。            
            異国の地より 野村哲也拝
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