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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

ラストカット

DSC04206.jpg

写真家・星野道夫が亡くなったのは1996年8月8日。
今からもう23年も前になる。
最後の遺作となったのが、家庭画報(世界文化社)で連載していたものを纏めた「森と氷河と鯨」だ。
物語は原住民のアサバスカン族やハイダ族の先住民が心にずっと抱いてきた「ワタリガラスの神話」。そこを幹として、枝葉が紡がれる見事な一冊となるはずだった。しかし、想い半ばで師はこの世を旅立ち、残された僕らは未完のままの本を、虚無感に襲われながら何度も読み返した。
編集者からの話によれば、星野さんはこの本を紡ぐにあたって、最後の写真を決めていた。それはハイダグアイ(その頃はクイーンシャーロット島)で撮った豊穣な海。干潮になったときに現れるナマコやヒトデが、まばゆい命の光を放ったカットだった。
絶景温泉に浸かっていると、遥か彼方に見える山並みに胸がざわめいた。あの何度も繰り返し見た、豊饒な海の写真。その背景と妙に似ているのだ。
慌てて服を着替え、一目散で海べりへ下りた。長靴を履いたまま、静かに水面を揺らしていくと、そこには赤や橙色のヒトデ、そして小さな蟹たちが歩き回っている。腰をかがめてファインダーを覗くと、それは星野さんが最後に撮影した写真と重なった。シャッターをきった瞬間、星野さんの存在を目の前に感じた。
「よくここまで来たな!」
あの優しい笑顔に、僕は一瞬で包まれた。
生きる者と死する者、有機物と無機物の差は、一体どこにあるのだろう? 本当は境そのものが無いのかもしれない。すべては見えないだけで、皆が繋がっている。命も、そして想いも・・・。
              ノムラテツヤ拝
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テーマ:スナップ写真 - ジャンル:写真

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