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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

新世界写真681

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深夜3時。
バチッと目が覚めた。
「来なさい」。
そんな声が闇の中から響いてきた。
僕は慌てて飛び起き、カメラザックを背負って外へ出た。
気温は10℃を切っていて、風が吹くと肌寒いほど。
いつものポイントへ行くと、マッターホルンは闇の中で浮かんでいた。
「来なさい」。
もう一度、頭の中で確かに声が鳴り響いた。
撮影地へ着くと、今までで一番晴れ渡っていた。
マニュアルで焦点を合わせ、長時間露光で撮影すると、マッターホルンの奥に無数の星々が流れ、登山家たちのヘッドランプが光の道を作った。
周りには誰もいない。眼前のマッターホルンだけ。気高く、孤高で、色に例えれば濃紫、ディープパープルのエネルギー。その氣を全身で浴びた。
初光がマッターホルンを照らし始める。
赤い。深紅の光がゆっくりと輝きながら落下していく。
30分後、全てが輝きに包まれ、朝日のショーが終わろうとしていた。でも、僕は蛇につままれたカエルのように、何故かそこから立ち去ることが出来なかった。
南側から一条の黒い雲が現れた。一本、また一本とまるで意思を持ったかのように、流れてくる。
そして遂にはマッターホルンを影絵のように浮かび上がらせる。
シャッターを押しながら、僕の意識は飛び始めていた。
ものの1秒くらいだったろうか?
縦雲と横雲が重なり格子を作り上げた。まるで御簾の間からこちらを見透かしているよう。
気が付いたら、その格子は崩れ、真っ黒い雲が全てを覆い尽くしていった。
「光」と「闇」、そのバランスこそが写真の神髄。
「静」と「動」、そのバランスこそが自然の神髄。
僕はマッターホルンとなり、マッターホルンが僕となった瞬間だった。
ようやくシンクロ出来た嬉しさに、僕はありったけの大声をあげた。
ノムラテツヤ拝
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テーマ:スナップ写真 - ジャンル:写真

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