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写真家・野村哲也が贈る“地球の息吹”

鏡の世界

ウェーバー橋(c)

夜中2時。
目覚めるとフロントガラス越しに、宝石のような星空が輝いていた。ラピスラズリ色の空に、黄色やら青やら、赤い星たちが、大地を照らしている。外へ出てみると、無風。パイネは完璧に晴れ渡っていた。
すぐにエンジンをかけ、一番好きなポイントへ向かう。ペオエ湖を右手に見ながら、運転すること20分。ウェーバー橋のたもとに到着した。
ここは両側に小さな丘がせり出し、中央にパイネ山群がでんと聳える絶景地。予想したとおり湖面には山々が姿を映していた。
三脚にカメラをセットし、長時間撮影をする。半月が昇っているからといっても、パイネの稜線にピントを合わせるのに苦労した。
満月の夜(c)

蒼闇は限りなく深い色をたたえ、湖面は更に濃いラピスラズリ色に染まる。天の川が天頂に見え、その中に南十字星が輝いていた。時折、落雷のような氷河の崩落音が、地鳴りとして響いてくる。お月さまの光は、すべての物を妖艶に輝かせる。山も湖も、足もとの草木さえも、蒼く、蒼く、見せる。
そのまま眠らずに、ペオエのいつもの撮影地へ向かう。
ここはパイネ山をダイレクトに対峙できる場所だ。昔から朝日の撮影はココでと決めていた。
早朝のパイネは蒼と黄色、ピンクが混在し、パイネの角から一気に落ち込むキレットは何度見ても、迫力があった。
早朝のパイネ(c)

ここで、少し瞑想し日本の友人の友人の事を願った。
彼は今、病床で横になりながら、生命の輝き、祈りの奇跡を周囲の人に教えてくれている。全ては大丈夫。その方の意思によって、選択されてゆくのだろう。
少しだけ風が出てきた。寒風が肌を切り裂くように流れ、手は凍傷寸前。指の感覚はどんどん薄れてきた。
東の空が、ピンク色なってくる。このときの蒼が僕は好き。
日の出前(c)

日が出ると一瞬で消えてしまうパステルカラーの青。南極で幾度となく眺めた蒼と似ていた。
朝日が姿を見せると、山々は一気に姿を変えてゆく。
朝日(c)

まずは、最高峰のパイネグランデの頂が、透明感のある紅色に染まり始める。数秒の時間をおいて、今度はパイネの角、パイネの塔にも光が入る。
パイネグランデ(c)

雲はひとつもなかった。
パイネは極めて天候が不順な地。今まで10回は訪れているが、これほどまでに天候が安定している朝を僕は迎えたことがない。
パイネの角には、稜線部に光があたり、更に大きく見える。
パイネの角朝焼け(c)

風が少し弱まると、山群が、うっすらとペオエ湖へ姿をうつした。
パイネ山群(c)

パイネの朝は、慌ただしい。あるところまで、朝日が降りたら、場所を変える。陽光の関係で、ペオエ湖まで光が届くのは、あと1時間も後なのだ。パイネは広い。朝の貴重な時間を有意義に使いたかった。
今日はいつになく、風が弱い。無風が作り出す、鏡の世界に、何度も息をのんだ。
鏡のパイネ(c)

パイネグランデと、パイネの角が、湖に完璧に映る姿を撮影させてもらい、前から撮りたかったラルガ湖へ向かった。
やっぱり・・・・・。
1年半のパタゴニア滞在に相応しいパイネの朝だった。
天地が逆転し、僕は自然を、自然は僕をパーフェクトに映し出す。
僕は湖畔沿いで腰を下ろし、ただじぃっと、その湖の世界を見つめていた。
                                  ノムラテツヤ拝  
鏡のパイネ2(c)
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テーマ:自然の写真 - ジャンル:写真

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