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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

夜の帝王

夜道(c)

夜の森には、様々な生命がひしめいている。
秋になり夜が早く訪れるようになると、夜の帝王が姿を現わす。
昨日も、車で夜の森を駆けていた。ライトを遠目にすると、森全体が怪しい薄黄色に浮かび上がり,
非日常的な風景になる。
その光の先を一羽の鳥が飛翔する。長い翼、小さな動体、色は茶色。
最初はファルコンだろうと思っていた。が、木から木へ飛び移る姿を見て、それが夜の帝王だと確信した。鳥類の中でも、食物連鎖の最高位にたつ帝王、それがフクロウだ。
我がパタゴニアの森には、日本にはいない(動物園にはいる)メンフクロウが生息しているのだ。顔がハート型になっていて、お面をかぶっているように見えることからメンフクロウ。それが、闇の中、ようやく枝に止まった。明かりを少しでもずらすとまた飛び立とうと構える。
写真を撮るには明かりが弱すぎた。
メンフクロウ(c)

もう少しだけ近づきたい。ソロソロと車を動かした瞬間、メンフクロウは音もなく闇の中へ消えていった。
飛翔(c)

パタゴニアに1年半の滞在する中で、メンフクロウに逢ったのはこれで6回目くらいだろうか? いずれも、一瞬の出逢いなのだけれど、森にフクロウがいてくれると思うだけで、背筋がピンと伸びる感じがするのは何故だろう?
世界中で、これほど賢い鳥の象徴とされる生命も珍しい。フクロウを賢者の神様と崇めているのは、日本だと筆頭は蝦夷。アイヌ人たちの信仰にどれだけ、このフクロウが出てくることか。フクロウは夜行性の生き物。夜に見るから余計に神秘性が湧くのかもしれない。
でも、僕はまだ見ていないけれど、チリには昼に飛ぶフクロウもいると聞く。一度、自分の目で見て、そこからどんな気持ちがわき上がるのか感じてみたい。
フクロウ・・・・。世界中で、この賢鳥を見つめてきたが、やはり僕の中で一番印象に残っているのはアラスカのフクロウだろう。10代から何度も通った北米大陸最高峰マッキンレーの麓に広がるデナリ国立公園。園内のサベージリバーキャンプ場で、フクロウの子育て現場に出逢ったのだ。
種類はグレーホーンアウル。フクロウの中でも大型のアウルだった。子どもはポワンポワンのグレーの羽根に包まれ、大きくまあるい眼がギョロリ。
フクロウ撮影(c)

数日、母フクロウと、3羽の子フクロウを追った。
この年はネズミの数が多かった。それを見越してフクロウは3羽産んだのだと公園のレンジャーが教えてくれたっけ。
フクロウアップ(c)

パタゴニアの森でメンフクロウを見て、アラスカのグレーホーンアウルを思い出す。
記憶って、本当に不思議だと思う。あの時の草の香り、風の感触まで、手にとるように鮮明に思い出すのだから。そんな時、時空は過去、今、未来と続くのではなく、今しかないことに気付かされる。今の連続でしか生きられないのだ。過去を思い出した時、それも今になるのだから。
この森のキャビンにいるのは、残り一週間。
メンフクロウに、あともう一回くらい、出逢えるかな?
                                    ノムラテツヤ拝
子フクロウ(c)
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