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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

花舞いの季節

かたくりの群生

『春の使者』
「シベリア抑留時代、極寒の中で働かされ、次々に友が死んでいった。自分の生命も、ここで途切れると思っちょったよ」
宇野留一さん(八十六歳)は、そっと語り始めた。
森の香りに満ち溢れる宇野さん宅。コタツに入りながら、ゆったり耳を傾けた。
「シベリアでの夏、荒涼とした大地にも、一瞬の色が生まれる。それが野菊じゃった。花は良いなあ。本当に心が救われたもんじゃよ」
シベリアから日本へ復員してきたとき、彼はある野の花と出逢うことになる。可憐に咲く、ピンクの妖精・カタクリの花。時は早春、三月三十日。宇野さんが二四歳の誕生日を迎えた日のことだった。まるで自分の誕生日を祝ってくれているような健気さに、一目見惚れしてしまったという。
それを期に宇野さんは、岐阜県高富町を舞台に、集落の人たちの協力を得ながら、カタクリの大群落を作り上げていった。失敗につぐ失敗を、何度も重ねながら。
「気づいたら、もう六十年も経っておったよ」
春の使者

僕は話しを聞かせてもらいながら、彼の目の輝きに惹かれていた。深い悲しみを乗り越えたものだけが持つ、慈しみ深い輝きに。
一般にカタクリの花は、発芽してから七、八年の期間を要し、日の出と共にクルリと開き、日の入りと共にしぼんでゆく。
絶妙のタイミングで、春の使者・岐阜チョウも羽化し、花の間を舞う。
正に花舞いの季節。雨から花粉を守る自然の巧妙な摂理に、感動を覚えた。
「今の季節が一番楽しいよ。沢山の人にカタクリを見てもらって、美しい、綺麗って言ってもらえるんじゃからな」
宇野さんに誘われ、一緒に里山を歩いた。道なき道をどんどん突き進んでゆくと、数十万株ものカタクリが大地をピンク色に染め上げていた。
美しき透明感

「生息地に笹が生えると、カタクリは咲かん。笹を刈ってやらんと、人が少しだけ手を入れてやらんと、カタクリは綺麗に咲いてくれんのじゃ」
彼の目には、カタクリの未来がくっきり映っているような気がした。
ふうわり風が吹き、大群落が揺れ始める。
「宇野さん、八十七歳のお誕生日おめでとう」
足もとから、そんな声が聴こえてきそうだった。
                             ノムラテツヤ拝
花舞の季節
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テーマ:花の写真 - ジャンル:写真

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