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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

幸福の2冊

庭一面にタンポポの花が咲き誇り、少しだけ肌寒い風がビュワワーっと音をたてて西から東へ流れてゆく。
遊びにきているチャチャは日陰で昼寝し、オソルノ山は輪郭をクッキリ浮かび上がらせている。今年に入って、縁起の良い初夢を見たことは書いた。あまりにもハッキリと覚えていて、今もちょっと気味が悪いほど。
富士山から鷹が見えるのは分かるが、茄の気球はないだろと突っ込みたくなる。
正月は餅を食べ、もっぱら読書をして過ごした。
読んだのはイギリス人旅行作家であり、大好きなブルースチャトウィンの友人、レドモンド・オハンロンが書いた『コンゴジャーニー』と、沢木耕太郎さんの『凍』だ。
コンゴジャーニーの方は、政情不安のコンゴ共和国へ行き、幻の恐竜ムベンベを探す壮大なるノンフィクション。何より目を奪われるのが、まだ未開発のコンゴの森の豊饒さ。コンゴとザイールだけにしかいないゴリラをはじめ、珍獣、幻鳥など、歩くだけで沸き立ってくるような高揚感があった。
数か月前、ゴリラが数百匹生息する森がコンゴで発見されたのは記憶新しい。
そして、この本を素敵にしているのは、何よりもレドモンドの風景描写能力の高さ。起こったことだけを正確に描写し、飾る言葉を全て省く。
冷徹に物事の本質を射抜く視線、そして溢れる好奇心の先に起こる奇跡。あることだけを訥々と正確に描写するのは簡単じゃない。簡単な言葉で書いてしまえば済んでしまう一行を、オハンロンは一息一息 自分の息をも観察するように書き記してゆく。後から知った話だが、オハンロンは記憶力が良いのはもちろん、あったことを常にノートに書いて書いて書き留めてゆく。
コンゴジャーニーは上下巻で、最近アフリカに興味が向いている僕にとっては、うってつけとなった。
そして沢木さんの凍は理想を見せつけられたようなショックを味わった。
凍と書いて「とう」と読む。
天才クライマー、山野井夫妻の生死をかけてヒマラヤの高峰・ギャンチュカンでのクライミングストーリー。山野井さんは去年、奥多摩で熊に襲われ鼻をもげながら顔面に70針縫ったことでもニュースになった。
アナウンサーが「大変でしたね?」と声をかけると山野井さんは「ただ、鼻がもげただけや」と呟いたという逸話も。
日本におけるフリークライミング、またはソロクライミングと呼ばれる部門で、天才と言われた男が2人いる。一人は今も天才という名を欲しいままにし、世界最高のクライマーと言われる平山ユージ。そしてこの本の主人公の山野井泰史さんだ。
パタゴニアのチャルテン(フィッツロイ山)の冬季単独初登頂に成功したのも他ならぬ山野井さんだ。
奥さんの妙子さん、この人もまた遠藤由香さんと共に日本の女性フリークライミング界を背負ってきた人。
山野井夫婦は、ギャンチュカンを目指し登ってゆく。が、アタックキャンプを過ぎた辺りで妙子さんが体調不良により、それ以上登れなくなってしまう。泰史さんは、ひとり頂上へ上がるが、ここから天候が一気に崩れ、命からがらアタックキャンプへ戻ってくる。
翌日からは更に天候は荒れ、何度か雪崩にあい、それでも夫婦はどちらか調子の良い方が相手を助け、夜はマイナス40度の中、ビバーク(岩に張り付いて眠ること)を余儀なくされる。
翌日にも2度の雪崩に逢い、また夜は体力を振り絞ってビバーク。
世界にクライマーと呼ばれている人は星の数ほどいるが、この過酷な「凍」の状態を「闘」できたのは、二人の技術の高さ、メンタル部分で決して諦めなかった強い心、そしてその両方を支えたの「夫婦の絆と愛」だった。
本を読み終えたとき、僕は2つの事を感じずにはいられなかった。
「人間はこれほどまでに強く、美しいものなのか。これほど力があるものなのか」
そして「これを聞きとりをしながら、インタビューをしながら一冊のストーリーとしてまとめ上げる沢木
耕太郎という人は、なんと稀で非凡な才能を持っている人なのだろう?」
凍にいたっては、僕は3度も読みながら泣いてしまった。
まさに人間賛歌が、この本にぎっしり詰め込まれていた。
本って素敵なものだと想う。
一冊の中に登場人物、著者、読者が入り組むことによって、無限の広がりが出てくるのだから。
「僕もこんな本を作ってみたい」 
心の奥から力が沸々とわいてくるのを感じた。
                                   ノムラテツヤ拝 

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